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インタビュー:物価目標は期限延長が現実的=早川英男氏

[東京 25日 ロイター] -富士通総研の早川英男エグゼクティブ・フェロー(元日銀理事)は、2年目を迎えるアベノミクスの課題について、岩盤規制への切り込みなど成長戦略の強化によって「三本の矢」のバランスを早期に回復させる必要があるとうったえた。

12月25日、富士通総研の早川英男エグゼクティブ・フェロー(元日銀理事)は、2年目を迎えるアベノミクスの課題について、岩盤規制への切り込みなど成長戦略の強化によって「三本の矢」のバランスを早期に回復させる必要があるとうったえた。都内で20日撮影(2013年 ロイター/Yuya Shino)

現在は金融緩和と財政出動というメリット先行型の政策に偏重しており、このままなら成長力強化や財政再建は不可能になるとの認識を示した。

金融政策に関しては、日銀が目指す2年程度での2%の物価安定目標の実現は難しいとし、来年4月の消費増税後に想定される世論なども考慮すれば、追加緩和ではなく、2年という達成期限の延長が現実的と指摘。財政規律に緩みがみられる中で、物価目標の早期達成に固執することは、利払い費の膨張を招く「破滅的なシナリオ」とも警告した。

インタビューは24日に実施した。詳細は以下の通り。

──これまでのアベノミクスの評価は。

「円安・株高が実現し、景気もよくなってきた。東京オリンピックの招致成功も含め、国民全体に自信や希望が戻ってきたという意味では大いに評価すべき。ただ、諸手を挙げて大賛成とばかりは言えない」

「アベノミクスの三本の矢は、一緒になることに意味がある。今は1番目(金融緩和)と2番目(財政政策)の矢がフル稼働している一方、3番目の矢が休んだままになっていることが最大の問題だ」

「第1、第2の矢は国民のメリットが先行し、後でコストが出てくるという性質の政策。一方、第3の矢である成長戦略は、構造改革という点で一部の国民に痛みを強いるが、長い目でみれば成長力の強化、潜在成長力の上昇につながる」

「第1、第2の矢で景気をよくして内閣支持率を上げ、そのポリティカル・キャピタル(政治資本)で痛みを伴う構造改革を実行することが必要だ。3つがセットになって初めて意味がある。しかし、今は美味しいものだけを先にばらまいて、痛みを先送りしており、これでは成長力の強化はできない。これがアベノミクス1年目の光と影だ」

──アベノミクス2年目に向けた課題は。

「三本の矢のバランスを元に戻さなければならない。財政依存を控え、成長戦略・構造改革に取り組み、潜在成長率を引き上げていく方向への転換が必要だ。そのためには現在打ち出している成長戦略よりもさらに踏み込み、岩盤規制に切り込むことが不可欠」

「具体的には雇用、医療、農業などの分野が指摘できるが、全てをやるのは難しくても1つを実行することが大事だ。逆に1つもできなければ、市場の反乱が起こる可能性は常にあると思う」

──スピード感が肝心ということか。

「今年の夏から秋が最大のチャンスだったが、一番大切な時期を消費増税を上げる上げないという議論で浪費してしまった。とても残念だが、まだチャンスはある。ねじれ国会が解消されたことで、次期通常国会では3月中に予算が成立する可能性が大きく、4─5月には国会日程の余裕ができる。1─2月に規制改革、構造改革を練り上げて法案化し、3月に国会に上程すれば4─5月には間に合う。もう1度チャンスがあるので、そのチャンスを逃してはならない」

──アベノミクスによってデフレから脱却することは可能か。

「デフレ脱却の条件として、マネタリーベースや期待などではなく、賃上げが必要だ。通常であれば賃金に政府が口出しするのはよくないが、これまでのデフレ均衡を脱するには、この局面で政府が掛け声を掛けることは大事だと思う」

「今回は消費増税があり、放っておくと賃金が目減りしてしまう。さらに労働需給がタイトになっていることに加え、賃上げに向けた空気が醸成されつつあり、若干のベースアップが実現することになるだろう。それによって1%前後の消費者物価上昇率が維持されることになるとみているが、(物価)2%が展望できるほどには上がらないだろう」

──日銀の金融政策も2年で2%の物価目標達成に向けて正念場を迎える。

「正直に言って、2年で2%の物価安定目標を達成するのは難しいと思う。2%は長い目でみて望ましいし、絶対できないものでもない。しかし、2年という時限については、そこまで頑張らなければいけないのだろうか」

「来年4月に消費税率が上がり、それだけで計算上は2%程度の物価上昇要因になる。消費増税後に、その要因を除いてさらに物価を2%上げると強調すれば、国民からたたかれかねない。2%は無理でも1%前後のプラスは維持できる可能性があり、それで十分ではないのか。それでも頑張るというのは、国民の意向を無視するものであり、そこまでやる必要はないと思う」

──物価目標達成が難しくなっても追加緩和は必要ないのか。

「追加緩和は、かえって出口の負担が増すことになる。むしろ2年という時限を延ばし、目標を弾力化することが望ましい。多くのエコノミストは、日銀が来年4月末の展望リポート(経済・物価情勢の展望)公表のタイミングで追加緩和を行うとみているが、その時点では消費者物価の上昇率はピークアウトしていないとの見方を強めている。このため、日銀としては4月の展望リポートを引き続き強気で乗り切っていく可能性があり、その後は消費増税の影響や、世の中の雰囲気を見極めながら判断していくことになるだろう」

──財政政策の効果と安倍政権の財政規律をどうみるか。

「三本の矢で考えた場合、最初に経済を回していく段階では金融緩和だけでなく、ある程度の財政の援軍も必要だった。しかし、今秋には景気が動き始めていたにもかかわらず、消費増税への対応として5兆円程度の景気対策を決めたのは間違いだった」

「2014年度の当初予算案も消費増税が実施される割には、新規国債発行額の減少が少ない。2015年10月の(2度目の)消費税率引き上げを判断する時に、もう1回という話にもなりかねない。このままでは2020年度までの基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化(という財政健全化目標)の達成は不可能だ。財政規律という点では、非常に問題の多いことをやっている」

「デフレから脱却すれば、(金利が上がり)利払い費は増える。このためデフレ脱却が明確になる前に、財政の持続可能性を確立する必要がある。2年以内に物価を2%にしたいのであれば、財政再建も急ぐべきだが、現在は金融緩和が財政を支えている構図になっている」

「財政再建を先送りしながら、物価目標達成だけを急ぐというのは破滅的なシナリオといえる。今は日銀による大規模な国債買い入れによって国債市場がリスク感覚を失っており、海外金利が上昇しても日本の長期金利は上がらない構図になっているが、こうした状況は未来永劫続くものではない」

伊藤純夫 編集:田巻一彦

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