[ロンドン 13日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トルコが破局を免れる余地は非常に小さい。通貨リラTRY=は対ドルで最安値を再び更新し、年初来で約20%下落した。エルドアン大統領は引き続き金融引き締めを目の敵にしているが、同氏にとって全面的な危機を避ける唯一のチャンスは、通貨安を受け入れ、中央銀行が徐々に政策金利を引き上げるのを容認することに尽きる。
確かに中銀のウイサル総裁は動き始めている。民間銀行が利用できる幾つかの中銀からの借り入れに適用する金利を調整し、事実上資金調達コストを引き上げたのだ。だが政策金利を何回か引き上げない限り、トルコは2018年の危機を繰り返しかねない。当時はリラの対ドル相場が1カ月で25%急落し、物価上昇率は25%に跳ね上がった。
トルコの実質政策金利はマイナス3.5%と、主要新興国で最も低い。それでもリラが当面下支えされたのは、国営銀行が外貨を売却していたからだ。ゴールドマン・サックスによると、中銀も今年に入ってからおよそ600億ドル規模で外貨売りに動いている。ところが国民が外貨を購入しているので、オフショア取引を規制するだけではリラ防衛には不十分だ。先週だけでリラは5%も下落した。
物価上昇率は18年ほど高くはないものの、中銀が目標とする5%の2倍に達しており、とめどないリラ安は輸入物価を押し上げるだろう。だからウイサル氏は、リラ安とインフレの悪循環を食い止めるつもりなら、すぐに行動しなければならない。これは「言うはやすく行うは難し」だ。
エルドアン氏は5月に高金利を「諸悪の根源」とやり玉に挙げ、当時のチェティンカヤ中銀総裁を緩和ペースが遅いとの理由で更迭した。エルドアン氏は10日、中銀が「からめ手」から金融引き締めに動いたにもかかわらず、改めて緩和を求めた。こうなるとウイサル氏は政治的な観点から、リラの反発を促せるだけのスピードで利上げするのは不可能かもしれない。ただしより漸進的なペースであれば、エルドアン氏に受け入れてもらえるのではないか。エルドアン氏が、政敵の不意を突いて2年前倒しの形で来年選挙を行うという選択肢を確保しておこうとするなら、今年は経済危機を回避することが重要になる。その成功の鍵は、18年の教訓をしっかり学んだかどうかにある。
●背景となるニュース
*トルコリラは10日に対ドルで最安値を更新し、年初来の下落率が約20%に達した。
*アルバイラク財務相は12日、為替レートよりも通貨の競争力が大事だと指摘。「重要なのはトルコがあらゆるボラティリティーを制御することだ」と語った。
*トルコ中央銀行は20日に政策決定会合を開く。
*トルコの銀行監督当局は10日、4月に導入した銀行に対する資産比率の規制を緩和した。この規制は、民間銀行の融資や国債購入を促進するために設けられた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」