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震災から3年、「もろさ」変わらぬ日本市場で漂い始めた停滞感

[東京 10日 ロイター] -あす11日で東日本大震災から3年。アベノミクスで息を吹き返した日本市場だが、そのもろさは変わっていない。内需面の「復興」は遅れており、企業業績が回復したのは主に円安のおかげだ。

3月10日、東日本大震災から3年が経ち、アベノミクスで息を吹き返した日本市場だが、そのもろさは変わっていない。写真は都内の証券会社の株価ボード。3日撮影(2014年 ロイター/Issei Kato)

一方、原発がストップしたことで円安はエネルギー輸入額を急増させ、経常収支は赤字化。株式だけでなく国債でも海外投資家の動向に神経質になる日が到来する可能性がある。デフレ脱却に向かってはいるものの、肝心の構造改革や成長戦略は期待ほど進んでおらず、マーケットには停滞感も漂い始めている。

<海外勢次第の日本株市場>

日経平均.N225は震災前の2011年3月10日に1万0434円だったが、福島第一原発の放射能漏れ事故が明らかになると、同15日には8227円まで急落した。その後、1年半以上、8000円─1万円のレンジで推移。その間、株価的には「復興」をほとんど評価してこなかったことになる。

市場の評価がガラリと変わるのは、今の「アベノミクス相場」が始まってからだ。民主党の野田佳彦前首相が事実上の解散を示唆する前の日経平均は8661円(13年11月13日)だったが、13年末には1万6291円まで急騰した。「復興」の進展が評価されたわけではなく、アベノミクスによる金融緩和や積極財政によるデフレ脱却を期待した海外投資家が、日本株を約17兆円買い越したためだ。

海外投資家は、2011年から変わらぬ買い主体で、昨年までの3年間で日本株を約25兆円買い越している。

一方、その間に10兆円近く売り越したのは、日本の個人投資家だ。今年からNISA(少額投資非課税制度)などが始まったが、海外勢から国内勢へのシフトは思うように進んでいない。年初からの株安は需給的にみれば、海外勢が売り越しに転じたからであり、海外勢の動向に左右されるぜい弱な体質から、日本株は抜け出せないままだ。

<円安依存の業績回復>

国内企業の業績は、この3年で回復してきた。被災した部品工場などは復旧し、ズタズタに切り裂かれたサプライチェーンもほぼ元に戻った。2013年度は大企業で約6割の増益となる見通しで、トヨタ自動車7203.Tなど過去最高益を視界に入れる企業も多い。予想PER(株価収益率)は15倍台と、割高な水準まで海外勢の買いが日本株を押し上げているわけではない。

ただ、その増益分を稼いだのは円安によるところが大きい。昨年4月の日銀の「異次元緩和」も加わって、円安と株高が同時進行。ドル/円は震災直後の3月17日には76.25円まで下落。その後も80円を中心としたレンジ取引だったが、アベノミクス相場で急騰し、昨年末には105円台を付けた。しかし、貿易統計では、円安にもかかわらず輸出数量は伸びていないのが現状だ。

「稼ぐ力は自動車産業などでは戻ってきているが、ハイテクではむしろ落ちているようだ。政策面では、成長戦略や少子化・高齢化対策など肝心なところが進んでいない。見かけ上の景気回復ではなく、雇用や賃金など中身を伴わないと、国内投資家が本格的に動き出すのは難しいのではないか」と、しんきんアセットマネジメント投信・運用部長の藤原直樹氏は指摘する。

<円債市場でも海外勢の存在感増すか>

また、円安は良いことばかりではない。震災後、原発は稼働を停止し、火力発電所などへの負担が大きくなったことで、原油などエネルギー輸入が急増。円安は輸入価格を上昇させ、貿易赤字は昨年、過去最大の11兆円に膨らんだ。所得収支が食われるほどの巨額な貿易赤字となり、1月の経常赤字は過去最大の1兆5890億円となっている。

経常赤字は、日本がトータルで海外への支払いのためにドルなど外貨を調達しなければならなくなることを示す。資金フローの面で言えば、これまでは国内でまかなえていた国債の消化を海外に頼らなければならなくなるため、盤石だった国債市場にも「もろさ」が生じる可能性がある。

「中長期的には海外投資家の資金フローの流入がないと、円債市場がしっかりとサポートされないことを意味する。現状は日銀が異次元緩和で購入しているため、インパクトは日銀の方が大きいが、海外投資家の依存度が少しずつ大きくなってくるだろう」とJPモルガン証券・チーフ債券ストラテジストの山脇貴史氏は指摘する。

<「経常赤字国」のレッテル>

日本には対外純資産が約300兆円あるほか、個人金融資産も1600兆円あることから、すぐに国債ファイナンスに懸念が出ることはないが、国の借金が増え続ける中では「100年安心」とはいかないのが現状だ。

しかしながら、足元の円債市場で気にする「そぶり」はほとんど見られない。1月の経常赤字は市場予想を上回ったが、日本の10年債金利は0.625%と前日から小幅上昇した程度だった。日本の10年債金利は、震災前に1.29%程度だったが、足元では0.6%台にまで低下している。

株価が上昇しても、金利が低下し続けているのは、日銀の金融緩和が効いているからだ。新発国債の7割を購入するという黒田日銀の「異次元緩和」が金利低下に拍車をかけており、流動性が低下した円債市場は「日銀次第のマーケットになっている」(大手証券債券担当者)という。

みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「日本では日銀が民間の資金フローとは別のところで、国債を大量に購入している。日銀の金融緩和が続く間は、金利が急騰する可能性は低い」と指摘したうえで、円安に歯止めが効かなくなれば、日銀の金融緩和も一時停止を迫られることになると警告する。

「経常赤字国」のレッテルは、海外投機筋に狙われやすい。「経常赤字国になれば、海外投資家の視線が変わってくる可能性もある。もっと生産性を高める競争力強化などに資金を投入しなければ、日本経済はじり貧になる」(第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏)。円売りを仕掛けられないように、また仕掛けられたときに耐えられるように、日本経済が上向いている今のうちに、「体力」を回復させておく必要がある。

伊賀大記 編集:田巻一彦

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