July 26, 2018 / 8:42 AM / 5 months ago

焦点:トヨタがこだわる燃料電池車の未来、増産へコスト削減

[東京 26日 ロイター] - トヨタ自動車(7203.T)が2020年代の燃料電池車(FCV)量産に向けて投資を拡大している。他社が電気自動車(EV)にかじを切る中、収益性の見えないFCV開発にトヨタがこだわるのは「100年後に人類が生き残るための技術」との思いがある。

 7月26日、トヨタ自動車が2020年代の燃料電池車(FCV)量産に向けて投資を拡大している。写真は世界初の量産車「MIRAI(ミライ)」。愛知県豊田市の本社で5月撮影(2018年 ロイター/Issei Kato)

26年以降はFCVの展開車種を大幅に増やし、世界初の量産車「MIRAI(ミライ)」との部品共有化を進め、課題の一つである車両価格を引き下げる。

<SUVや商用車でFCVを本格展開>

複数の関係者によると、トヨタは20年代前半までには2代目ミライのほか、25年前後からFCVのスポーツ多目的車(SUV)を投入する予定。部品各社はすでに3代目ミライの準備にも入っている。26年以降は中型セダン、商用車などでもFCVを本格展開する計画だ。14年に発売した初代ミライは700万円台と高級車並みの価格だが、2代目では燃料電池(FC)システムのコストを半減し、大幅な価格引き下げを狙う。

ミライ開発責任者の田中義和氏は現在、1)限定生産から本格的な量産に移行、2)白金(水素・酸素の化学反応を促す触媒)など高価な材料の使用量を減らす、3)システムの小型・ハイパワー化を進める──という3つの施策を徹底することで「コスト低減は実現できる」と強調する。

新事業計画部エネルギー事業室FC外販グループ長の大田育生氏は「(既存の)乗用車やFCVの部品をできるだけ多く、FCトラックでも使うつもり」だという。米カリフォルニア州で実験中のFCトラック、来年供給予定のセブンーイレブン向けFC小型トラック、FCバスなどでミライのFCシステムを共有し、コストを削減する考えだ。

米テスラ(TSLA.O)や日産自動車(7201.T)など多くの車メーカーがガソリン車に代わる環境車としてEVに注力し、日産は独ダイムラー(DAIGn.DE)、米フォード・モーター(F.N)との共同開発によるFCV商用化を凍結している。FCVを生産するのはトヨタ、ホンダ(7267.T)、現代自動車(005380.KS)など一部にとどまる。

米調査会社LMCオートモティブの予測によると、27年の世界乗用車販売に占めるシェアはEVが約11.7%であるのに対し、FCVは0.2%に過ぎない。しかしトヨタは5月、20年以降にFCVの世界販売を現在の年3000台から3万台以上とする計画に備え、FCVの基幹部品であるFCスタックと高圧水素タンクの生産能力を増強すると発表。豊田合成も高圧水素タンクの製造に参入、約120億円投じて工場新設に踏み切った。

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<「100年後、人類は生き残れない」>

トヨタがFCVにこだわるのは、EVは航続距離が短く充電は急速でも30分かかり「全ての顧客ニーズを満たすのは不可能」(先進技術統括部主査の河合大洋氏)とみるからだ。FCVならEVより1回の水素充填(じゅうてん)で長く走行でき、充填時間も3分と短い。

航続距離はEVでもコストをかければ技術的には伸ばせるが、約500キロ(日本基準)を走れるテスラのEV「モデルS」の価格は最低でも約800万円台。トヨタはミライの価格を大幅に引き下げ、現在の航続距離約650キロを3代目では「25年までに1000キロ」(別のトヨタ幹部)に伸ばす計画だ。

水素は同重量では電池よりも多くエネルギーを蓄えることができる。現在は石炭火力などに依存する電気と比べ水素は地球上に無限にあり、エネルギー資源の少ない日本ではエネルギーの多様化という点でも期待される。トヨタでFCVの開発が始まったのは1992年。「FCV技術を完成させないと、人類として50年、100年、生き残れないとの思いで開発してきた」と田中氏は語る。

FCVにこだわる理由は他にもある。関係者によると、各社が一斉にEV生産に傾けば、コバルトなどの電池材料が不足するとトヨタは想定している。EVの最大需要国である中国でも各地でFCV開発の動きが広がっており、将来的に世界のFCV市場で覇権を握ることができるとの思惑もトヨタにはある。

米調査会社ストラテジック・アナリシスの推定によると、最も高価な部品であるFCスタック1個の生産にトヨタでは約1.1万ドル(122万円)かかる。同社は、トヨタがFCVを年3万台生産すれば、量産効果でスタック1個当たり約8000ドルまでコスト削減できるとみている。

また、特に高額な白金は使用量を「10―20%減らしても同じ性能を発揮できる」(トヨタ子会社キャタラーの市川絵理氏)技術に成功している。ストラテジック・アナリシスによると、スタック1個当たりの白金使用量を約30グラムとの前提で試算すると、次期ミライのスタックでは最大300ドルの材料費を削減できるという。

<法人向けで収益確保か>

ホンダもFCV開発は続ける方針で、20年を普及拡大期と位置付け販売拡大とコスト削減を図っている。同社のFCVも760万円台と高く、リース販売にとどまる。本田技術研究所上席研究員の守谷隆史氏は「500万円を下回るレベルにしないといけない」と話す。

FCV開発が「雌伏(しふく)」の時期を脱するには、なお越えるべき課題がある。その一つが、建設に1カ所当たり4億円強かかる水素ステーションの普及だ。その数は4月末で日本全国100カ所となったが、当初の目標からは約2年遅れている。国のロードマップでは20年度までに160カ所、FCV4万台の普及が目標。トヨタを中心とする11社で水素インフラ整備の推進会社も3月に設立したが、個人ユーザーの利便性を満たす規模となるまでにはまだ時間がかかりそうだ。

トヨタは20年までに、東京を中心にFCバス100台以上を走らせる予定。自動車調査会社カノラマの宮尾健アナリストは「FCVは個人向けだけでは成長シナリオを描きづらい。バスやトラック、国や地方自治体による公共の車を中心に考えるのが望ましい」と話す。SBI証券の遠藤功治シニアアナリストも同意見だ。経営資源のあるトヨタだからこそ全方位で取り組めるとし、FCVは「(EV販売を促す中国の規制など)政策が変わったときや将来世の中がどうなるかわからない中での保険なのかもしれない」と話している。

白木真紀、田実直美 編集:北松克朗、田中志保

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