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焦点:侵略反対でも「白い目」、在外ロシア人の苦難と不安

[トビリシ/イスタンブール 4日 トムソン・ロイター財団] - ウクライナ侵攻が始まって数日後、ロシア・サンクトペテルブルク出身のIT技術者のディミトリさん(23、仮名)は難しい判断を迫られた。ジョージアの首都トビリシに移るか、さもなくば失業するか、だ。

 侵略に反対するロシア人の国外脱出を支援するNPOによれば、侵攻以来、自国を離れたロシア人は30万人と推定される。だが、誰もが温かく迎えられたわけではない。写真はウクライナで義勇軍に加わり紛争で死去した、ジョージア人を追悼する人々。同国の首都トビリシの空港で3月24日撮影(2022年 ロイター/Irakli Gedenidze)

西側諸国による対ロシア制裁を踏まえて、ディミトリさんが勤務する多国籍企業はスタッフに対し、ロシア事業の閉鎖とトビリシへの移転を通告した。

ディミトリさんは本名を伏せることを希望しつつ、「会社からは、トビリシに移るなら支援するが、さもなければ退職するようにと言われた」と語る。

1週間もしないうちに、ディミトリさんはトビリシに向かう機中の人となった。同乗したロシア人らが荷物をまとめた理由は、制裁の影響回避、戦争への怒り、反政権派支持者への弾圧の恐れなどさまざまだった。

侵略に反対するロシア人の国外脱出を支援する非営利団体(NPO)「OKロシアンズ」によれば、ロシア政府の主張するウクライナ非武装化を目的とした「特別軍事作戦」が始まった2月24日以来、自国を離れたロシア人は30万人と推定されるという。

トムソン・ロイター財団では、この推定について独自の裏付けを得ることはできなかった。

OKロシアンズが3月半ばに実施したオンライン調査では、出国者の大多数は技能を持つ若手の専門職で、全体の約3分の1をIT専門家が占めていることが分かった。

母国を離れたロシア人の多くは、ジョージアやトルコ、アルメニアを目指した。ビザなしで入国できる体制で、しかもすでにロシア人コミュニティーがあるからだ。

だが、誰もが温かく迎えられたわけではない。

かつてソビエト連邦を構成する共和国だったジョージアでは、2008年にロシアとの短期間の戦争に敗れ、現在では領土の約5分の1で実効支配を失い、その地域にはロシア軍の進駐を許している。それだけに、ロシア人の流入には疑いの目を向ける者もいる。

車でジョージアに入国するロシア人ドライバーの中には、ナンバープレートの赤・白・青のロシア国旗を隠し、ときにはウクライナ国旗の色である青と黄のステッカーを貼っている者もいる。

<ウクライナへの支持>

ジョージアは今回の侵攻に関してロシアへの制裁を課していないが、世論調査によれば、ジョージア国民の圧倒的多数はウクライナ支持派だ。

反ロシアを掲げてトビリシで活動する団体「シェーム(恥)・ムーブメント」に参加する人権活動家ノダル・ルカッツェ氏は、ロシアでの抑圧を逃れてくる人々に紛れて、プーチン大統領の支持者がジョージアに入国してくることを懸念しているという。

「残念ながら、プーチン政権の支持者か否かを見分けることはできない」と語るルカッツェ氏は、3月にトビリシで行われたウクライナ支援のデモで拘束された経験がある。

先月初め、ジョージアの大手銀行の1つが、口座を開設しようとするロシア人に対し「ロシアによるジョージアとウクライナへの侵攻を非難する」声明に署名するよう求めた。ただしこの要請は後に撤回された。

トビリシの街頭では、活動家らが「レストランや他の活動で役に立つ情報を提供する」とうたうQRコードを印刷したポスターを出している。だが実際にそのコードを読み取ると、ロシア軍が爆撃で破壊したウクライナの様子を表示するウェブサイトへと転送される。

