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焦点:ウクライナ脱出図る留学生、立ちはだかる人種差別や資金難

[4日 トムソンロイター財団] - ナイジェリア人の医学生、ジョン・アデビシさん(27)はウクライナ北東部の都市スムイで爆撃の音にさいなまれながら、9日間も地下に閉じ込められている。出国するための資金は足りず、手段も確保できていない。

 3月4日、ナイジェリア人の医学生、ジョン・アデビシさん(27)はウクライナ北東部の都市スムイで爆撃の音にさいなまれながら、9日間も地下に閉じ込められている。写真は1日、ウクライナから脱出しようとポーランドとの国境検問所に到着した外国籍の人々(2022年 ロイター/Thomas Peter)

ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以来、100万人以上の難民がウクライナを脱出したが、足止めを食らっている人々もまだ多い。特に目立つのが、脱出に必要な飛行機や資金、人のつてを自国政府や家族に頼れない外国人留学生だ。

人種差別によって出国がさらに難しくなっている、と語る学生もいる。ソーシャルメディアを見ると、アフリカやアジア、中東出身者が国境警備隊に暴行を受け、バスや列車で乗車を拒否される動画が目に入る。そのかたわらで白人は乗車を許されている。

アデビシさんは、トムソンロイター財団に対し「賄賂をゆすり取られるので、ぼくらが避難するには大金が必要だ」と語った。

「ウクライナ西部にたどり着くのに600ドル払わされた学生たちもいる。国境では人種差別もあると聞いた。それは戦闘が始まる前からぼくらが経験していたことだ。黒人への態度は違う」と述べた。

アデビシさんの送金アプリは機能しなくなり、クレジットカードは引き出し限度額に達してしまったという。

ウクライナ外務省はツイッターで、出国時の審査で差別は行われていないとし「全ての国籍の人々に対し、到着した順に対応するアプローチを適用している」とした。

しかし、インド人のタンメイさん(24)は、自身の兄弟がウクライナを出国しようとした時に、同国の国境警備隊から暴行を受けたと話す。

タンメイさんは、インドのデリーから取材に答え「ポーランド国境近くの警備員がぼくの兄弟を乱暴に押し、スーツケースを放り投げた。兄弟とその友達に『出ていけ』とわめきながらだ」と語った。

「兄弟によると、そのウクライナの警備員たちは(白人の)人々は通している。つまり『白人じゃないやつの命など価値が無い』というわけだ」──。

<母国政府に頼れない> 

ウクライナは、比較的安い費用で留学したい外国人学生の間で人気がある。政府のデータによると、ウクライナの大学には155カ国から計7万6000人の学生が留学している。

3月1日にインド人留学生が爆撃で死亡したのを受け、同国のモディ首相はプーチン露大統領とインド国民の避難について協議した。

だが、出身国によっては、もっと不幸な目に遭っている留学生もいる。

シリア人のオルワ・スタイフさん(24)は、爆撃により中心地が焦土と化したウクライナ第2の都市ハリコフに留学中だった。ポーランド国境に近い西部の都市リビウに移動する列車に乗るため、自身と友達3人は賄賂を渡さなければならなかったという。

ソフトウエアエンジニアリングを学んでいたスタイフさんは「どこでもいいから安全な場所」に行きたいが「シリアはウクライナに大使館がないし、支援を求められる機関もないから困っている」と語った。

<トラウマ>

自国政府からの支援をあてにできず、銀行も閉まって現金自動預払機(ATM)も空っぽという状況に直面したウクライナの外国人らは、資金を融通し合うなどの方法で助け合っている。

パキスタン出身の医学生、アフィファ・マハムさんは、50人で50ドルずつ出し合って民間のバスを借り、ポーランドとの国境に移動した。通常なら2時間半の距離だが、交通渋滞と出国審査の長い行列で13時間を要した。

「あと30キロのところで、ひどい交通渋滞に遭った。バスを出て重いスーツケースを持って歩くようにと運転手に言われた。トラウマになる経験だ」と語った。

国境にたどり着くと「大勢の群衆がいて、けんかや叫び声に満ちていた。怖くて審査ゲートに近づけなかった」という。パキスタン大使の助けでポーランドの首都ワルシャワに入ることができたのは4日後だった。

ハリコフ国立医大のレバノン人留学生、ガーサン・アブダラさん(28)は、ルーマニアにたどり着くまでに鉄道、自動車、ホテルに合計900ドルを費やした。その後、ルーマニアの友人に1300ドルを借りて故郷のベイルートに帰ることができた。

ウクライナで歯学を学ぶエジプト人の兄弟、モハメド・ホッサムさんとマームード・ホッサムさんも、ポーランド国境までのバス代と母国の首都カイロまでの飛行機代として、キエフの友達から680ドルを借りた。「友達がいなかったら無理だった」とモハメドさんは語る。

<留学させてくれた両親>

ポーランドやハンガリーまで避難したナイジェリア人留学生の中には、帰国するための資金が足りないが、留学のために家族が払った犠牲を考えると欧州で学位を取る方法を見つけるしかない、と言う人々もいる。

ウクライナ東部の都市ドニプロで語学を学ぶエヒジャムソエ・ゴッドフレイさん(24)の実家は、キャッサバ(イモの一種)農家だ。卒業後は両親を支えられるようになりたいと考えて勉強している。

ゴッドフレイさんは、教会の資金援助で身を寄せているポーランド中心部のホテルからチャットアプリを通じて取材に答え「両親は全て売り払ってぼくをウクライナに留学させてくれた」と語った。

ナイジェリア政府はポーランド、ハンガリー、ルーマニアの3カ国から自国民5000人以上を非難させる計画で、今月3日にワルシャワとブカレストに飛行機2機を派遣した。

ウクライナ南東部からハンガリーに避難したナイジェリア人の医学生、オグニカ・オルワニフェミさん(20)は「国の両親は融資を受けてぼくをウクライナに送ってくれた。もう借金をしていると分かっていて(無心)できるはずがない」と話した。

見知らぬ人の親切に支えられている人々も多い。

ナイジェリア人と結婚したポーランド人のナタリア・ムフタウさんは、フィンランドの首都ヘルシンキに暮らしながら、ポーランドの人々に呼びかけて身動きが取れないアフリカ出身者を助ける活動をしている。ムフタウさんは電話取材に答え「移動するためのバスの手配から出入国関連情報の提供、国境での通訳まで、何でもやっている」と話した。

冒頭のナイジェリア人医学生、アデビシさんは同郷の友人8人とアパートにとどまり、安全な避難計画が整うまでなんとか資金が続いてほしいと望んでいる。

「怖い。次の1時間に何が起こるか分からない。国境を越えようとして低体温症や極度の疲労で亡くなったアフリカ出身者の姿をソーシャルメディアで見た。訪れたことのあるウクライナ各地が、爆撃で破壊された写真も目にする。だれにも味わってほしくない感情だ」とアデビシさんは語った。

(Kim Harrisberg記者、Nita Bhalla記者)

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