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アングル:新興国に食糧インフレ懸念、穀物高で政策自由度狭める

[東京 22日 ロイター] 米国の干ばつに端を発した穀物価格の高騰が、新興国の政策自由度を狭めかねない状況になっている。小麦や大豆など食糧価格の高騰だけでなく、トウモロコシを飼料とする豚肉など畜産物価格の上昇が予想され、アジア新興国の家計を直撃し購買力の低下を招く懸念がある。

8月22日、米国の干ばつに端を発した穀物価格の高騰が、新興国の政策自由度を狭めかねない状況になっている。写真は7月、インディアナ州で撮影(2012年 ロイター/John Sommers II)

ただ、一般物価のインフレの広がりは、景気刺激を狙った金融緩和政策の維持を困難にして、中国をはじめとした新興国経済の減速が予想以上に長引くリスクが浮上してきた。

<米干ばつの影響、新興国食品価格の上昇招く>

米干ばつの影響で、21日に大豆先物が過去最高値を付けた。世界最大の大豆輸入国である中国では、輸入業者が米国での大豆取引価格の急騰を理由に輸入大豆を買い控えている。日本の農林水産省国際局では「中国でも価格の高騰している期近物での購入契約は避けているはず。しばらくは在庫で食いつないで、秋までに価格が落ち着くのを待って先物の契約を入れようとしているのでだろう」と見ている。

トウモロコシも今夏に過去最高値を更新。米国では収穫が過去10年で最低水準となる見通しにあるためだ。中国は、国民の所得向上による肉食の普及で、家畜の飼料向けの需要が急増し、価格高騰前の今年前半は輸入量が大幅に増加した。しかし輸入業者は7月ごろからの高値による新規の輸入を見合わせている模様。このため、中国政府は価格高騰を受けてトウモロコシとコメの備蓄を放出する方針を明らかにしている。

通常、輸入穀物の国内物価への影響には数か月のタイムラグがあるため、新興国ではこの秋から年末にかけて食料品価格の上昇が始まるとみられている。いつまで高値が続くかは今後の収穫量次第。今年の不作が明らかとなれば、来年の豊作が判明しない限り高値が続く可能性が大きい。

穀物価格の高止まりは食品価格を直撃する。飼料となるトウモロコシの価格上昇について経済の専門家は「中国では、消費量の大きい豚肉価格への波及が心配」(三菱東京UFJ銀行経済調査室調査役の萩原陽子氏)という。エンゲル係数の高い中国や新興国では食品価格の値上がりは家計の実質購買力を低下させる。

他の新興国でも事情は同様だ。ロシアやインドネシアなどでも家計支出に占める食品価格のウエートが3割近いと言われている。

<新興国の政策自由度縛る、回復シナリオに狂い>

こうしたアジア諸国の購買力低下とインフレ懸念は、景気減速下でようやくインフレが収まり、景気刺激を狙って金融緩和に舵を切った中国政府の「政策の選択肢が狭まる」(萩原氏)ことになる。さらに一般物価に波及した場合には、低所得者層の生活を直撃し、社会不安につながることも懸念される。状況次第では、景気減速下にもかかわらず、インフレ抑制に向けて金融緩和策を転換せざるを得ない状況に追い込まれる可能性も否定できない。

実際、新興国の中には、政策が手詰まりになりつつある国も出てきた。インドでは降雨量が少なく農産物価格が上昇し、低成長下でも利下げに踏み切れていない。インド準備銀行は食品価格の上昇は金融政策では制御できず、利下げすればインフレ期待を高めてしまうとしている。またロシアでは、食品価格上昇を主因に7月の消費者物価上昇率が前年比5.6%となり、通年の目標(5─6%)を達成できるか危ぶまれており、ロシア中央銀行は8月に主要金利を据え置いた。

日本の政策当局でも、穀物高の影響が新興国経済の回復に水を差すことを懸念し始めている。米干ばつの影響は世界経済にとって「想定外のリスク」(政策当局者)という。

日銀は、インフレ圧力の低下や金融緩和を背景に新興国の景気が先行き回復していくシナリオを立てていたが、最近の情勢からみて回復時期が遅れそうだと見通しを弱めている。8月の金融経済月報で「輸出を取り巻く環境にはっきりとした好転の動きは確認されておらず、輸出の改善が明確になるには、なお時間を要すると考えられる」とし、回復時期の不透明感をにじませている。食糧価格高騰という新たなリスクが浮上し、不透明感がますます強まりそうだ。

先進国では欧州をはじめ、米国経済も力強さにかけるもとで、世界経済は新興国頼みの様相を呈している。そうした中で穀物価格高止まりが続くことになれば、来年にかけ当面世界経済は低迷から抜け出す糸口が見つかりそうにない。

(ロイターニュース 中川泉;編集 橋本浩)

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