また不動産会社ダズホームズのヌツァ・ネムサジェ氏によれば、新たな移住者による需要が急増したため過去1カ月で市内の家賃が約2倍に上昇する一方で、多くの家主がロシア人向けの賃貸を拒否しているという。

「なぜそんなことをするのか理解できない」とネムサジェ氏は語る。「(ロシア人らは)プーチン氏ではないのに」

<ロシア系企業>

プーチン政権に対する批判で知られ、服役中の反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏を支持するロシア人エンジニアのオルガ・クストワさん(35)は、ロシア人に対する複雑な感情は理解できるが「いささか礼を失している」とも感じるという。

「一方では、実に分かりやすい。私たちはロシア人で、ロシア人は侵略者だ」とクストワさんは言う。夫、母親、2人の子どもと共にサンクトペテルブルクを離れ、2月下旬に借りたトビリシのアパートで取材に応じた。

「しかしもちろん個人的には、それはあんまりじゃないかと思う。だって、私たちは長年プーチン体制と戦おうとしてきたのだから」

ジョージア政府としては、ロシアからの人材・企業の流出に乗じて長期的な利益確保に努めつつも、ロシア政府を刺激することは避けたい。

ジョージアは制裁に参加しないだけではなく、自国からの義勇兵がウクライナでの戦闘に加わることを阻止しようとしてきた。また、政府の承認なくウクライナ支持を呼び掛ける外遊を試みた自国の大統領を提訴することをちらつかせている。

先週は「ウクライナやロシアで活動している多くの国際的企業に、(略)事業拠点をジョージアに移転するよう説得する多大な努力が行われている」というダビタシビリ経済大臣の発言が報じられている。

ニュースサイト「アイファクト」のデータでは、過去1カ月間に、ロシア人によるジョージアでの会社登記件数が1000件を超えたという。また、トビリシのシェアオフィスは大賑わいだ。

オフィス賃貸会社のIWGでトビリシ地域担当責任者を務めるルスカ・チャクベタゼ氏は、2月から3月にかけてデスクの注文が3倍に増えたと語る。

<不確かな未来>

とは言え、多くのロシア人にとって、他国での暮らしの展望は不透明だ。

クストワさんはトビリシに到着してから1カ月以上、息子を受け入れてくれる学校を見つけられなかったという。

やはり自国を離れた多くのロシア人が向かったイスタンブールでも、有効な在住許可がないため、銀行口座の開設が難しくなっているとの報告もある。ビザ無しで入国した場合、滞在が認められるのは最長90日だ。

トルコは対ロシア制裁に反対しており、自国内では制裁を行っていないにもかかわらず、クレジットカードが使えなくなったために宿泊先を見つけるのに苦労している人もいる。

さらに別の国へと移動を重ねることを検討している人もいる。

ロシアの地方ニュースサイトで働くジャーナリストのマキシム・ポリヤコフさん(37)は、「ここに滞在するのはたぶんあと2週間。その後は、欧州連合(EU)内の国に行く」と語る。

「我々のチームでは3─4カ月間、一部のスタッフを(欧州に)移動させることに決めた。何が起きるか誰にも分からないので、以前のように計画を立てるのは無理だ」

サンクトペテルブルク出身で反政権派を支持する教師のイリーナさん(38)は、3月初めに身の危険を感じ、夫と3人の子どもを残してロシアからイスタンブールに逃れた。イリーナさん一家は、第三国で合流して仕事を見つけたいと考えている。

姓は伏せてもらいたいというイリーナさんは、「私たちの国では、すべてが完璧とは言わないまでも、多くのことを変えていけると信じていた。政治や市民社会、市民教育に参加することでね」と話す。

「でも現実を見れば、私たちが間違っていたことは明らかだ。この先にあるのは、不確実性と困難な試練だ」

(Umberto Bacchi記者、Angelina Davydova記者 翻訳:エァクレーレン)

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