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焦点:臨床試験、ロシアと周辺国で世界の1割 対応追われる製薬業界

[11日 ロイター] - ロシアのウクライナ侵攻により、製薬業界はこの地域で臨床試験に参加している患者向けに医薬品を提供するための手段の確保を急いでいる。

 3月11日、ロシアのウクライナ侵攻により、製薬業界はこの地域で臨床試験に参加している患者向けに医薬品を提供するための手段の確保を急いでいる。写真はプラハの製薬工場で2021年5月撮影(2022年 ロイター/David W Cerny)

ウクライナはロシアとともに、がんや神経障害、消化器疾患の患者からの治療薬ニーズが切迫しており、新薬研究を手掛ける上で重要な国の一角を占める。ロシアと周辺諸国の患者は、世界中の全臨床試験参加者の10%に上る、というのが複数の専門家の試算だ。

一方、ロシアがウクライナに侵攻して2週間が経過し、現地への食料、水、医薬品供給が制限され、主要な病院が砲爆撃で被害を受ける形の人道上の危機が発生。200万人強がウクライナから避難する事態になった。

世界保健機関(WHO)の緊急対応責任者マイク・ライアン氏は「この戦争と危機に医療システムが巻き込まれつつある。一部の病院は、全く機能し得なくなったという理由で当局から見捨てられている」と懸念を示した。

こうした中で、ウクライナにおいて最も多くの臨床試験に携わっている米製薬大手メルクとスイス製薬大手ロシュは、患者に薬を届け続けるにはどうすべきか検討していると表明した。同国では2社は同国で合計約100件の試験を進めているという。

米製薬大手ファイザーなどこれまでに7社が、ウクライナでの臨床試験遂行や患者の登録に支障を来していると報告。ウクライナ全体でどの程度試験が遅れているかは不明だが、調査機関グローバルデータによると、同国内で今行われている試験は502件だ。

ロシュだけでウクライナの臨床試験は33件もあり、被験者数は同社が世界中で実施している試験の1.5%。ロシュの広報担当者は、現在ポーランド、スロバキア、ルーマニアといった近隣諸国でウクライナの患者に試験を受けてもらえる場所がないか調べているところだと述べた。「これらの患者にとって足元の状況は非常に厳しく、彼らがウクライナを離れて他国に行った場合も含め、われわれは治療を確実に受け続けられる解決策を見つけようと積極的に取り組んでいる」という。

臨床試験を手掛けるラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカはロイターの取材に対し、首都キエフで行っていた患者訪問が2月21日の週以降は中止されていることを明らかにした。

ベロシティー・クリニカル・リサーチのポール・エバンス最高経営責任者(CEO)は、ロシアがクリミアを編入した2014年にも業界はこの地域で似たような試練に直面したと説明。「当時は全面的な戦争状態ではなかった」と語り、現在ウクライナで臨床研究をするのは不可能に近いと付け加えた。また「恐らくロシアでは既存の試験を終えるのは可能だが、新たな試験に着手する意欲はそがれるだろう」と話した。

<相次ぐ登録停止>

製薬会社はしばしば、大規模な臨床試験を多くの国にまたがって行う。その際、積極的に参加する意思のある患者が多く、米国や西欧に比べて事業コストが低いウクライナとロシアは業界にとって引く手あまたの地域となってきた。

ただジェフリーズのアナリスト、クリス・ハワートン氏は、ウクライナでの戦争が長引けば、なお登録手続きをしている幾つかの試験は別の地域に移転する公算が大きいとの見方を示した。

ウクライナで事業展開している製薬会社のうち、現在進行中の臨床試験が60件近くと最も多いメルクの場合、ウクライナとロシアにおいて患者の新規登録を一時停止した。メルクは7日、商業的な顧客と同じように試験登録した患者も製品を入手できるよう手を尽くしていると強調した。

欧米のロシアに対する経済制裁は、医薬品を対象に含めていない。グローバルデータによると、ロシアで現在行われている臨床試験は842件で、世界6番目の多さだ。

もっとも複数の専門家は、研究者が入国するための航空便がないなど、ロシアで臨床試験を継続するのは難しい要因を幾つか挙げている。

米日用品・製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、ウクライナとロシア、ベラルーシで臨床試験の新規登録とスクリーニングを一時停止したと発表。ウクライナで27件の試験を実施しているファイザーも、新規患者の募集を中止した。

米製薬会社カルナ・セラピューティクスはウクライナで統合失調症治療薬の試験の登録を停止し、スティーブン・ポールCEOはロイターに、必要なら米国で被験者を追加募集する可能性があると明かした。

ベロシティーのエバンス氏は「ウクライナでは社会構造が完全に崩壊している。そうした戦争地域で臨床試験を行えるはずなどない」と述べた。

(Manas Mishra記者)

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