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焦点:ロシアが賭ける停戦シナリオ、冬のガス不足で西側が根負け

[ロンドン 24日 ロイター] - ロシアはかつて、「冬将軍」の加勢を得てナポレオンとヒトラーを打ち負かした。プーチン大統領は今、欧州がこの冬にエネルギー不足やとその価格高騰に根負けし、ウクライナに停戦を迫るというシナリオに賭けている。しかもロシアの望む条件で。

 8月24日、ロシアはかつて、「冬将軍」の加勢を得てナポレオンとヒトラーを打ち負かした。プーチン大統領は今、欧州がこの冬にエネルギー不足やとその価格高騰に根負けし、ウクライナに停戦を迫るというシナリオに賭けている。サンクトペテルブルクで7月31日撮影(2022年 ロイター/Maxim Shemetov)

大統領府の考え方に詳しい2人のロシア筋は、これが同国の想定する唯一の和平への道だと語る。ウクライナは同国全土からロシアが撤退しない限り交渉に応じない姿勢だからだ。

ロシア筋の1人は、「われわれには時間があり、待つことができる。この冬は欧州にとって厳しい季節になるだろう。抗議活動や社会不安が起こる可能性もある。欧州の一部指導者らは、ウクライナを支援し続けるべきかどうか考え直し、交渉に応じる時が来たと思うかもしれない」と語った。

もう1人は、既に欧州の結束にはほころびが見えており、冬の厳しさの中でそれに拍車がかかるというロシア政府の見方を紹介。「戦争が秋冬まで長引けば、本当に厳しくなるだろう。だから(ウクライナ側が)和平を申し出ると期待できる」と述べた。

ロイターはロシア政府にコメントを要請したが、回答を得られていない。

ウクライナと、同国を強力に支援する西側諸国は、降参するつもりはないとしている。複数の米高官は匿名を条件に、ウクライナへの支援が揺らぐ兆しは今のところ皆無だと述べた。

欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長はウクライナ独立記念日の24日、「EUはこの戦いにおいて当初からあなた方の味方だ。必要とされる限り、味方であり続けるだろう」とツイートした。

ウクライナは、戦場において状況を変えられる可能性があると考えている。

ウクライナのポドリャク大統領顧問はロイターに対し「ロシアとの交渉を可能にするには、前線の現状をウクライナ軍優勢に変える必要がある」と述べた。「ロシア軍が戦術的に大敗を喫することが必要だ」という。

<意志のテスト>

欧州諸国はこの冬、ロシアに代わるエネルギーの供給源確保や省エネによって冬を乗り切ろうと模索しているが、需要を全て賄えると予想するエネルギー専門家はほとんどいない。

駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏は「米国は中間選挙、英国は首相交代を控え、ドイツは天然ガス不足を死ぬほど心配し、ライン川の水位が大幅に低下している以上、われわれが(ウクライナの戦争への)関心を失うことをロシアはもちろん期待しているだろう」と話す。

「戦争とは兵站、そして意志のテストだ。試されるのは、われわれ西側がロシアに勝る意志を持っているか否かだろう。厳しい試練になると考えている」

ロシア当局の考え方に詳しい1人目の関係筋によると、ロシアが将来仮に和平合意に応じる場合には、領土を確定し、ドンバス地方全体を掌握し、ウクライナに軍事的中立を約束させることを望む見通しだ。

<消耗戦>

両軍は長い消耗戦に入っており、どちらも決定的な打開策を見出せていない。

ポーランド在住の軍事アナリスト、Konrad Muzyka氏は、ウクライナ東部のいくつかの地域ではロシア軍が主導権を握っているが、装備や人員の大幅な増強がない限り、一方が優位に立つとは考えにくいと指摘。「それができる者が戦争に勝つだろう」と語る。

ロンドンのシンクタンクRUSIのアナリスト、ニール・メルビン氏の見立てでは、今から冬にかけての戦況が戦争の行方を決する可能性がある。

「ウクライナは西側の支持国に、戦闘に勝てることと勢いがあることを納得させる必要がある。この期間にロシアを押し返し、その勢いを維持できることを示せれば勝ちだ」とメルビン氏は言う。

しかし、戦争が長引くほど燃料、ガス、電気、食料の価格高騰による痛みは激しくなり、西側がウクライナを巡って分裂するリスクは増す。

「全ての経済指標が今、マイナスに転じている。ウクライナが勝ちそうな様子が見えない限り、アパートで震えている人々を(苦難を受け入れるよう)動機付けるのは難しくなるだろう」とメルビン氏は予想する。そうなると政治的な和解を求める圧力が高まり、EUと北大西洋条約機構(NATO)双方に亀裂が入りかねないという。

<核兵器使用のリスク>

元駐ロシア英国大使のトニー・ブレントン氏は、ウクライナが何らかの突破口を開けない限り、西側諸国は「ある時点で」ウクライナに「不愉快な妥協を飲ませる必要が出てくる」かもしれないと指摘する。そしてロシアは屈辱的な敗北に直面した場合、紛争をエスカレートさせる恐れがあると警告する。

「ロシアにとっての選択肢が、負け戦を続けて大敗し、プーチン氏が倒れる、もしくはデモンストレーション的に核兵器を使用する、という二者になった場合、核兵器のデモンストレーション的使用を選ばないとは限らない」とブレントン氏は話す。

ロシアは、戦術核を使用する必要があるという考えを繰り返し否定してきた。

「ロシアのウクライナ戦争への道」の著者であるサミール・ピュリ氏は、ウクライナは戦争の力学を変えられない限り、自国領土の最大4分の1がロシアの支配下に置かれ、事実上の分割統治を強いられる恐れがあると言う。

「ロシアは腰を据えて領土獲得を狙い続けることができそうだ。残念ながら、中期的に最も可能性の高い結末は分割統治だ」とピュリ氏は語る。

もっと楽観的な意見もある。

元駐欧州陸軍司令官のホッジス氏は、「ロシアの兵站システムは疲弊しており、すぐに良くなることはないだろう」と指摘。「米英を中心とする西側諸国が約束したものを提供し続ければ(中略)ウクライナが年末までにロシアを2月23日の線まで押し戻すことは可能だと楽観視している」と話す。

*カテゴリーを追加して再送します

(Andrew Osborn記者)

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