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焦点:国内生損保の「安全志向」変わらず、リスク資産シフトは一部

[東京 23日 ロイター] -国内生損保の2014年度資産運用計画が23日、ほぼ出そろった。国債など円金利資産を中心とした運用方針に大きな変化はなく、国内株や外債に興味を示すバイサイドもあるが、リスク資産シフトは一部にとどまっている。

4月23日、国内生損保の2014年度資産運用計画がほぼ出そろったが、国債など円金利資産を中心とした運用方針に大きな変化はなく、リスク資産シフトは一部にとどまっている。写真は2010年9月撮影(2014年 ロイター)

低金利による運用難状況は続いているものの、ALM(資産・負債の総合管理)をベースにした「安全志向」は変わっていない。

<運用難の焦りみられず>

日本生命の14年度運用計画の投資先の配分比率は、前年度とほぼ同じ。増加資金1兆6000億円のうち、約7割程度を国内債券やヘッジ付外債などの円金利資産に投資、3割をそれ以外に投資する従来からの運用の大枠を維持する。

ドル/円が足元で102円台と想定レンジの105─115円からやや円高に振れているため、オープン外債を横ばいから増加させる当初計画だが、これも為替や金利次第だという。ヘッジ付きとオープンを合わせた外債の新規配分額は、横ばいかやや減少する可能性があるとしている。

損保も同様で、三井住友海上火災保険は、今年度も円金利資産中心の運用を継続する計画だ。リスク許容度に応じてリスク性資産を少しずつ積み上げる方針だが、微増にとどまる見通し。「マーケットによって大きく運用方針が二転三転することは、基本的にはない」(財務企画部の原弘章・投資業務チーム長)とする。

日本国債の10年物利回りは足元で0.6%。運用難の状況は今年度も続く見通しだが、各バイサイドの運用担当者にはそれほど焦りは見られない。生保の新規契約に対する予定利率は現在1%程度とみられ、10年債利回りの0.6%とは見合わないが、生保が運用の中心とする20年債は1.4%後半の利回りがある。外債や株式などにも投資していることから、一定の運用益は確保できる見通しだ。

国内生保は、これまで予定利回りが運用利回りよりも高い「逆ザヤ」に苦しめられてきたが、ALMの進展で、保険商品に見合った運用ポートフォリオの修正が進んできていることも「余裕」の背景となっている。

1980年代後半のバブル全盛期、国内生保全体の株式保有比率は20%程度だったのに対し、国債は4─6%に過ぎなかった。2012年度では株式は4.8%に低下する一方、国債は43.1%にまで膨らんでいる。

富国生命は、12年度にグループで、13年度に単独で順ザヤになった。「やるべきことはほぼ終えた。無理をしなくてもALMに見合った収益を稼げるポートフォリオリオを組むことができた」(渡部毅彦・財務企画部長)。三井生命も株式などリスク性資産の圧縮に一定程度の成果が出ており、今年度はリスク資産は微減にとどめるものの、長期の円建て債券で運用する姿勢は崩さない。

<リスク資産へのシフトは限定的>

こうした円金利資産を中心とする運用方針がベースであるが、増加資産の一部を株式やオープン外債などリスク性資産にシフトさせる動きもみられている。

T&D保険グループの大同生命保険は、外国債券を残高ベースで積み増す方針だ。外債投資は基本的にヘッジ付きで、現状で外貨建て資産全体の7割程度となっているヘッジ比率を維持する予定だが、内外金利差や円相場の動向次第では一部オープン外債も検討する。

朝日生命も外国債券を数百億円規模で積み増す計画だという。国内に比べ相対的に高い利回りが見込める欧米債を中心に資金を振り分け、インカムゲインを狙う。ヘッジ比率は従来通り9割程度が基本だが、日米金融政策の差に伴ってドル高/円安が見込まれる局面ではオープン投資も検討し、機動的な対応を図っていく。

富国生命は、6年ぶりに日本株を積み増す計画を策定した。100億円と規模はそれほど大きくないが、株価が下押す局面で、割安かつ高配当利回りの銘柄を中心に投資するという。

ただ、各社の運用計画を総括すると、国債を中心とした円金利資産が運用の中心であることには変わりはない。明治安田生命は増加資金約8000億円のうち、半分弱を円債に投じる。

また、金利が上昇すれば、利回り面で魅力が増すため、国債投資が増える可能性もある。市場では「日本経済の持続的な成長は、まだ見込めない。物価も安定的にインフレとなるかはわからない。そうした中では、金利が一時的に上昇しても、バイサイドが高い金利に魅力を感じて買いに来るだろう。現時点では金利の急騰は考えにくい」(りそな銀行総合資金部チーフストラテジストの高梨彰氏)との見方が多い。

明治安田生命の山下敏彦専務執行役は「アベノミクスには期待しているが、株価が上がりそうだから増やすというわけにはいかない。2倍になるかもしれないが、2分の1になる懸念も常に考えておかなければならない」と語っている。

<インフレ局面は漸進的なシフト>

バイサイドの運用方針に大きな影響を与えかねない要因の1つとして警戒されているのが、インフレ局面の色彩が濃くなったケースだ。インフレ時には株式の魅力が増す一方、金利が上昇する債券は価格が下がり、相対的に魅力が低下する。今週25日に発表される4月東京都区部の消費者物価指数(CPI)で、消費増税分を上回るような上昇率となれば、デフレ脱却もいよいよ視界に入る。

東証1部銘柄の配当利回りは1.7%程度、益回りは6%強と、10年債で0.6%程度の日本国債と比べ、かなり高い水準にある。「低金利の債券投資が正当化できたのは、デフレのためだ。もし、デフレが解消されれば、圧倒的な利回りの株式に一気にバイサイドの資金が流れ込む可能性がある」(国内投信)との見方もある。

ただ、これまで国内生損保はALMに則って負債(保険商品)に見合った資産(国債など)を積み上げてきており、インフレ局面になったとしても、既存の資産を売却する必要性は低い。新規資金に対しては、高い利回りが必要になってくるが、国債利回りが上昇すれば、円金利資産の魅力も増すため、一気に株式などリスク資産に流れ込むわけではないとみられている。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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