April 13, 2015 / 7:07 AM / 3 years ago

コラム:TPPで米国が払う自由貿易への代償

Charles R. Morris

[10日 ロイター] - 自由貿易は米国政府の合言葉だ。オバマ政権が環太平洋連携協定(TPP)妥結に向け、政府に貿易交渉権限を委ねる「ファストトラック」と呼ばれる貿易促進権限(TPA)の取得に意欲を示すのは、政府の伝統の一部でもある。しかし、一連の証拠が示すところによると、発展途上の低所得国に通商上の完全な最恵国待遇を認めれば、往々にして米国のコスト負担になる。

米国は、オーストラリア、チリ、日本、シンガポール、マレーシアを含めた太平洋を取り巻く11カ国と長期にわたる交渉を続けている。数年間にわたる議論を経て、交渉当事国はようやく合意に近づいたようにもみえる。

米議会でエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)に代表される民主党左派と、ウォルター・ジョーンズ下院議員(ノースカロライナ州)のような草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を得た共和党議員が反TPPで異例の協力に踏み込んだのは、TPPをめぐるこうした情勢が理由のひとつとなっている。

一方で同じ茶会の支持を得た共和党議員の中でも政策通であるポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州)や保守派のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)は、主流派のエコノミストと同様にTPPの成立を支持している。

エコノミストたちは自由貿易がもたらす大きな利益に関して、古典派経済学の基本原則である比較優位説を引き合いに出す。もし貿易相手国・地域が互いに最も得意な分野に集中すれば、最終的に双方が豊かになると主張するのだ。

米国は19世紀、その理論が誤りであることを証明した。欧州向けに鉄や綿花を輸出する一方で、「未発達な」自国の産業を保護するために高い関税を設けた。1890年代までに米国はほとんどの先進産業分野において英国を凌駕した。米国にとってそれが容易に達成できる目標であったのは、当時の英国が純粋な自由貿易の実現を頑なに目指していたためだ。

最新の研究は、相互に恩恵を及ぼす貿易およびオフショアリング(外国への業務移管・業務委託)の相手国と、そうではない相手国を分けて考える一助になる。貿易もしくはオフショアリングの相手国が先進国だった場合、米国の賃金は上昇する傾向にある。しかし、途上国が相手だった場合、とりわけ熟練度が低い労働者や中程度の労働者の賃金は低下する。

このような賃金の下落効果は製造業に限ったことではなく、他の業界の同じような職にも及ぶ。一般に製造業の賃金はサービス業より高い。しかし、輸入や生産の海外移転が増えると、製造業の雇用削減圧力は一段と強まり、職を失った労働者が従来より賃金の低いサービス業に移行するドミノ効果が生じる。こうして賃金の縮小は全体に及ぶのである。

賃金の低下圧力は、生産の海外移転よりも途上国からの輸入によりもたらされる場合の方がはるかに影響が大きい。それは中国が貿易相手国である場合に最も顕著に表れる。中国から輸入が10%増加した際に、米国の関連する職種の賃金は全体で6.6%低下した。さらに、ほぼ全てのケースにおいて賃金の低下は、とりわけ高卒未満の学歴しかない低所得労働者に最も厳しい打撃を与える。

米国の製造業の雇用者数は1970年後半にピークを迎え、その後全般的に減少傾向にある。しかし、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2000年が明らかに分岐点となった。そこから中国からの集中的かつ壊滅的な米国市場への製品流入が始まったのだ。

2000─2009年の間に米国は約600万人分の雇用を失った。これは2000年の雇用者の約3分の1に相当する。最近は緩やかな雇用回復がみられ、製造業で2010年以降に85万人の職が創出されたが、減少分を埋め合わせるには少なすぎる。

中でも破壊的なブランドとしての中国の競争力は軋轢を生んでいる。世界で最も効率性の高い製鉄会社の1つである米ニューコアの例を考えれば分かる。ダン・ディミッコ元最高経営責任者(CEO)によると、ニューコアが1トンの粗鋼生産に要する労働時間はわずか0.4時間、賃金にして約8─10ドルにすぎない。原料の大半はスクラップだ。一方、中国では割高な鉄鉱石を使用しているうえ、米国への出荷コストは1トン当たり約40ドルだ。

ディミッコ氏は近著「アメリカン・メード」の中で、仮に中国の労働コストがゼロだった場合でも、中国の製鉄業者が自国市場でニューコアより安値で販売することはできないと主張する。しかし、過去1年間のうち大半で、中国の低価格の鉄鋼製品は米国市場になだれを打って流入しており、ディミッコ氏は違法な「不当廉売(ダンピング)」の明らかな証拠だと指摘する。これに対して中国政府は当然のように、すべては公正な貿易ルールにのっとった行為だと主張している。

しかし、中国はわれわれと異なるルールに基づいて動いている。有力な製造業企業は大半が国有企業であり、資金調達から用地のリース、税制や燃料費まで共産党が決定するコストで提供されており、あらゆる形で政府の補助を受けているからだ。

さらに悪いことに中国政府は近年、欧州や米国企業に対し、大型契約の受注の条件として特許技術を移転するよう圧力を掛けている。

顕著な例は国有企業の中国商用飛機(CACC)と米航空・宇宙関連企業7社の間の提携だ。米国側では航空機大手ボーイングとゼネラル・エレクトリック(GE)が主導した。参加した米企業はすべて中国に対してかなりの特許技術を提供している。GEの重要資産である航空電子工学技術は契約の主要部分を占める。先進の航空工学技術は中国側が軍事面で強い関心を示した分野だ。GEは技術が軍事部門に漏えいすることはないと主張し、それに反する証拠が見つかった場合はプロジェクトすべてを終結すると約束している。当然のことだ。

中国のこれまでの実績を見ると楽観的にはなれない。中国は現在、世界最大の高速鉄道産業を有し、記録的なスピードで鉄道整備を推進する。独シーメンス、川崎重工業など先進国企業から車両を購入し、それらの技術を自社製品に応用するリバース・エンジニアリングを進めている。これらが標準的な手段となりつつあるのだ。中国に対するコンピューター供給契約の大半は、ベンダー側がソフトウエアの設計図に当たるソースコードのコピーを中国政府に提供することを義務付けている。どんなハイテク企業でも成功のカギを握るのはソースコードだ。

中国は偉大な国家であり、非凡な才能と勤勉な人民を抱える。しかし、政府の官僚機構には深刻な腐敗が露呈しており、官僚たちはルール対して口先だけの約束をすることもしばしばだ。数十年前に米国の鉄鋼会社が外国企業のダンピングに不服申し立てを行った時、これらの米企業はさらに進歩した競争相手からの保護措置を求めていると受け止めた人もいるかもしれない。だが、特にニューコアのような企業には、そうした見方はあてはまらない。

今こそ中国のような収奪的な競合相手に対して、法に基づく処方薬を投与すべき時だ。中国はTPP交渉に参加していないが、その急速な経済発展は途上国すべての目指す目標となりつつある。米国政府は、自国企業に対する公平な処遇を確保する備えができて初めて、新興国との自由貿易協定の検討を始めるべきだ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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