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焦点:戦争長期化で石炭に「最後のブーム」か、アフリカに活況

[ダルエスサラーム 20日 ロイター] - のどかな空気の漂うタンザニアのムトワラ港では、昨年末まで、主な貨物と言えばカシューナッツだった。だが最近では、石炭を満載する船舶が忙しく行き交う。ロシアによるウクライナ侵攻を機に、燃料としては環境負荷が高い石炭を求めて、世界的な争奪戦が起きているからだ。

 9月20日、のどかな空気の漂うタンザニアのムトワラ港では、昨年末まで、主な貨物と言えばカシューナッツだった。写真は南アフリカ・ヨハネスブルクから約90キロ北東にあるブロンコーストスプルートでトラックに積まれる石炭。4月26日撮影(2022年 ロイター/Siphiwe Sibeko)

タンザニアから輸出される燃料炭の行き先は、従来は東アフリカの近隣諸国に限られており、さらに遠方に輸出するなど論外だった。国内南西部に分布する炭鉱からインド洋に面した最も近いムトワラ港まで、600キロ以上の距離をトラックで運ばなければならないからだ。

しかし、欧州のエネルギー危機で状況は一変した。

発電用に用いられる燃料炭の価格は過去最高の水準まで跳ね上がっている。ウクライナにおける戦争の影響で、欧州諸国の多くが主力調達先と頼むロシアからの天然ガス・石炭の供給が絶たれたからだ。

欧州その他諸国の買い手は、タンザニアやボツワナ、場合によってはマダガスカルといった国々の、たいていはアクセスの不便な炭鉱で産出される石炭を求めて、競い合うように高値を付けている。こうした石炭需要の復活は、ロシア産のエネルギー資源への依存から脱却しつつ電力価格を抑えたいという各国政府の思惑に支えられているが、最も環境負荷の高い化石燃料である石炭から撤退するという気候変動対策とは矛盾している。

「ロシアによる戦争が始まって以来、欧州諸国は石炭さえあればどこでも行くという姿勢だ」語るのは、タンザニアの最大都市ダルエスサラームの炭鉱企業ブルースカイ・マイニングスでマネージングディレクターを務めるリズワン・アフメド氏。「非常に良い価格を提示してくれる」

コモディティ商社カーギルで海上輸送部門を率いるジャン・ディールマン氏によれば、カーギルではここ数カ月、欧州向けの石炭輸送の顕著な増加を確認しているという。カーギルでは6-8月に世界全体で900万トンの石炭を輸送した。前年同期は700万トンだった。

「欧州諸国は他のバイヤーたちと競合しているが、もう一つの選択肢である天然ガスはさらに高コストだ」とディールマン氏は言う。「欧州は石炭を調達可能だろうし、コロンビアや南アフリカ、あるいはさらに遠方から欧州へと非常に活発な石炭流入が見られるだろう」

地政学的な動向が変化すれば、今回のチャンスが短期的なものに終る可能性はあるが、石炭資源を抱える国々の中には、現在の高値はあまりにも有利で、とうてい見過ごすわけには行かないと考える国もある。

世界価格の指標となる豪ニューカッスル港積み出しの一般炭の現物価格は、9月16日の時点で1トン当たり429ドルとなっている。3月に付けた過去最高の483ドル50セントにはわずかに及ばないが、昨年同時期には176ドル前後だった。

ムトワラ港の担当者によれば、同港から初めて石炭が出荷されたのは昨年11月で、それ以来、13隻が石炭を積載して出港したという。最新の例は先週入港した載貨重量3万4529トンのバルク貨物船「MVミス・シモナ」で、積載を済ませてフランスに向けて出港した。

海運・コモディティ関連のデータ分析サイトであるシップフィックスの分析によれば、6月末以降、スポット輸送市場ではタンザニア産石炭の出荷に向けて積載可能な船舶を求める積荷注文が57件見られた。昨年の同時期にはわずか2件だ。

船舶ブローカーのブレイマーによる分析では、7月、海上輸送による燃料炭の輸入量は、世界全体で前年比9%以上の増加で9780万トンと、過去最高の水準を記録した。8月には8900万トンに下がったが、これは主要生産国であるオーストラリアからの輸出が途絶えたためだ。

<「最後のブーム」か>

タンザニア鉱業委員会はロイターの取材に対し、同国からの石炭輸出が今年は69万6773トン前後と前年比で約2倍に増加するとの予測を示した。石炭の生産量は50%増の約136万4707トンと予想されている。

政府機関である鉱業委員会のヤハイヤ・セマンバ事務総長代理は、今回の石炭輸出の急増による相当規模の税収を当てにして、政府は石炭生産地のルブマとムトワラを結ぶ鉄道の建設を検討しているという。

ロイターが検証した貿易データでは、タンザニアで活動する炭鉱企業ルブマ・コールは、11月以来少なくとも40万トンの石炭を商社経由で輸出しており、輸出先はオランダ、フランス、インドなどとなっている。

