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アングル:トルコのエルドアン政権、「Z世代」離反に危機感

[イスタンブール 5日 ロイター] - トルコ人女子学生のアゼルヤ・セリクさん(25)は夜遅くまで分子生物学のノート作成に取り組んだ後、ほんの数時間眠っただけですぐ大学に向かう。だが、授業に出席するためではない。祖国の未来を決める上で重要だと考えている抗議活動を応援するためだ。

 2月5日、トルコ人女子学生のアゼルヤ・セリクさんは夜遅くまで分子生物学のノート作成に取り組んだ後、ほんの数時間眠っただけですぐ大学に向かう。写真は1月、イスタンブールで、政権の決定に抗議するボアジチ大の学生(2021年 ロイター/Umit Bektas)

イスタンブールの名門国立大、ボアジチ大学では、エルドアン大統領が強引に学長を指名したことを巡り、セリクさんをはじめ数百人の学生が、非民主的な手続きだとして1カ月にわたり抗議を続けている。2月に入ると、イスタンブール市内と首都アンカラのあらゆる街頭で群衆が学生支援の声を上げるなど、政権に対する批判が一気に熱を帯びてきた。

今回の動きは、8年前に当時首相だったエルドアン氏の強権的姿勢に不満を高めた国民が起こした反政府デモに比べれば、まだ規模はずっと小さい。

しかし、今年1月初めに始まった抗議活動は、当局の圧力をものともしていない。さらに、次回2023年選挙において再選されれば、足掛け30年の長期政権化を視野に入れるエルドアン氏にとって、不満だらけの若い世代からの支持の乏しさが、重大な足かせになることも浮き彫りになっている。

警察は1月4日以降、600人余りを拘束。政府は抗議活動参加者をテロリスト呼ばわりする強硬姿勢を見せている。しかし、イスタンブール市民は午後9時になると、自宅のバルコニーに出て鍋やフライパンを叩く行為を通じて、学生を応援している。

米政府もトルコ当局による学生の拘束に懸念を表明するとともに、デモ参加者に当局が投げつけている侮蔑的な言い方を非難した。

セリクさんは「私たちは芸術展を開催しているだけで、友人らは(学長室がある)建物の外で瞑想しているだけで、テロリストと呼ばれている」と憤る。

大学構内には1カ月前から治安警察が常駐し、抗議活動に対抗するバリケードも築いている。それでもセリクさんにとって、学長人事を巡る抗議は「トルコの未来について発言できる権利」にかかわるものだ。「政府は私たちにおとなしく勉強だけして、祖国の未来に関する話はしてほしくないと思っているが、そんなのはお断りだ」と彼女は言い放った。

<意識のかい離>

反政府抗議活動が全土に及び、イスタンブールなど主要都市で数十万人がデモを行った2013年の事態は繰り返させないと、エルドアン氏は強調する。これまで20年近くトルコ政府の実権を握りつつ、イスラム的価値と宗教教育を熱心に推進して「敬虔なイスラム教徒世代」の育成を目指してきたエルドアン氏。だが、同氏といえども、だれもがこうしたメッセージを受け入れているわけではないことを認めざるをえない状況だ。

1990年代半ば以降に生まれたトルコの「Z世代」には、エルドアン氏が権力の座についた03年以前の記憶は乏しい。エルドアン氏は今年1月、与党・公正発展党(AKP)のこれまでの業績がZ世代から評価されていないと述べた。このことが、23年予定の選挙に向けた課題となっている。

エルドアン氏は、議会で「古いトルコで生きてこなかった若者は、昔、国民が苦しんだ問題を経験していない。われわれは、トルコが獲得してきたものの大切さを彼らになかなか伝えられないでいる」とこぼし、医療やインフラがいかに充実したかを指摘。「Z世代は、以前の政権時代、公立病院で患者がどんな扱いを受けたかも知らない」とも述べた。

ところが、同国の経済成長が過去15年間の年5%ペースから、過去3年間に減速したこともあり、世論調査ではAKPの支持率はじりじり下がっている。そのためAKPは議会で多数派を確保するため、民族主義者勢力とも連携せざるを得なくなっている。

一方で16年のクーデター未遂事件後、エルドアン政権の反対派に対する徹底的な言論封じ込めで、既存メディアの9割は政府やその息がかかった企業に支配されるようになった。

ソーシャルメディア運営企業にも、新たな規制が導入されようとしている。だからセリクさんら学生は、情報入手で国内メディアをあてにしていない。若者は「テレビや主要メディアから得る情報が、正しいとはもう思っていない」という。

世論調査会社、アブラスヤのケマル・オズキラズ創設者兼会長はロイターに、政府は若者とのつながりを失っており、23年に新たに有権者資格を与えられる約500万人のうちAKPに投票するのは3分の1程度にとどまると予想した。

オズキラズ氏によると、若者が将来の希望や夢を期待しているのに、AKPは過去の実績ばかりに言及しているところに、意識のずれがあるという。

<増える移住希望>

オズキラズ氏は、昨年9月に8000人に対して実施した調査で、18歳から29歳までの76%が海外移住したいと答えた点に触れ、トルコの未来への幻滅感が強まって海外に行こうとする若者が増えていると話した。

ボアジチ大学の修士号を持つコルカン・ヤクシさん(29)は今年、カナダに移住する。性的少数者(LGBT)であるヤクシさんは「過去5年から10年で、この国は私に疎外感をもたらした。私はトルコに長く住む自分を想定できないし、ここでの未来を夢見るのも不可能だ」と絶望感をあらわにした。

その上で、自身や同じような立場の人たちを社会に片隅に追いやる政治家の常に差別的で暴力的な言辞が、国を出て行こうと思った決定打になったと打ち明けた。

実際、AKPはLGBTのコミュニティーについて、社会の一体性を保つ家族の価値を脅かす存在とみなしている。

公式統計を見ると、19年に外国に移住した数は前年比2%増の33万人で、その4割超が20歳から34歳の世代だった。

セリクさんも移住を考えている1人だ。自分のような、それほど豊かでない家庭出身でも国内最高クラスの大学に入れる教育制度を、エルドアン政権が台無しにしていることが理由という。

例えば、17年には学校の教育課程から「進化論」の削除が決定された。これについて彼女は、政府が国民に新型コロナウイルスの変異を警告している以上、ばかげた判断だと切り捨てる。「新型コロナウイルスに何が起きているか、われわれは目の前で見ている。政府も変異株を話題にしている。それで生物の進化など存在しないというつもりか」とあきれかえる。

セリクさんは、女性としてもLGBTとしてもトルコは安心して暮らせる場所ではないと語る。「それでもこの大学が唯一、安全と感じられた場所だった。それなのに、どこもかしこもバリケードで囲まれてしまった。こんな状態になった大学を目の当たりにするわれわれが、どれほど動揺しているか、あなた方にはきっと想像もできない」と悔しさをにじませた。

(Ali Kucukgocmen記者 Ece Toksabay記者)

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