for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

アングル:トルコリラが運も味方に足元堅調、火種は消えず

[イスタンブール 6日 ロイター] - トルコリラが最近数カ月、上昇基調を保っている。政府が中央銀行総裁を更迭し、米国から制裁を科せられる恐れがあるロシア製防空システムの購入に動いているにもかかわらすだ。そうした行為は新たな通貨危機を招くと批判してきた人々も、これでは沈黙せざるを得ない。

 8月6日、トルコリラが最近数カ月、上昇基調を保っている。写真は2018年8月、イスタンブールの両替所で撮影(2019年 ロイター/Murad Sezer)

リラにとっては、米連邦準備理事会(FRB)がよりハト派的な政策運営に切り替えたことがプラスに働いたという幸運な面もある。FRBの動きが、新興国市場、とりわけ5月のリラ急落で割安化したトルコ資産の追い風になったからだ。米中貿易摩擦の激化と、中国政府が人民元の下落を容認しているように見えることで、FRBはドル相場を押し下げるためにさらなる対応を迫られており、リラには上昇余地が生まれている。

またトルコ政府が先月、ロシア製防空システム「S400」を搬入したことについて、トランプ米大統領が制裁を渋っているのは、最悪の事態に備えていたトルコ当局者と投資家にとっては、うれしい誤算と言える。

これらの状況は、景気後退から抜け出そうとしているトルコ経済と、6月の地方選での与党敗北のショックから立ち直ろうとしているエルドアン大統領にとって、望外の「援軍」となっている。

第3・四半期に入ってからリラは新興国通貨で断トツの上昇率を見せ、今年初めに新興国中最低だったトルコ債券のリターンは、最高クラスに転じた。

TDセキュリティーズの新興国市場戦略責任者クリスチャン・マッジオ氏は「リラ買いが積み上がりつつある。主な要因は外的なもので、FRBが緩和路線に入っていることだ。トルコはその恩恵を一番に受ける存在として際立っている」と述べた。

もっともこの先のリラの動きは、利回りに飢えた投資家が世界的な貿易摩擦を無視してリスクの高い資産を買い続けるかどうか、さらにはトルコ当局が中銀の信頼を回復させ、不良債権を抱える銀行と企業を支え、国民の外貨志向に歯止めをかけられるかどうかに左右されそうだ。

6日のリラの対ドル相場は1ドル=5.53リラと、5月上旬に付けた6.19リラに比べて約10%高い。

5月下旬ごろ、ゴールドマン・サックスやソシエテ・ジェネラルなどは、当面6.60リラを目指してリラ安が進み、年末までに7.00リラまで下がると予想していた。

<買いの流れ>

こうした市場関係者の見方を背景に、リラは一時、昨年の通貨危機時の水準に沈んだ。中銀がリラ支援のために十分な引き締め政策を続けられないのではないかとの投資家の不安が再燃したことや、S400を巡る米国との不協和音が影響した。

トランプ氏が6月、エルドアン氏との会談後にS400の問題でトルコが不公平に扱われているとやや同情的な発言をすると、それから2週間でトルコはS400の受け取りを開始。その上エルドアン氏は市場の神経を逆なでするかのように、金融緩和の指示に従わないとして中銀のチェティンカヤ総裁を解任たし。後任のウイサル総裁はすぐに少なくとも2003年以降で最も大幅な利下げを実施し、中銀の独立性に対する懸念が高まった。

それでもリラの動揺はごく短期間にとどまり、7月1日以降の動きで見ると新興国29通貨で最も上昇しており、上昇率は第2位のイスラエルシェケルの2倍近い。

トルコ債券は、エルドアン氏の与党がイスタンブール市長のやり直し選挙で敗北した6月23日以降のリターンが4.2%と、JPモルガンの新興国債指数で2番目の好成績だった。国際金融協会(IIF)のデータでは、トルコへの外国投資家の資金フローも6月は流入超に転じた。

元FRBエコミストで現在はトルコのコッチ大学に籍を置くセルバ・デミラルプ氏は、チェティンカヤ氏の解任とその後の大幅な利下げは中銀の信認と独立性低下のシグナルであり、今後のマクロ経済リスクを高めていると分析しつつ、「ところが市場参加者は短期的には割安な債券の買い場とみなした」と説明した。

一方で同氏は、もし中銀が追加利下げに動き、政府が不良債権対策をまとめられない場合は、リラが弱含んでもおかしくないと付け加えた。

ロイターは先月、200億ドル前後の不良債権を保有する銀行を救済する計画が進展していないと報じた。

<さまざまなリスク>

トルコ経済にとっては、ほかのリスクも顔をのぞかせている。

1年にわたる「ドル化」の傾向が止まる気配は見えず、7月半ば時点で銀行口座に占める外貨の割合は過去最高に近い53%だ。つまり国民は、上昇しているリラになお不信感を持っている様子がうかがえる。

スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、トルコ国債の外国人保有率が11%にとどまっている以上、「リラの命運は自国の居住者世帯のセンチメントが握っている」と指摘した。

外国人投資家は今年3月にトルコ政府系銀行がロンドンの翌日物スワップ市場でリラの流動性供給を突然停止したことや、5月にこれらの銀行が大量のドルを売却したことで、身動きが取りにくくなっている。

一部から資本統制に向けた行動だとみなされているこうした措置を含めたトルコ政府の対応は、外国人がトルコ資産を取得しにくくなると同時に、トルコ国民にとってはドルやユーロの購入コストが増大する。

ロイターは5月以降、トルコ政府系銀行による「介入」を伝えていないとはいえ、投資家の中からは特に最近のリラ高を踏まえると介入が行われる可能性は残っているとの声が聞かれた。

米国による制裁の目も消えたわけではない。米議会は依然として、トルコのS400購入を快く思っておらず、9月の米議会休会明け後に何らかの行動に出てもおかしくない。トルコがキプロス近海でエネルギー採掘を続けていることが、欧州連合(EU)の制裁につながる恐れもある。

(Jonathan Spicer記者)

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up