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アングル:ロシア富豪の豪華ヨット、制裁逃れてモルディブへ

[マレ(モルディブ) 7日 ロイター] - 3月9日、石炭と肥料の生産で巨額の富を築いたアンドレイ・メルニチェンコ氏の名が、欧州連合(EU)による制裁対象者のリストに載った。翌日、同氏のスーパーヨット「モーターヨットA」がモルディブ領海で位置情報の発信を停止した。

 石炭と肥料の生産で巨額の富を築いたアンドレイ・メルニチェンコ氏の名が、3月9日にEUによる制裁対象者のリストに載った。翌日、同氏のスーパーヨット「モーターヨットA」がモルディブ領海で位置情報の発信を停止した。写真は2017年5月にモナコで撮影した、同氏所有のモーターヨットA(2022年 ロイター/Stefano Rellandini)

その4日後、イタリアでは当局がメルニチェンコ氏の別の船舶を差し押さえた。世界最大の帆走ヨットであり、イタリアの金融監督当局は、5億7800万ドル(約716億円)相当と推定している。

当局が船舶の位置追跡に使っている機器の電源を切れば、監視の目から逃れやすくなる。

だがモルディブでは、制裁対象であるロシア新興財閥(オリガルヒ)の資産に対して何らかのアクションが起こされる可能性は、いずれにせよ低い。モルディブ政府閣僚や外交官、スーパーヨット関連産業の専門家など、ロシア系資産に対する米国と欧州の制裁への対応をめぐる同国内の議論に詳しい10数人へのインタビューから明らかになった。

2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻への対応として西側諸国が一部のオリガルヒに対して制裁を科して以来、インドの南西に位置する島しょ国モルディブには、ロシア系のヨットが6隻来航。メルニチェンコ氏のヨットもそのうちの1隻だ。局が制裁に慎重なアプローチをとっているため、ヨットを所有するロシアのオリガルヒにとってモルディブは魅力的な避難先として浮上している。

船舶追跡サイト「マリントラフィック」によれば、6隻のうち3隻は現在位置をはっきりと示さず、申告されていた行き先を変更するか国際水域に入っている。

モルディブのフセイン・シャミーム主任検察官はインタビューに対し、同国の法制はそこまで厳格ではなく、ヨットの差し押さえは「現実離れ」している、と話す。国内法のもとで犯罪が生じていない限り、モルディブに来航する船舶を当局が簡単に差し押さえる訳にはいかない、というのが同氏の説明だ。

メルニチェンコ氏の広報担当者は先月のロイターの取材に対し、同氏は制裁に異議を唱えるだろうと語り、同氏のプーチン政権とのつながりはまったくないとも付け加えた。

建造企業が公開した写真を見ると、全長119メートルの「モーターヨットA」はクリスタル製の家具や3つのプールを備えており、ヨット専門誌によれば評価額は3億ドル。メルニチェンコ氏の妻は、内装デザインには自身も関与したと発言している。

メルニチェンコ氏の広報担当者は2017年、BBCへの声明で、この帆走ヨットが同氏の所有であることを認めている。どちらもフランスの有名なデザイナー、フィリップ・スタルク氏のスタイリングによるものだ。

<安全な避難場所>

モルティブの状況は、複数の国が依然として安全な資産逃避先を提供している現状で、西側諸国が対ロシア制裁の対象となったオリガルヒの資産を締め上げことの難しさを浮き彫りにしている。

米国、英国とEUは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてロシアのプーチン大統領や国会議員、ビジネスマンらを対象とする広範な制裁を導入した。ロシア政府は、今回の侵攻をウクライナの「非武装化」と「非ナチ化」を目指す特別軍事作戦と称している。

欧州諸国では別荘や船舶などの資産の差し押さえが実施され、当局は、制裁対象とされた数十人のオリガルヒが所有する船舶を少なくとも6隻差し押さえている。

欧州委員会のピーター・スタノ広報官は、制裁はEU加盟国以外やモルディブなど非同盟諸国に対する拘束力を持つものではないものの、全ての国に制裁への参加を呼びかけていると話す。

モルディブは国連総会のウクライナ侵攻非難決議に賛成し、ロシアの制裁対象者に対する国際的な取り組みを支持すると表明している。

だがモルディブ当局者は、現実には、ロシア富裕層が島に来なくなることによる経済的な影響が心配だと話している。

白砂のビーチと1200近い島々(多くは無人島)を持つモルディブは、超富裕層お気に入りのリゾート地だ。

マグロとココナツ以外にこれといった天然資源のない離島にすぎなかったモルディブは、観光業によってこの30年で中所得国にまで浮上してきた。コロナ禍以前の国民1人あたりGDPは1万ドルを超えており、南アジアでは最も高い。

56億ドルのGDPのうち、約3分の1は観光業によるものだ。モルディブ観光省のデータによれば、ロシア人観光客の支出は平均より高く、ウクライナ侵攻前の最後の月となった1月の入域者数ではロシア人が断トツの首位だった。

アブドゥラ・マウスーム観光相によれば、その後、ロシアからの入域者は70%減少した。同観光相は、回復を願っているという。

「我が国の入国政策は非常に開放的だ。モルディブはオープンな国だ」とマウスーム観光相は言う。

<「誰にも手は出せない」>

アブドゥル・ハナン氏は、ロシア人顧客を含む船舶オーナーに燃料や食料を供給する「シール・スーパーヨット・モルディブ」の経営者だ。

ハナン氏によれば、ヨットの維持費は週に何十万ドルもかかるのが普通で、顧客の約半分はロシア人だという。他のスーパーヨットのオーナーと同様、ロシア人顧客も冬をインド洋で、夏を欧州で過ごすことが多い、と同氏は言う。

ハナン氏は、制裁が発表されて以降、スーパーヨットで航海中のロシア人オーナー数人に会ったと言う。彼らは困難な時期を味わっている「控えめで普通の人々」だとしつつ、このオーナーたちが制裁対象者かどうかについては触れなかった。

ロシア人オーナーたちは、当面ヨットを国際水域に留めておこうとしており、数カ月単位でそうした水域に留まることは可能だとハナン氏は話す。

「そうすれば、誰も彼らのヨットに手を出せない」

モルディブ領海内の船舶の航行を監視しているモルディブ税関の広報担当者に現在領海内にいるロシア人オーナーのヨットの数について問い合わせたが、回答は得られなかった。

<中国との綱引きも>

モルディブの国際金融取引に詳しい当局者は、米国財務省から「ロシア関連資産の差し押さえを怠れば米国の金融市場へのアクセスに影響が出る」という警告があれば、モルディブ側としては無視することは難しいとしつつ、今のところそうしたメッセージは送られていないと語る。

米国でオリガルヒの資産凍結を担当するタスクフォースを率いるアンドリュー・アダムズ氏に、モルディブなどの資産逃避先について尋ねたところ、たとえオリガルヒが秘密を保持できそうな国にヨットや自家用機、その他の資産を隠そうと試みるとしても、米国政府は「過去に類を見ないほどの」協力を得ている、との回答があった。

だが、西側諸国の外交官2人は「政治的に不安定で財政面でも制約のあるモルディブに対し、制裁に関して難しい選択を迫れば、中国への接近という結果につながる可能性もある」と指摘する。モルディブの前政権は中国政府との関係を強化したが、このところは西側諸国及びインドとの関係が改善しつつある。

外交官のうち1人は、モルディブが対ロ制裁に関して妥協しなかった場合、「(同国にとって)経済的なリスクが伴うことを我々は認識している」と述べた。

(Alasdair Pal記者、Mohamed Junayd記者 翻訳:エァクレーレン)

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