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焦点:米アップルと韓国サムスン、「宿敵かつ友人」は継続へ

[サンフランシスコ/ソウル 10日 ロイター] 米グーグルGOOG.Oの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載したスマートフォンで韓国のサムスン電子005930.KSが「iPhone(アイフォーン)」の市場シェアを奪い、米アップルAAPL.Oの利益と株価を押し下げ、ハイテク業界の盟主の座も脅かす。そのシナリオは、故スティーブ・ジョブズ氏が最も恐れていたものだった。

2月10日、米アップルと韓国サムスンの訴訟合戦が落ち着きをみせる中、共通の敵を抱える両社には、利害の一致も非常に多いことが一段と明確になっている。写真は両社のスマホ。昨年8月ソウル市内で撮影(2013年 ロイター/Lee Jae-Won)

もちろん、ジョブズ氏はこのシナリオへの対応策も用意していた。アップル製品のコピーを市場から締め出すことを目的とした法廷闘争だ。しかし、アップルがサムスンを特許侵害で提訴してから2年近く経ち、米陪審団によるサムスンの特許侵害認定からも半年ほど過ぎたが、アップルがサムスン製品の販売を差し止める可能性は日を追うごとに薄くなっている。

裁判所の判断をみていると、スマホをめぐる特許紛争は袋小路に入りつつあるように見える。アップルは、サムスンなど競合他社が自社製品を模倣し、売り上げに大きな損害を与えたと証明することはできていない。成長するモバイル・コンピューティング市場では、両社の複雑な関係が新たな局面を迎える可能性も出てきた。

事情に詳しい関係筋によると、ジョブズ氏の後を引き継いだティム・クック最高経営責任者(CEO)は当初、サムスンを提訴することに反対だった。サムスンが「iPhone」やタブレット端末「iPad(アイパッド)」の部品サプライヤーとして重要な役割を果たしていることが主な理由だという。アップルは昨年、80億ドル(約7500億円)相当の部品をサムスンから購入した。

一方のサムスンは、アップルとの関係から市場動向を察知し、同社製品によく似たスマホやタブレットを生み出し、大きな恩恵を受けてきた。

アップルとサムスンがスマホ市場でし烈な競争を続ける中、両社の強みと弱みは互いに補完する関係にもなっている。アップルのオペレーション責任者ジェフ・ウィリアムズ氏は先月ロイターに対し、サムスンは重要なパートナーだと強調、部品供給面では強力な関係を築いていると述べた。

訴訟合戦が落ち着きをみせる中、ブラックベリーBB.TOやマイクロソフトMSFT.Oなど共通の敵を抱えるアップルとサムスンには、利害の一致も非常に多いことが一段と明確になっている。

<関係の始まり>

アップルとサムスンの協力関係の始まりは2005年にさかのぼる。アップルは当時、携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)シャッフル」や「iPodナノ」、開発中の「iPhone」でハードディスクを使わないことを決めており、フラッシュメモリーを安定供給できるサプライヤーを探していた。

2005年のメモリー市場は極めて不安定だった。両社の関係をよく知る人物によると、アップルは財務基盤が強固なサプライヤーを探しており、サムスンは当時、NANDフラッシュメモリー市場で約50%のシェアを持っていた。

アップルとの契約により、サムスンは「iPhone」や「iPad」のアプリケーション・プロセッサー(AP)を供給することになった。APの開発は当初、英半導体設計会社ARMホールディングスARM.Lの設計をベースに両社が共同で行っていたが、次第にアップルが完全に支配権を握ることになった。現在では、サムスンが担当するのはテキサス工場での部品組み立てのみとなっている。

両社の協力関係は、互いの戦略やオペレーションに関する知識も深め合う結果となった。特に、iPhone向けプロセッサの唯一のサプライヤーとしてのサムスンの立場は、アップルがスマホ市場の将来性をどう見込んでいたかという「価値あるデータ」の取得を可能にした。

しかし、部品の知識や資金、豊富な情報を持っていても、それがスマホ市場での成功を約束する訳ではなかった。2009年にサムスンが投入した端末「オムニア」はユーザーにはかなり不評だった。

