[東京 14日 ロイター] 野田佳彦首相が定数削減での自民党の協力確約を条件に16日の衆院解散を言明したことで、為替市場で円売りが加速した。
日本の景気悪化や財政規律の緩み、ユーロ/円の底打ち反転と円安進行への素地が出来上がるなかでも、市場のリスクオフムードから多くの投資家は動けずにいたが、野田首相の発言がドル買い/円売り攻勢の「号砲」となった。ただ、本格的なドル高/円安基調に転換するかは、米国で株安と金利低下の流れが転換するかがカギになる。
午後2時50分過ぎ、沈滞ムードが漂っていた為替マーケットの空気が一変した。野田佳彦首相が12月16日の衆院選実施を民主党・輿石東幹事長に提案したとの報道に続き、午後3時からの党首討論では野田首相が今週16日の解散を言明したためだ。
200日移動平均線(14日=79.69円)を下回る状況が常態化していたドル/円は、一気に79.99円まで上昇。バークレイズ銀行・トレーディング部の小川統也ディレクターによると、79.60円を突破した後、さまざまな外国人投資家が一斉に買ってきたという。
海外の短期筋は早くも総選挙後の自民党を中心とした政権の樹立を見越した動きを強めているとされ、「(安倍晋三政権当時の)上げ潮路線が想起され、円安/株高が予想されている」と大手邦銀の関係者は話す。
自民党の安倍晋三総裁はきょうの党首討論で、16日の解散に向けて全面的に協力すると表明。今夕の講演では、新政権下での大胆な補正予算の編成のみならず、日銀法改正やインフレターゲットの導入にも踏み込んだ。
もともと、円売り再開に向けた素地は整っていた。日本の貿易赤字の定着に加えて、9月の経常収支では単月ながら季節調整済で初めて赤字に転落。日本の7―9月期実質国内総生産(GDP)1次速報は前期比年率マイナス3.5%となり、米国の7―9月期実質GDP速報値が前期比年率プラス2.0%となったのとは対照的な結果となった。13日には民自公3党が特例公債法案の修正で合意したが、市場では即座に「財政規律の緩み」(外資系金融機関)との懸念が浮上した。
ただドル/円の基調を決めるのはやはり米国要因との見方も多い。円売り要因が山積にもかかわらずドル/円が圧迫されていたのは、オバマ米大統領再選後、米国市場で株安・金利低下の流れが続いていたためだ。ドルは1週間ぶりの80円回復が迫っているが、今晩、早速、米国市場の「洗礼」を受けることになる。
こうしたなか、バークレイズ銀行の小川氏は「今回のドル/円の上昇場面で参加者が買ったのが79.50―79.60円というレベルなので、79.40円をホールドしていればドル/円に関してはさらに上サイドがあってもおかしくない」との予想を示している。
(ロイターニュース 和田崇彦;編集 伊賀大記)
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