[ロンドン/ニューヨーク 19日 ロイター] - スイスの金融大手UBSは、経営不安が強まっていた同業クレディ・スイスを30億スイスフラン(32億3000万ドル)で買収すると発表した。金融不安の拡大を恐れたスイス当局が主導して合意を取りまとめた。
市場関係者に見方を聞いた。
●一定の安心感も不透明要因多い
<あおぞら銀行 チーフ・マーケット・ストラテジスト 諸我晃氏>
スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイスの買収発表は、市場に一定の安心感を与えたものの、不透明要因も多い。負債がすべて保護されるわけではないとみられ、今後クレジットリスクにどのように影響してくるか、見ていく必要がある。日銀など主要6中銀が米ドルの流動性供給で協調行動を取ると発表したことは市場の不安を抑える上で重要であり、安心感を与えている。
クレディ・スイスの買収発表を受けて、ドルは薄商いの中、一時132円半ばまで上昇し、その後上げ幅を縮小した。足元の市場の動きを見る限り、不安が完全に払しょくされたようにはなっていない。米金融機関に対する不安もくすぶっており、ドルが上値を追うには少し時間がかかるだろう。今週は米連邦公開市場委員会(FOMC)を控えており、結果を見極めたいとの見方から、動きづらい地合いが続くとみている。
●リスクオフ後退も火種残る
<三井住友トラスト・アセットマネジメント シニアストラテジスト 稲留 克俊氏>
大銀行の無秩序な破綻が回避されたことは一定の安心材料であり、本日の円債市場では投資家のリスクオフムードがいったん後退し、リスク選好度が高まる展開を予想する。
ただし依然として火種は残っている上、日本は明日が祝日のため休場となることから、投資家としては一方的にポジションを傾ける動きは考えづらい。多少の警戒ムードは残る展開となりそうだ。
●迅速な対応はプラス、疑心暗鬼はくすぶる
<ニッセイ基礎研究所 チーフ株式ストラテジスト 井出真吾氏>
当事者による迅速な対応と評価できるだろう。日米欧の中銀が連携してドル資金を供給するとも伝わっており、ひとまず懸念は和らぎそうだ。ただ、手放しでは喜べない。米銀の経営破綻が出尽くしたかどうかは予断を許さず、疑心暗鬼は引き続きくすぶるだろう。
銀行株は買い戻されるとしても限定的ではないか。日経平均は、目先は2万7000円前後でのもみ合いが続くだろう。投資家心理は、追加のリスク要因が1─2週間、浮上しなければ徐々に改善していくとみている。
日本はあす、休場となる上、22日に米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表と米連邦準備理事会(FRB)議長会見を控えて模様眺めが強まるだろう。
金融システムへの疑心暗鬼を高めないためにも、FRBは0.25%の利上げを決めるのではないか。メンバーによる金利見通しではパウエル議長が議会証言で示唆したようにターミナルレート(利上げの最終到達点)の引き上げが見込まれる。サプライズとまではいえないが、地合いが弱い中では嫌気されるリスクがある。
●市場の歓迎は短命に=エンジェルス
<エンジェルス・インベストメンツの最高投資責任者(CIO)、マイケル・ローゼン氏>
UBSとクレディ・スイス(CS)の取引は市場が望み得る最善の解決策だ。CSの株式は実質的に帳消しにされ、一部の社債もそうなるが、銀行システムの基本的な機能は保護された。
銀行株はこのニュースを受けて上昇する見込みだが、危機が去ったとして警報を解除するのは時期尚早だ。金融引き締めは銀行の利ざやを奪っているが、インフレが目標を大幅に上回る現状で政策転換は不可能だ。
より重要なのは金融引き締め政策と銀行システムの脆弱性がリセッション(景気後退)リスクを高め、その結果、銀行セクターがさらに脆弱になる事態を招くことだ。
市場はCS救済を歓迎するだろうが、一時的なものにとどまる。
●危機続けばECBの対応焦点に=ソルトマーシュ
<ソルトマーシュ・エコノミクスの欧州担当エコノミスト、マーシェル・アレクサンドロビッチ氏>
各国中銀は介入に動いており、スイス国立銀行(中央銀行)は必要なら流動性を供給すると表明している。財政政策面でも当局者がそれぞれの役割を担っている。
欧州中央銀行(ECB)はUBSによる買収で過去10日間の出来事に区切りを付け、資金調達状況が安定し始め、緩和されることを期待している。
市場がこれをうまく受け止めれば、追加利上げが織り込まれることになる。
うまく受け止められなければECBに対する見方は変わらず、危機が続けばECBが対処に向け何ができるかが焦点になる。
●UBSへの問題波及を懸念=モーニングスター
<モーニングスターの欧州銀行担当の株式アナリスト、ヨハン・ショルツ氏>
通常なら素晴らしい取引だと言えるが、現在の環境では市場に多くの不確実性があるためやや複雑だ。最大の懸念はクレディ・スイスを巡る問題がUBSに波及することだ。
懸念事項として、クレディ・スイスからの資金流出規模とUBSが負担するリストラ費用があるが、これらを明確にする必要がある。UBSは今回の取引により生じた多額のマイナスののれん代とリストラ費用を相殺できると思う。
クレディ・スイスのフランチャイズはUBSが支払う額よりもはるかに価値があるため、クレディ・スイスの株主は不満に感じるだろう。
●投資家心理の改善見込む=オールスプリング
<オールスプリング・グローバル・インベストメンツのシニア投資ストラテジスト、ブライアン・ジェーコブセン氏>
非常に大規模かつ断固たる介入があったようだ。市場が他のくすぶる問題に嗅覚を働かせない限り、非常に前向きな動き。各国政府は火が燃え移って手に負えなくなる前に火種を消す決意だ。
投資家心理を改善させるのに十分な材料だろう。ただ、米国の地銀に関する問題が残っており、欧州の銀行に隠れたリスクがあるかどうかにも疑問が残る。
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