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焦点:消費増税でも財政危機懸念、金融システムへの影響も

[東京 29日 ロイター] 消費増税法案が衆院を通過したが、専門家からは財政危機を懸念する声が強まっている。低金利効果の一巡で国債の利払い負担増加が予想されるうえ、社会保障の給付抑制や歳出カットに取り組む姿勢が見えない中で、国民の政府債務への信頼低下を招きかねない。

6月29日、消費増税法案が衆院を通過したが、専門家からは財政危機を懸念する声が強まっている。2010年8月撮影(2012年 ロイター/Yuriko Nakao)

それが巨額の国債を保有する金融システムを巻き込み、財政状況をさらに悪化させるという負のスパイラルを招く可能性があるという。専門家の多くは、まずは基礎的財政収支黒字化の道筋を示し、国民の財政への信認を失わないことが肝要だと提言している。

<財政危機は金融システム破たんを内蔵>

「日本の財政が破たんする可能性はゼロではない」──東京大学経済学部の福田慎一教授は、あらゆる場合に備えが必要だと主張する。消費税率10%への引き上げでも、社会保障の給付は抑えることができず、国の歳出と歳入のバランスである基礎的財政収支の赤字幅は10年たっても解消しないからだ。同教授は「基礎的財政収支の赤字が増え続けていくことが最大の問題」と指摘する。現状を放置すれば、公債残高はとめどもなく増え続け、10年後には対名目GDPの220%と、現在の180%台から大きく跳ね上がる。歳出抑制に動こうとしない状況が続けば、いつか信認を失うことになりかねないという。

日本の場合、家計の金融資産や経常黒字などを理由に、欧州のような市場からの圧力にさらされる国家財政の危機はすぐには起こりにくいといわれているが、深尾光洋・慶応大学商学部教授は、別の危機シナリオが考えられるとみている。

深尾教授は、今月発表した「日本の財政赤字の維持可能性」と題する論文で、政府債務の累増を放置し続け、国民の政府への信用低下を招けば、国債運用をてがける金融機関の信用も同時に低下し、その結果、株式や不動産に資金が流れやすくなると指摘。このため、金融機関は国債買い入れに消極的となり、長期金利が上昇し始めるといったルートが、危機を招くことになると予想する。

福田教授も、巨額の国債を保有する金融機関の存在により、財政危機が金融システム危機を内蔵していると指摘。その両方が同時スパイラル的に発生する可能性があり、「財政破たんシナリオに備えなくていいというのはあまりに乱暴な話だ」と警告する。

<改革なしの増税でかえって税収抑制>

財政再建への国民の信認低下を避けるには、社会保障の給付削減への切り込みや歳出カットへの取り組みが不可欠だ。「将来への不安が払しょくされれば増税下でも本来、信認は維持され、景気はさほど落ち込まないはず」(伊藤忠経済研究所・主任研究員・丸山義正氏)だとみられている。しかし、現在の政治情勢ではそうした期待は持ちにくいとの声も多い。

このため将来不安は解消せず、現役世代の消費はますます抑制されかねないほか、企業の設備投資は海外に流れるばかりとなる。税収上の消費増税効果は、経済縮小の悪影響により、税収減である程度打ち消されてしまう可能性がある。クレディスイス証券では、本来であれば5%の消費増税分にあたる10兆円分の増税効果が見込まれるはずだが、16年度にかけての総税収増分はGDP縮小で5兆円程度に過ぎないと分析している。

同証券チーフエコノミストの白川浩道氏は「消費税増税が計画通りに実施されても、歳出改革が行われない中で名目GDPの低迷が継続した場合、国の財政バランスは改善せず、負債が膨張し続けることになる。消費税増税によっても財政の維持可能性が全く向上しなければ、国民のコンフィデンスはさらに悪化するだろう」とみている。

<欧米財政再建後が日本の正念場>

現在は、財政危機が続く欧州や、財政の崖が問題となっている米国に注目が集まり、日本の長期金利が上昇する気配なない。

しかし問題は、米国や欧州が財政健全化に成功した場合だ。「円から外貨への資金シフトが拡大し、国債金利の上昇要因になり得る」(深尾教授)ことに注意が必要だ。

国債の利払いが現状10兆円程度にとどまっているのは低金利のおかげだが、金利低下による利払い負担の減少は一巡してきており、今後は負債の増加に伴って利払い負担の増加ピッチが上がると予想されている。さらに、仮に長期金利が3─4%程度に上がれば、巨額の残高を抱えているだけに利払いだけで40兆円程度と税収のほとんどを占めることになり、立ちいかなくなることは明白だ。

国民の財政への信認を維持するために、多くの専門家が「まず基礎的財政収支の黒字化計画への道筋をつけること」(福田教授)だと繰り返す。

(ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志)

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