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焦点:英の賃金長期停滞、失業率低下でも出口見えず
2017年8月29日 / 00:27 / 1ヶ月前

焦点:英の賃金長期停滞、失業率低下でも出口見えず

 8月25日、英国経済は、失業率が1975年以来の低さになったにもかかわらず、長きにわたる賃金停滞局面を抜け出せる見通しが立たないという矛盾に直面している。英キンバー・ミルズの工場で2015年5月撮影(2017年 ロイター/Russ Cockburn)

[ロンドン 25日 ロイター] - 英国経済は、失業率が1975年以来の低さになったにもかかわらず、長きにわたる賃金停滞局面を抜け出せる見通しが立たないという矛盾に直面している。

イングランド銀行(英中央銀行、BOE)は来年の平均賃金上昇率を3%と予想するものの、企業経営者や労組の目から見ればとても実現しそうにはない。

過去10年間、多くの国で賃金の伸びは低調だった。とはいえ2008─09年の世界金融危機以前の状況との断絶ぶりが特に甚だしいのが英国だ。雇用パターンの変化で労働者が分配率を高めるよう要求できる力が弱まったほか、生産性の伸びが鈍いために分配率の拡大がさらにゆっくりになっている面もある。

BOE幹部の1人からは、英国が18世紀の産業革命前の長期的な賃金停滞局面に戻ってしまったのではないかとの疑念まで出る有様だ。

金融危機前の英国の賃金上昇率は年4%という例が一般的だった。しかし金属加工下請け会社キンバー・ミルズのラリー・ジョイス会長は、賃上げ率をBOEの物価目標の2%以下に抑える方針で、収益が上向いてもあくまで一時的な賞与として従業員に分配するとしている。

英国の賃金上昇の弱さは昨年の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票よりも前から見られたが、EU離脱が選択されたことは、ジョイス氏にとって賃金上昇が加速しそうにないとの見方を強める新たな材料になった。

大半の英企業は同じような見解を持っている。英公認人事教育協会(CIPD)によると、民間セクターの現在の賃上げ率は2%が主流。公務員セクターに至っては、政府の緊縮財政の一環として2013年から賃上げ率の上限が1%に定められている。

CIPDの労働市場アナリスト、ガーウィン・デービス氏は「雇用主は賃上げ圧力にさらされていない」と述べた。

結果として経済協力開発機構(OECD)のデータに基づくと、昨年の英国の実質平均賃金は、2007年のピークに比べて2.7%も低くなった。逆に2000─07年の実質平均賃金は18%近くも上昇している。

2.7%という落ち込みは、先進7カ国(G7)最低の数字で、欧州内でもこれよりひどいのはギリシャとポルトガルだけだ。また英国は国民投票後に物価上昇率が上振れているので、今年の実質平均賃金はさらに目減りする見通し。第2・四半期を見ても、賃上げ率は2.1%だが物価は2.7%上昇した。

<産業革命前に回帰>

英国はギリシャ、ポルトガルと異なり、表面的には労働市場は好調に推移している。4─6月の失業率は4.4%と1975年以来の低水準なり、同じぐらい失業率が低い米国のような多くの職探しをあきらめた人は存在しない。

しかしそのために英国の雇用保障度が大きく揺らぎ、他のさまざまな労働条件を巡る交渉力を弱めてしまった。具体的には「ゼロ時間契約」と呼ばれる必ずしも仕事が保証されない労働契約で働く人が昨年は90万5000人に上った。また100万人のパートタイム労働者は、フルタイム契約を望んでいる。

英労働組合会議(TUC)幹部のケート・ベル氏は「労働者は賃上げを要求できるほど(職を失わないことへの)自信を持っていない」と語った。

BOEのデータでは、労組加入率が1930年代以来の低さになったことも分かった。一方で自営業(個人事業主)として働く人の割合は、統計を開始した19世紀半ば以降で最も高い。

こうした点からBOEのチーフエコノミスト、アンディ・ホールデン氏は、2013年からの失業率低下に対する賃金上昇の感応度の弱さと、1500─1700年にかけての賃金停滞局面の共通性を説いている。

ホールデン氏は6月の講演で「産業革命前は、大半の労働者が自営業か零細企業勤めで、労組はなかった。労働時間は柔軟で農作物収穫や酪農などの作業において必要だった仕事に左右されていた」と指摘した。

<鍵は生産性>

足元では、金融危機後のいくつかの要因の賃金下押し圧力が緩和しつつある。ゼロ時間契約者は過去半年では減少し、雇用主からは熟練労働者の不足報告が増加、一部の職業あっせん会社は人材獲得のために大幅な賃上げを提示せざるを得ない状況だと判断するようになった。外国人労働者に依存する建設などのセクターは、特にブレグジット(英のEU離脱)が問題になっている。

しかし政府統計では、建設セクター全体の賃金上昇は鈍化が続いている。またCIPDのデービス氏は、人材あっせん会社の日給や初任給のトレンドは、将来の平均賃金動向を探る適切な手掛かりではないと釘をさす。

さらに英国の生産性伸び率が金融危機後のさえない動きを脱しない限り、賃金上昇は決して加速しないだろう。危機前は時間当たりの生産量は平均2%上がっていたが、08年以降はほぼ横ばいだ。これは賃金動向との相関度が極めて大きい。

デービス氏は「(賃金)上昇が期待外れとなっている基本的な要因として、生産性の重要性をどんなに誇張してもし過ぎることはない。労働力ないし資本の観点で投入量が上向いておらず、それが起きるまで雇用主はわれわれが望む2%超の賃上げを許容できない」と説明した。

(David Milliken記者)

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