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アングル:求む義肢装具士、ウクライナ戦傷者増加で不足深刻

[ロンドン/キーウ 28日 ロイター] - 義肢装具を専門とするウクライナの首都キーウ(キエフ)のクリニックには、負傷兵が絶えず運び込まれている。ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす人的損失を痛感させる光景だ。両国とも、軍の犠牲者数については固く秘密を守っている。

 義肢装具を専門とするウクライナの首都キーウのクリニックには、負傷兵が絶えず運び込まれている。ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす人的損失を痛感させる光景だ。写真は義肢装具クリニック「ウィズアウト・リミッツ」で作業するアンドリー・オブチャレンコ氏。キーウで9日撮影(2023年 ロイター/Alina Yarysh)

1000キロメートルに及ぶ前線での絶え間ない砲撃、さらにはウクライナ全土に対するロシアの頻繁なミサイル攻撃を背景に、ウクライナで金属片による身体障害が拡大していることが顕在化しつつある。

「残念ながら、患者数は大幅に増えた」と語るのは、義肢装具クリニック「ウィズアウト・リミッツ」で医師、装具士によるチームに参加するアンドリー・オブチャレンコ氏。現在ウクライナでは、この種のクリニックが約80カ所稼働している。

クリニックのオーナー、ナゲンデル・パラシャル氏がキーウで経営する企業は、昨年下半期だけで約7000個の義肢装具部品を製造した。2021年通年と同じ水準だ。「それでも十分ではない」と同氏は言う。

パラシャル氏は、ウクライナ国内で展開する9カ所のクリニックで、25人の装具士を雇用している。最も多忙なキーウとリビウでは1カ月に20─30人の患者に対応する想定だ。だが現在では患者数がその3倍に達しており、最大であと75人の装具士を確保する必要があるという。

今年に入ってロシアは兵員・火力を増強しており、アナリストの中には、ここ数カ月のウクライナ東部における終わりの見えない激しい塹壕戦は、第1次世界大戦を思い起こさせるという見方もある。

ウクライナのビクトル・リャシュコ保健相はロイターとのインタビューで、「装具士は本当に人手不足だ。毎日のように、義肢装具による治療を必要とする人々が多数生じている」と語った。

「今のところ優先度が高いのは上肢の方だ。こちらに対応する装具士の負担が大きくなっている」

先日の朝、オブチャレンコ氏のキーウのクリニックでは、義足を必要とする兵士2人を診察し、3人目の兵士のために新しい装具の調整を行った。このほかにも数人がリハビリ訓練のために来院した。スタッフによれば、キーウを狙った最近のロシアによるミサイル攻撃で、他の患者への対応が延期になった。

フルネームを伏せて取材に応じたデニスさん(28)は、東部の都市クラマトルスクに配備されていた自身の部隊から50メートルの距離にロシアのミサイルが着弾し、左足を失ったという。

車椅子に乗ったデニスさんはロイターに対し、「地下壕の後にいた戦友は金属片で負傷し、出血多量で亡くなった」と語る。

命が助かっただけでも天の恵みだから、不満を口にしても仕方がない、とデニスさんは言う。回復したら市民としての生活に戻るつもりだ。オブチャレンコ氏によれば、四肢の切断手術を受けた兵士の多くは、戦場に戻ることを志願しているという。

ドミトロ・ジルコさん(22)は、東部バフムト近郊の村での戦闘で、近くに砲弾が着弾して負傷し、切断した右脚の代わりに義足を装着したばかりだ。バフムトでは、ウクライナ侵攻における最も激しい戦闘がなお続いている。

ジルコさんは「(バフムト西部にある)ドルジュキーウカで脚の切断手術を受けた」と語る。「今日はリハビリ訓練の4日目だ。義足で立った時、生きていると実感した」

<脚、手、肘>

義肢装具メーカーとして世界最大の市場シェアを誇るドイツのオットーボックでは、2022年下半期に義足の販売数が2021年通年の約2倍に達した。ロイターの取材に応じたオリバー・ジャコビ最高経営責任者(CEO)は、増加はウクライナ紛争によるものだとしている。

ロシアが13カ月前に全面侵攻を開始する前、下肢と上肢の比率はおおむね9対1だったが、現在は半々になっているのではないか、とジャコビCEOは言う。

ウクライナ国内の義肢装具士、技術者、研修生の数は約300人。だが、慈善団体「プロテス・ハブ」の創設者アントニナ・クムカ氏によれば、手や腕のような機能を備えた装具を装着できるのは5人だけだという。「プロテス・ハブ」は、ウクライナ国内79カ所の義肢装具クリニックと協力して活動している。クリニックの数は2021年の65カ所に比べ増加している。

クムカ氏は、肘などの部位を置き換える義肢が不足しており、人によっては装着するのに最長6カ月も待たされていると話す。

これまで少なくとも100人の患者が海外で義肢のフィッティングを受けているが、長期間の予後観察が必要であることを考えると、理想的ではないと同氏は指摘する。

専門家らは、この先も支援を必要とする四肢切断患者に対応するため、ウクライナではインフラとスタッフへの大規模な投資が必要になると指摘する。義足のコストは、下は500ドル(約6万6000円)から、より高機能なものについては7万ドルもかかる場合があるという。

ウクライナ社会政策省が義肢装具の購入・装着費を給付した件数は、2022年に前年比15%増の1万3219件となった。これまで報道されていない同省のデータから明らかになった。

四肢切断手術を行ってから新しい義肢を装着するまでの療養には最長で4カ月かかり、政府による給付までには、さらに時間がかかる。

米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は昨年11月、ウクライナで死傷したロシア軍兵士は少なくとも10万人に達するとの見方を示し、ウクライナ軍も「おそらく」同程度の死傷者が出ているだろうと述べた。

西側諸国の当局者の中には、今年2月の時点でロシア側の死傷者数は倍増したとの見方もある。ウクライナ、ロシアとも最新の数を明らかにしていない。

ウクライナの義肢装具・整形外科関連の業界団体「オルトネット」でCEOを務めるオレクサンドラ・カザリアン氏は、会員企業の1つであるテルスが運営する3カ所のクリニックで対応した件数は、一昨年の約600件に対し、昨年は20%増加したと語った。2023年にはさらに30─40%の増加を見込んでいるという。

テルスは、戦況次第では事業を拡大する予定だが、新クリニックの開設場所については確かなことが言えないという。

「どこなら安全と言えるのか、誰にも分からない」とカザリアン氏は述べた。

(Natalie Grover記者、Stefaniia Bern記者、翻訳:エァクレーレン)

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