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焦点:新START、修復ほぼ不可能 核リスク拡大へ

[ロンドン 21日 ロイター] - ロシアと米国の核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)は、ロシアのプーチン大統領の履行停止表明で修復がほぼ不可能になった。ウクライナ戦争と並行し、新たな軍拡競争が勃発するリスクが高まる一方、米ロ両国は50年余りにわたりこれまでの核軍縮条約がもたらしてきた安定的かつ予測可能な核管理の枠組みに頼れなくなる。

プーチン氏は21日の年次報告演説で戦略核弾頭の保有数を制限する新STARTについて、離脱はしないが履行を停止すると表明した。しかし専門家によると、新STARTにはどちらかが参加を停止する規定はなく、白紙撤回以外に選択肢はない。

プーチン氏はフランスと英国の核兵器も考慮に入れた上でなければ議論を再開しない考えを示した。しかし専門家によると、こうした方針には米国が反対しており、条約を全面的に書き換える必要もあるため、実現不可能だという。

国際戦略研究所のウィリアム・アルバルク氏は、ロシアは新STARTがなくても存続できると判断し、撤廃となった場合の責任を米政府に押し付けようとしていると指摘した。

新STARTは両国が配備可能なミサイル1機当たりの核弾頭数を事実上制限している。米科学者連盟によると、ロシアが保有する核弾頭の総数は推定5977個、米国は5428個。

アルバルク氏は「両国の戦略核弾頭の配備数が即座に1550個から4000個に増加する可能性があり、それが一夜にして起こり得る」と危機感を示した。

核弾頭の配備を増やすと弾頭が密集し、敵国から狙われやすくなるというジレンマが生じるため、不安定化の恐れがあるという。

 2月21日、ロシアと米国の核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)は、ロシアのプーチン大統領(写真)の履行停止表明で修復がほぼ不可能になった。同日、モスクワで撮影されたクレムリン提供写真(2023年 ロイター)

<巨大な不安定性>

プーチン氏は、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナによるロシア攻撃を支援しているのに、米国が新STARTで認められているロシアの核施設査察の権利を要求するのは「ばかげている」と述べ、履行停止の正当性を訴えた。

プーチン氏が念頭に置いたのは、昨年12月に核兵器の搭載が可能な長距離戦略爆撃機が配備されるロシア南部サラトフの空軍基地などがウクライナ側の無人機で攻撃されたことだとみられる。プーチン氏はNATOの専門家がこの攻撃のために無人機に手を加え、近代化したと述べたが、根拠は示さなかった。

オスロ核プロジェクトの研究員のジェームズ・キャメロン氏は、新STARTが破棄されれば、敵の能力や意図についての推察が冷戦時代のやり方に戻るとみている。「つまり双方が最悪の事態を想定して動き、これまで以上に精巧なシステムとその使用計画を追加することで、両者の関係はとても不安定になり、何らかの核使用のリスクも高まる」と言う。

アルバルク氏とキャメロン氏は、プーチン氏がロシアによる核実験再開の可能性を示唆したのは問題だとみている。プーチン氏は米国が先に実験に踏み切らない限り、ロシアが実験を行うことはないと述べた。

ロシアが核実験を実施すれば旧ソ連崩壊前年の1990年以来。アルバルク氏によると、冷戦時代に米ソが核実験を行ったのは「互いに怒っているという合図を相手に送るためだった」

キャメロン氏は、どんな形にせよロシアが核実験を行えば、ウクライナ戦争における戦闘激化とみなされ、ウクライナ戦争に関連して「核兵器を使用する準備がさらに整っていることを示す試み」と受け止められるだろうと述べた。ウクライナ侵攻から1年の間、プーチン氏は西側諸国に対し、ロシアの大量破壊兵器保有に繰り返し触れ、ロシアが占領し、自国領土だと主張しているウクライナの一部地域にも核の傘を広げてきた。

新STARTが崩壊するか、もしくは2026年2月の期限切れまでに双方が更新しない場合、半世紀以上にわたる両国の核管理協定に終止符が打たれる。これは両国以外の核保有国や核保有が懸念される国にとってシグナルになる。

アルバルク氏は「インドやパキスタンはどう受け取るのか、中国はどう動くのか」と新START廃止の影響を危惧する。「冷戦よりもずっと危険だ。より多くのプレーヤーが、もっと数を増やそうと競争するのだから、世界の安全保障にとってはるかに恐ろしいことになる」

(Mark Trevelyan記者)

*動画を付けて再送します。

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