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焦点:中国の自給自足は「臨界点」、食品スキャンダルで揺らぐ理想

[北京 23日 ロイター] 食の安全が懸念される中国で、今度は広東省広州市で販売されていたコメが重金属のカドミウムに汚染されていたことが新たに分かった。一連の食品スキャンダルは、中国政府にフードチェーンの抜本的改革を迫るだけではなく、毛沢東が掲げた「自給自足」の理念も台無しにするかもしれない。

5月23日、食の安全が懸念される中国。広東省広州市で販売されていたコメも重金属のカドミウムに汚染されていたことが新たに分かった。写真は昨年12月、安徽省・合肥のスーパーでコメを買い求める消費者(2013年 ロイター)

中国共産党には食糧を安定確保する能力がある──。党はこれまで長きにわたってそれを強調し続けてきた。需要の拡大と急速な都市化で耕作地が減少する中でも、95%以上の自給率を維持すると明言している。

こうした背景から質より量を追求することにつながり、汚染された土壌からでもとにかく「豊作」を目指してきた。「中国は人口が多く、われわれは食糧不足に直面していた。それゆえに政府は量を求めるようになった」と、中国社会科学院・農村発展研究所のLi Guoxiang氏は説明する。

ただ一方で、有害物質メラミンが混入した粉ミルクが流通していたことや、コメや野菜に毒性のある重金属が混入していたことが表面化し、「食の安全(品質確保)」は「食の安全保障(量の確保)」より大きな懸念になっている。政府にとっては、食品輸入拡大が、不本意ながらも最善の選択肢と言えるかもしれない。

汚染問題に対する世論の反発が高まる中、政府は過去30年間の急速な産業発展で破壊された環境を一部再生させる方針を打ち出した。しかし中国が経済成長を維持し、都市部に移り住んだ数百万人の雇用を確保しつつ、世界全土の9%に過ぎない国土で世界人口の20%分の食料を確保したいとなれば、問題の規模はとてつもなく大きなものになる。

「量の追求は依然として前提条件だ」と語るLi氏。「一方で政府は安全面でも力を入れており、高品質の食料の輸入が今後間違いなく増えてくるだろう」と予想する。中国はすでに世界最大の大豆輸入国であり、牛肉など他の土地集約的農産物も輸入を拡大せざるを得ないとの声もある。こうした動きが広がれば、オーストラリアのような農業大国にはプラスに働くこととなる。

中国政府は主食に関しては自給率の高さを維持するとしているが、米農務省(USDA)の予測によると、コメやトウモロコシの輸入量は今年過去最高水準を記録しそうだ。

<農業と工業の両立>

広東省の先週の発表によると、広州市の検査官が市内18カ所を調査したところ、8カ所から国の基準値である1キログラムあたり0.2マイクログラム以上のカドミウムが検出された。

専門家らは健康リスクは極めて低く、中国は諸外国と比べてもコメに対して厳しい基準を設けていると主張しているが、中国版ツイッター「新浪微博(ウェイボー)」では当局への批判が相次いだ。広州市は汚染されたコメが同国中部の穀倉地帯、湖南省で収穫されたものだったとの発表を余儀なくされた。

湖南省のコメ生産量は年間3000万トンで、国全体の15%を占める。だが同時に、有毒物質でもあるヒ素やカドミウムなどを産出する鉱山が広がる土地でもある。鉱山から流れ出た廃水はそのまま農地にも流れ、採掘後の廃棄物処理も不適切に行われていることが多い。

広東省生態環境与土壌研究所のChen Nengchang氏は、「湖南省を『食と鉱業の複合体』とも呼ぶが、合理的なやり方ではない」と警鐘を鳴らす。「中国の人口が多いことと土地不足が問題なのであり、それに対処するには別の方法を模索する必要がある」と語った。

食料供給を確保するため、中国政府は開発用地の規模に上限を設けると発表した。これによって、農地の工業利用が禁止されるだけでなく、汚染で荒廃した土地の再生も義務付けられることになる。一部の研究者は、中国では農地の最大7割が汚染の影響を受けていると試算している。土壌汚染は数十年にわたるものであり、農地として再び利用するなら土地を元通りにしてからでなければならない。

それには時間も費用もかかる。ニューヨークに拠点を置く非営利団体「ブラックスミス研究所」のリチャード・フラー氏によると、都市部では不動産価格が高騰しているため、土地の除染資金は比較的簡単に捻出できるが、農村部ではより難しい課題になるという。

<真犯人は農業>

中国の環境保護省は先月、全国で行った土壌調査の結果、少なくとも100年前のものとみられる重金属が検出されたと発表した。また、使用が禁止された殺虫剤もみつかり、農家が生産量を増やさなければならない圧力にさらされていた証拠だとみられている。

「海や河川の水質汚濁、重金属による土壌汚染、そして大気汚染は環境破壊の深刻な原因だが、その主犯は農業だとみている」。中国人民大学・農業与農村発展学院の温鉄軍氏は指摘する。

専門家らによると、農地でまかれた殺虫剤の約6割は不適切に用いられたもので、食料流通網をさらに汚染する結果を招いたという。

こうしたことを背景に、農業当局者らは自給自足の理念に疑問を抱くようになりつつある。「国益を損なわないという条件であれば、適切に輸入量を増やすことは国内の資源や環境への圧力を弱める点でメリットになるだろう」。農村政策に関する共産党の作業部会の陳錫文氏は、今月のフォーラムでこのように語った。「海外に目を向けた積極的な戦略を取っていくことは必要不可欠であり、世界市場をフルに利用しない手はない」。

(原文執筆:David Stanway、Niu Shuping、翻訳:梅川崇、編集:宮井伸明)

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