ただ、サムスンはひそかに別の計画も進めていた。米裁判所に提出された内部文書によると、同社のモバイル部門責任者、申宗均氏は2010年初めに「『iPhone』の登場は、われわれが今までの方法を変える時が来たことを意味する」と社内メールで指摘していた。サムスンは同年、iPhoneによく似たスマホ「ギャラクシーS」を発売している。

<対立>

ジョブズ氏とクック氏は、サムスンの最高幹部がクパチーノを訪問した際に不満を表明。当時の状況に詳しい関係筋によると、アップルは、サムスン側がアップルの懸念を理解してデザインに変更を加えると、間違った期待をしていた。

2011年初めには「ギャラクシー・タブ」がリリースされ、アップルが最も恐れていたことが現実となった。ジョブズ氏らは同端末を「iPad」の明らかな盗作だとみなしていた。

クック氏はサムスンとの関係悪化を懸念し、同社の提訴に反対を表明。しかし、サムスンが両社の関係を隠れ蓑にしていると考えたジョブズ氏はしびれを切らしていた。

アップルは11年4月に米国でサムスンを特許侵害で訴え、欧州、アジア、オーストラリアでも訴訟を展開した。昨年8月に米連邦地裁の陪審団が、サムスンによる特許侵害を認め、10億5000万ドルの損害を認定した際、サムスン製品の販売差し止めが可能になるようにもみえた。

実現すれば、スマホ業界地図に大きな変化がもたらされていたはずだ。しかしアップルは、サムスン製品の差し止めを判事を納得させるまでには至っていない。

<静かな協力>

訴訟では非難合戦を繰り広げているアップルとサムスンだが、実際の両社の関係は表面的な言葉ほど悪化したわけではない。ある弁護士は「(公判では)大げさに振る舞うが、現実にはそれほどヒートアップはしていない」と述べた。

とはいえ、これまでの関係に傷がついたことは間違いない。ゴールドマン・サックスやサンフォード・バーンスタインなどのアナリストによると、アップルはAP組み立ての発注先を台湾積体電路製造(TSMC)に変更する可能性が高い。

しかし韓国の証券会社は、サムスンが依然としてフラッシュメモリーの主要メーカーであることから、アップルがサムスンをサプライヤーから外すことは有り得ないと指摘している。

市場でのリード維持と拡大を目指す両社は現在、相手が得意としてきた分野に焦点を当てた戦略に着手している。

サムスンはアップルのユーザーを揶揄(やゆ)するようなテレビ広告を制作し、広告宣伝費を大幅に増加した。印象的なテレビCMは、これまでアップルの成功の立役者だった。広告調査会社カンター・メディアによると、「ギャラクシー」だけに限っても米国での広告費は2012年1─9月に2億0200万ドル近くに達し、前年の6660万ドルを大きく上回った。

一方でアップルは、同社向け製品の加工に必要な機械を委託先企業に導入するための大規模な設備投資を実施。2012年度の同社の設備投資額は約100億ドルに上り、今年度もさらに100億ドル費やす見通し。11年度は46億ドル、10年度はわずか26億ドルだった。

ただ、アップルとサムスンの戦略は依然として大きく異なる。アップルが市場に投入するスマホはiPhoneのみで、ラインアップは4種類。上位機種だけに注力し、バリエーションは必要最小限に保っている。

対照的に、未来アセット証券によれば、サムスンは37機種を展開し、地域の特性に合わせた製品を開発。価格帯も非常に幅広い。

アップル製品は米国で人気が高く、サムスンはインドや中国などで優位に立っている。アップルの従業員数は全世界で6万人と比較的少なく、製造などはパートナー企業に委託している。サムスン電子は傘下の約80社を含めると計36万9000人が勤務しており、はるかに垂直統合された企業だ。

こうした違いがあればこそ、両社にとってより優れた戦略は全面的な対立ではなく、静かな協力関係を構築していくことになるのだ。

(原文執筆:Poornima Gupta記者、Miyoung Kim記者、Dan Levine記者、翻訳:本田ももこ、編集:宮井伸明)

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