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焦点:エネ供給武器のプーチン戦略、「ロシアにも痛手」の試算

[モスクワ 8日 ロイター] - 「西側へのエネルギー供給を場合によっては、完全に停止する」――。ウクライナ侵攻を巡って欧米との関係悪化が続くロシアのプーチン大統領によるこうした脅しは、ロシアにとってもろ刃の剣となる恐れがある。

9月8日、「西側へのエネルギー供給を場合によっては、完全に停止する」――。ウクライナ侵攻を巡って欧米との関係悪化が続くロシアのプーチン大統領によるこうした脅しは、ロシアにとってもろ刃の剣となる恐れがある。写真は7月、クレムリンで会議に参加するプーチン氏。露大統領府提供(2022年 ロイター)

欧州連合(EU)は7日、ロシア産ガスの価格に上限を設ける案を表明。その直前にプーチン氏は、そうした上限が導入されるならロシアは供給を止めるとほのめかし「われわれにできるのは、ロシアの有名な民話のように(氷に穴を開けて尻尾で魚を釣っている)オオカミに尻尾が凍ると警告することのみだ」と言い放った。

サウジアラビアに次ぐ世界第2位の産油国で、同時に世界最大の天然ガス輸出国であるロシアから欧州へのエネルギー供給が途絶えれば、世界中のエネルギー市場は一層混乱し、国際価格はさらに跳ね上がる公算が大きい。

ロシア国営ガス会社・ガスプロムのミレル最高経営責任者(CEO)は8月、欧州のガス価格は今後1000立方メートル当たり4000ドルまで高騰する可能性があると発言している。7日時点の価格は約2200ドルだった。

ただ、EUがエネルギー調達で脱ロシア化計画をこのまま推進していけば、ロシアも痛手を受けることになる。

8月30日にミシュスチン首相が主催した非公開会合に提出された、ロシアのエネルギー戦略をまとめた文書には、ウクライナの戦争に付随するエネルギーセクターの「制約やリスク」の概要が記されている。ロイターが全体の内容を確認して明らかになった。

「2030年までの新たな情勢下での事業活動の戦略的方向性について」と題された文書は、外国顧客への供給を減らすと低価格に設定した国内販売の損失を輸出収入で補うという従来の仕組みが崩れると指摘。その結果として、各地域でのガス開発に必要な資金が不足しそうだとの見方を示した。

同文書はEUが2027年までにロシア産ガス輸入をやめると、1)30年までに年間で4000億ルーブル(65億5000万ドル)の減収になりかねない、2)27年までにガス輸出が年間1000億立方メートル減ってもおかしくない――と分析。その上で、30年までのロシアのガスセクター向け投資は約410億ドル目減りするとみている。

<エネルギーが切り札>

ロシアにとって欧州への石油とガスの販売は、ずっと主な外貨調達源だった。そして、1999年末にボリス・エリツィン氏から大統領の座を引き継いだプーチン氏が目指してきたのは、自国のエネルギー資源を切り札として、旧ソ連崩壊後に弱まったロシアの力を取り戻すことだった。

今回のウクライナを巡る欧米との対立局面でも再びエネルギーを武器に外交を展開するプーチン氏は、この戦争でロシアは新たな道に踏み出しているので何も失っていないし、むしろ得をしていると強気の言葉を発している。

プーチン氏が繰り返しているのは、欧州がロシア産石油・ガスを買いたくないのなら、あるいは価格に上限を設定するのであれば、ロシアは中国やインドに主要顧客を切り替えるというメッセージだ。

だが、これを実行するためには、東方に向けたパイプラインの建設を加速させなければならない、と同文書は指摘する。

現在、ロシアから中国への主要ガスパイプラインは「パワー・オブ・シベリア1」のみ。今年全体で見込まれる輸送量は160億立方メートルと、通常時に毎年欧州に輸送する量の11%にとどまる。

ヤマル半島にあるボバネンコボ、ハラザベイ両ガス田から中国につながる「パワー・オブ・シベリア2」はまだ完成していない。

<最悪シナリオ>

欧州がロシアに代わるエネルギーの調達先を見つけられた場合、ロシアは相当大きな試練に直面する。

同文書が描く最悪シナリオに基づくと、27年までに欧州諸国はロシア産石油への依存を完全に断ち切ることが可能で、「ドルジバ」石油パイプラインとバルト海沿岸の港が深刻な打撃を受ける。

ドルジバは昨年3600万トンを運び、バルト海沿岸の港は2019─21年で年間6000万─8000万トンの原油を取り扱ってきた。

同文書によると、ロシアのエネルギー業界は採掘の難しさなどに伴う生産コスト増加という旧来の課題に、輸出先切り替えコストとタンカー需要の高まりという新たな逆風が加わるという。

また、特に液化天然ガス(LNG)と石油精製の分野では、西側の技術が利用できなくなることで、ロシアのエネルギー業界は厳しい選択を迫られるだろう。

同文書は、LNG生産プロジェクトから技術面のパートナーが撤退すると、新規施設を稼働させるタイミングが遅れると警告。石油製品輸出は昨年の約55%相当、8000万トン分が減少し、精製活動は25─30%低下して国内向けの十分なガソリン生産も確保できなくなり、燃料価格を押し上げると懸念している。

このところは事業が順調で、今年1─6月の利益が2兆5000億ルーブルの過去最高だったガスプロムも、長期的には暗雲が立ち込める。

アナリストによると、世界全体の埋蔵量の約15%、ロシア全体の68%を握る同社は、いずれガス田の操業を停止するか、未利用ガスの燃焼処分が必要になるかもしれないという。

(Guy Faulconbridge記者)

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