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コラム:円高阻止目的の「日銀外債購入」に潜むリスク=佐々木融氏

[東京 9日 ロイター] 日銀は9日、予想通り政策金利を据え置き、また資産買入等の基金の額も変更しなかった。JPモルガンは、来月の日銀政策決定会合で資産買入等の基金の額が増額されると予想している。

8月9日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長は、円高対策としての日銀による外債購入案に懐疑的な見解を示した。提供写真(2012年 ロイター)。

最近、この資産買入基金の枠組みなどを介して、日銀が円高対策として外債を購入できないかという提案が各方面から出ている(今回が初めてではないが)。筆者も、この件について、顧客から意見を求められる場面が増えた。この議論には、何を変更して、何を目的に実行するかといった論点整理が重要なのだが、一般的にそれが十分になされているとは思えない。以下、順を追って日銀の外債購入論に潜む問題点を説明したい。

<為替操作を目的としなければ現状でも可能>

最初に明確にしなければならないのは、日銀は現在、外貨の売買を行うことは認められているが、為替相場に影響を与えることは許されていないということだ。

日銀法第40条第2項には、「日本銀行は、その行う外国為替の売買であって本邦通貨の外国為替相場の安定を目的とするものについては(中略)国の事務の取扱いをする者として行うものとする」と規定されている。つまり、日本の為替政策は明確に国(財務省)の責任であると規定されているのである。したがって、「日銀が外債を購入すべきだ」という主張が、それによる円安誘導を目的としているならば、まず考えなければならないのは日銀法改正である。これは日銀の仕事ではなく、政府の仕事である。

次に考えなければならないのは、「日銀が外債を購入すべきだ」との主張の中には、為替相場に影響を与えることを目的としている場合と、為替相場に影響は与えず金融政策の一環として行うことを目的としている場合があるという点だ。

前述した通り、前者の場合には法改正が必要である。ただし、後者なら現状でも可能だ。たとえば、2001年11月の日銀金融政策決定会合で、当時の中原伸之審議委員がベースマネーを拡大させるため、国債購入の補助的な手段として外債購入を提案している。

中原氏は、日銀法第40条第2項を理由に、「介入ではなく、ベースマネーの増加ということをはっきりさせる」ために、「毎月2000億円程度」などと金額を明示して行うことを提案していた。先月就任した佐藤健裕審議委員も「為替操作を目的とした外債買入れということではなく、資金供給を増やすための外債買入れという位置づけ」として外債購入の可能性を選択肢の一つとして挙げている。繰り返すが、これは現状でも可能である。

もっとも、「日銀が外債を購入すべきだ」との主張は、基本的には為替を円安方向に動かしたいという意図を含むのだろう。したがって、ここからの議論は、法改正が行われ、日銀が為替相場に影響を与えることを目的に外債を購入できるようになったと仮定して進めたい。

<為替介入の効果が上がらないスイスの教訓>

まず、そうなったとしても表面的に目に見える変化は生じない。なぜなら、現在、為替政策(つまり介入)は財務省の専管事項であるが、財務省の依頼を受けて介入を実行しているのは日銀だからである。

日銀が円高対策で外債を買うために円を売っても、現在行われている介入と表面的には何も変わらない。円を外国為替市場で売るのは、今もその時も日銀である。

ただし、目に見えないところでは変化はある。それは円資金、つまり介入原資の調達方法だ。現在の介入は財務省の専管事項なので、円売り介入に必要な円資金は短期国債を発行することによって賄われる。すなわち、現在の介入は政府が市場から円資金を調達して外貨を購入しているのである。

一方、介入を日銀の仕事として実施するようになれば、日銀は円を無制限に発行することができるので、介入原資の調達が容易になる。要するに、今まで以上に大量介入、場合によっては無制限に円売り介入を行うことが可能となる(そうなれば、日銀に介入権限を渡した方が良いのではないかと考えるのが自然だろう)。

ここで最後の疑問が浮かぶ。本当に円売り介入を無制限にできるのか、やるべきなのかという点である。

昨年、日本は短期国債を発行して、円資金を調達し、約14兆円の円売り介入を行った。その結果、昨年12月に米国財務省に非難されることとなった。為替相場はどちらかの通貨が弱くなれば、逆側の通貨は強くなる。つまり、円売り介入を行って、円を弱くすれば、米ドルは強くなるので、ある程度相手の意向も汲んで実施する必要がある。

要するに、いくら日銀に介入権限が移譲され、無制限に円資金を調達できるようになっても、米国との関係を考えると、結局、介入可能額は財務省が権限を持っている現在とあまり変わらない可能性がある。そうだとすれば、額も変わらず、円売りを実行する主体も変わらないわけだから、日銀が介入権限を持って、円安にすることを目的に外債を購入しても、現在と何も変わらないことになる。何も効果が変わらないことのために法改正を行うより、他にやらなければならないことはたくさんあるだろう。

百歩譲って、米国が無制限の円売り介入を容認したとする。本当に日銀は無制限に円を発行し、米国債を購入し続けるべきなのだろうか。

実は現在、スイスがそれに近い行為を実行している。スイス中銀はユーロ/スイス相場を下支えするために、大量のユーロ買い・スイスフラン売り介入を実行している。この結果、スイス中銀のバランスシートには国内総生産(GDP)の70%以上の規模の外貨が積み上がっている。そして、このうちの約60%がユーロに集中している。それでもユーロ/スイスは上昇するどころか、スイス中銀が下支えしている1.20フラン近辺で全く動かなくなっている。

スイス中銀は現在、膨大な為替リスクを抱えている。日銀法を改正して、介入権限を日銀に委譲し、米国政府を説得して、日本も無制限の円売り介入を行うかどうかの判断は、スイス経済の帰趨(きすう)を見極めてからでも良いのではないだろうか。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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