ルブマ・コールでは取材に対するコメントを控えるとしている。

生産削減を求める強い圧力に直面する石炭産業にとって、今回は最後のブームという見方もあるが、炭鉱企業各社は過去に例がないほどの利益率を確保しつつある。コンサルタント会社サンダー・セッド・エナジーでアナリストを務めるロブ・ウェスト氏は、2020年末の石炭価格1トン75ドルでは採炭各社の利益は1トン15ドルに留まるが、価格が1トン400ドルに上昇すれば、235ドルの利益が得られると説明する。

ブルースカイのアフメド氏など一部の炭鉱企業幹部によれば、欧州諸国の商社はアジア諸国の買い手が示す買値の2倍払うこともいとわないのが実情だという。アフメド氏は、ブルースカイは現在ムトワラ港経由での輸出を行っていないものの、その計画はあるとして、ドイツ、ポーランド、英国の買い手からの打診があったと話している。

同様に、内陸国であるボツワナでは、従来は海上輸送を経由しての石炭輸出など想定外で、輸出のほとんどは隣接する南アフリカ、ナミビア、ジンバブエ向けだった。

「以前であれば、輸送を考えるだけでお手上げだっただろう。だが昨今の価格ならうまく行く可能性がある」と語るのは、ボツワナ拠点の炭鉱企業ミナジー のモルネ・デュプレッシー最高経営責任者(CEO)。

ミナジーはこれまでにナミビアのウォルビスベイ港を経由して2回、各3万トン前後の石炭を輸出した。またモザンビークのマプト港から輸出するために2回の鉄道輸送を実施している。

バニラの輸出額で世界首位に立つ島国マダガスカルは、グローバルな石炭市場における新規参入組の1つになる可能性がある。

「現在の価格水準であれば、マダガスカルの炭鉱事業者がこの国の歴史で初めて石炭輸出を開始するとしても、採算上は十分に成立する」と語るのは、マダガスカルで炭鉱プロジェクトを開発している企業の1つでCEOを務めるプリンス・ニャティ氏。

ただしニャティ氏は、新規参入組は、市況が不利になった場合に備えて、輸出市場からの撤退や、生産自体の停止まで覚悟しておかなければならないだろう、と言葉を添える。

<「石炭は頼りになる」>

石炭の需要増大と供給不足により、石炭の取引経路の再編も進んだ。ブレイマーの調査によれば、グローバルな「載貨重量日数」は7月に過去最高となった。この指標は、輸送船の稼働率と航行日数に着目して輸送量の水準を測定するものだ。

欧州連合によるオーストラリア、南アフリカ、さらには従来アジア市場向けの供給国だったインドネシアからの燃料炭輸入は、ロシアのウクライナ侵攻開始以来4カ月で11倍以上に膨れあがった。インドのコンサルタント会社コールミントのデータから明らかになった。

ロシアのウクライナ侵攻に伴い、EU諸国はロシア産天然ガスへの依存からの脱却を迫られた。またEUがロシア産石炭の輸入を禁止したため、発電事業者にとっては、代替燃料源を求めるプレッシャーはさらに強まった。

ブリュッセルで活動するシンクタンク、ブリュージェルによれば、平時であればEUが消費する燃料炭の約70%、天然ガスの40%はロシアが供給している。

欧州諸国は需給逼迫の恐れがある冬季に向けて、燃料備蓄の確保を進め、操業停止中の石炭火力発電所を再稼動させるなかで、環境分野での目標を一時的に棚上げにしている。

米銀大手バンク・オブ・アメリカのアナリストらは、「過去3年間で多くの石炭火力発電所が閉鎖されてきたにもかかわらず、今回の強いインセンティブを受けて、石炭・褐炭による火力発電は前年比で25%増大している」と指摘する。

燃料炭の燃焼が今のペースで増大していけば、各国は二酸化炭素排出量削減に関する野心的な目標を達成できなくなる可能性がある。エネルギー分野のシンクタンクであるエンバーによれば、EUでは、ロシア産天然ガスの供給が完全に止まれば、石炭をよけいに燃やすことで二酸化炭素排出量が年1.3%増大するという。

欧州諸国の政府は、エネルギー危機がどれくらい続くか次第であるとはいえ、これは一時的な変動であると主張している。ドイツは電力供給を確保するために、石炭火力発電所の閉鎖予定を一部先送りしている。

ボツワナの炭鉱企業ミナジーは、将来的にはともかく、少なくとも2023年半ばまでは強気の石炭市場が維持されるだろうと見ている。同社は生産能力を倍増させたいと考えている。

ミナジーでは、「石炭をめぐるネガティブな話は影をひそめた。戦争に起因するエネルギー危機において、石炭は頼りになるエネルギー源として支持されている」と述べている。

(Sudarshan Varadhan記者、Helen Reid記者、Nuzulack Dausen記者、Jonathan Saul記者、Nina Chestney記者 翻訳:エァクレーレン)

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