June 1, 2020 / 9:14 AM / a month ago

コラム:米、輸出増未達で対中新制裁も 日本に暴風雨リスク

[東京 1日 ロイター] - 香港問題を契機とした米中対立の激化を巡り、東京市場では楽観論が広がっている。トランプ米大統領が米中貿易協定の破棄に言及しなかったため、経済への打撃は「軽微」と思っているらしい。だが、新型コロナウイルスの影響で米国から中国への輸出は伸びておらず、同協定で中国が約束した2年間で2000億ドルの輸入増の達成は困難な情勢だ。

6月 1日、香港問題を契機とした米中対立の激化を巡り、東京市場では楽観論が広がっている。写真は5月29日、ホワイトハウスで対中方針を公表したトランプ米大統領(2020年 ロイター/Jonathan Ernst)

輸出が伸びない点を理由に米国が新たな関税引き上げや同協定の破棄を振りかざす可能性もあり、日本企業にとっては暴風雨に直面するリスクに注意が必要だ。また、トランプ大統領が言及した今回の制裁の中には、香港ドルのドルペッグ制を停止させる「劇薬」効果も忍ばせており、目が離せない展開が続きそうだ。

<中国、4月から1613億ドル輸入のハードル>

トランプ米大統領は5月29日、中国が香港の高度な自治に関する約束を破ったとし「香港に対する優遇策を撤廃する措置を取る」と表明した。ただ、具体的な内容と実施時期が不明で、1日の東京市場でのインパクトは限定的だった。加えて米中貿易協定の破棄にトランプ大統領が言及しなかったことも好感されたようだ。

だが、それは早計に過ぎないのではないか。米中貿易協定では、2020年1月から21年12月までに中国が2000億ドルの輸入を増やすことが明記されている。20年1月の合意文書によると、中国は20年に767億ドルの輸入増を達成する必要がある。19年は1066億ドルだったので20年は1833億ドルを輸入しなければならない。ところが、今年1─3月の実績は220億ドルにとどまり、前年比でも39億ドル減少している。新型コロナウイルス感染拡大の影響が出ており、4月以降に1613億ドルも輸入する必要がある。これは事実上、達成困難な数字であると言える。

<トランプ氏の手にいくつかのカード>

米中関係が良好であれば、コロナ問題がしん酌された可能性もあったろうが、香港問題が事情を一変させた。いずれ米国は、中国の輸入が少ないことを理由に、新たな関税引き上げカードを出してくる可能性がある。もし、中国が一切の妥協を拒むような対応を示せば、世界保健機関(WHO)からの脱退のように、米中貿易協定の「破棄カード」を振りかざす展開も予想される。

米中間のモノの貿易が大幅な縮小を余儀なくされると市場が見たときに、大きなショックが走ることは想像に難くない。ただ、足元ではそのリスクが顕在化せず、いつまでに何を米国が制裁として持ち出すのか、はっきりしていないため「時間的猶予がある」(国内金融機関)と解釈しているというのが現実ではないか。

<香港ドルのペッグ制に危機>

また、マネーフローの点でも、米国の制裁カードは中国を大きく揺さぶることができる。野村総研のエグゼクティブ・エコノミスト(元日銀審議委員)、木内登英氏は1日付のコラムで「米国の香港政策法では『香港ドルと米ドルの自由な交換を認める』とされているが、これが見直される可能性が出てきた」と指摘。見直された場合、香港の「ドル・ペッグ(連動)制」見直しの可能性があるとしている。見直しの結果として「海外企業が香港でビジネスを行うメリットは低下し、香港からの企業や人材の流出を加速させるだろう」と予想。「国際金融センターとしての香港の地位が低下した際には、中国、海外ともに、マネーフローの観点から大きな打撃を受ける」とみている。

これは、中国の経済成長にとって由々しき事態となるだろう。成長を加速させるために必須のマネーが取り込めなければ、コロナ前の6%成長の軌道に戻すことは難しくなる。

<日本企業に大きなリスク>

日本企業にとって、米中対立の激化は「コロナ危機」で大幅に悪化する業績をさらに下押しする非常に厄介な問題だ。

米商務省が29日発表した4月の個人消費支出(季節調整済み)は前月比13.6%減と、1959年の統計開始以降で最大の落ち込みとなった。この消費不振がにわかに回復する兆しはなく、日本の対米輸出は前年比減少が長期化しそうだ。

同様に中国から米国向けの輸出も不振を免れない。米統計によると、19年1─3月期の中国から米国への輸出額は1059億ドルだったが、20年の同じ時期は前年比301億ドル減の758億ドルにとどまった。

中国に部品や工作機械を輸出している日本企業にとっては、対中輸出の減少要因になる。日本工作機械工業会が発表した4月の対中受注額は、前年比26%減の115億円だった。

ここに米国の対中制裁が加わると、日本から中国向けの部品や工作機械だけでなく、幅広い分野で輸出減に直面するだろう。トランプ大統領の決断次第では「暴風雨」に巻き込まれかねない危機が迫っている。

今年11月に米大統領選が控えているだけに、常識では可能性の低い米中激突のシナリオが選択されるリスクが相応にあると指摘したい。

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編集:青山敦子

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