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2021年の視点:市場揺さぶる「ビッグ3」、政策手腕の巧拙で波乱含み=尾河眞樹氏

[東京 29日] - 2021年の為替市場はどのような展開になるのだろうか。そのカギを握る注目人物は誰か。今年も、市場の動きに大きな影響を与えると思われる「ビッグ3」を選び、来年の相場を展望してみたい。

 2021年の為替市場はどのような展開になるのだろうか。そのカギを握る注目人物は誰か。今年も、市場の動きに大きな影響を与えると思われる「ビッグ3」を選び、来年の相場を展望してみたい。1月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic/Illustration)

<菅首相:米新政権との信頼関係がカギ>

注目したい人物の第3位は、菅義偉首相である。今年9月に自民党総裁に選出され、安倍晋三政権を引き継いだ時点では、安倍前首相の突然の辞任によるリリーフ的なイメージが強かった。政策もそのまま踏襲するとみられていたが、デジタル庁の創設や行政改革に意欲を示すなど、独自色も現れている。

一方で、新型コロナウイルスの感染拡大という極めて困難な状況に直面するなか、足元の支持率急落にみられるように、何か一つ打つ手を間違えば、安定的な政権運営を揺るがすリスクも浮上しかねない。2021年は菅首相にとって正に課題が山積みの年だ。主なものだけを見ても、1)新型コロナ対応、2)バイデン新政権との信頼関係構築、3)米中摩擦への日本としての対応、4)コロナ禍でのオリンピック開催、5)衆議院解散総選挙のタイミング、など菅首相が抱える課題は枚挙にいとまがない。

ただ、「為替相場」への影響という点で考えると、やはり上述した2)、3)などの外交課題に加え、菅政権の為替政策に注目すべきだ。内閣府の公表している企業行動に関するアンケート調査によれば、この4年間は製造業の採算レートは1ドル=100円程度で安定している。足元でドル/円はじりじりと同水準に近づきつつあるが、政府にとっても恐らく警戒水準といえるのではないか。

しかし、1つ注意すべきポイントは、足元のドル/円下落は「円全面高」ではないことだ。名目実効為替レートでドルと円を比較すると、コロナショックの3月以降はドル安・円安のトレンドが続いている。ただ、現在はドル安圧力のほうが円安圧力よりも強くなっているために、結果としてドル/円がじりじり下落しているのだ。

したがって、他のクロス円相場を見れば、通貨にもよるが円安に振れているものも多い。ドル安が一段と加速したのは11月以降なので、同期間の主要通貨の対円騰落率を見ると、ユーロは対円で3.6%上昇。中国人民元も1.2%上昇、豪ドルは6.3%上昇している。

世界的な財政支出拡大と金融緩和のポリシーミックスで株価も堅調なため、仮にドル/円が100円の大台に接近しても、今のようにスピードが極めて緩やかであれば市場心理の悪化にはつながり難い。日銀の追加緩和はあったとしても、政府が介入などのアクションを取る可能性は低いだろう。

仮に何らかのショックでリスクオフとなり円全面高となる場合には、口先介入などでけん制するかもしれないが、投機筋主導で急激かつ一方的に円高に振れるなどしない限りは、円売り介入の実施は米国の理解も得られにくく、難しいのではないか。 バイデン政権がアメリカ第一主義から同盟国重視にシフトすることは、世界の安定にとってはプラスだ。しかし、日本にとってはトランプ時代と異なり、バイラテラルな交渉から国際社会を相手にする交渉へとテーブルが広がるため、より高度な外交手腕が問わsれることになる。

安倍政権は長期政権だっただけに、国際会議での発言はそれなりに影響力があっただろうし、トランプ大統領との個人的な信頼関係も構築していたことは、米国と2国間の交渉においてもプラスだった。バイデン氏は中国ともアメとムチのスタンスで、むしろ環境問題では協力すると述べている。国際政治がより複雑化するなかで、為替も含めた様々な課題に対応しやすくするためにも、バイデン氏との間で強い信頼関係を構築することが急がれる。 

<習近平主席:中国「独り勝ち」の手綱どうさばくか>

第2位は、習近平中国国家主席である。注目すべきは中国の景気回復の速さだ。実質国内総生産(GDP)は4─6月期、7─9月期と2期連続で前年比プラス成長となり、11月の製造業PMIは54.9と2010年以来の高水準となった。

こうした中国のいわば「独り勝ち」状態は、諸外国に比べて新型コロナの感染拡大を早期に抑え込み、早々に経済活動を再開できたことが背景だ。中国で行われたような完全なロックダウン(都市封鎖)や監視による経済統制は、良し悪しの問題を横に置けば、少なくとも今回のようなパンデミック(世界的な大流行)においては素早い景気回復に寄与しているといえよう。

加えて、コロナ禍によるテレワークにみられるように、世界でハイテク需要が高まっていることも、中国経済にとってはプラスだ。人々のライフスタイルは既に変化しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)が今後も加速度的に進むとなれば、中国経済は当面堅調に推移するだろう。

こうしたこともあって、中国人民元は対ドルで大幅高となっており、1ドル=6.5人民元と米中貿易摩擦がクローズアップされ始めた2018年以来の高値を付けている。ドル安圧力が強まっていることも、人民元高を後押ししている。

中国政府は、昨年9月や今年5月に見られたような1ドル=7.0人民元を超える元安は、資本流出加速のリスクにつながるためブレーキを踏んできた。一方、大幅な元高は中国経済のドライバーである輸出の減速につながるため、これはこれで頭の痛い問題だ。

今年10月に行われた五中全会で、中国は「強大な国内市場を形成し、新たな発展の枠組みを構築する」とうたい、内需へのシフトを鮮明にした。政策の柱は、家計所得の増加と個人消費の刺激、並びにばく大な産業補助金による科学技術立国とハイテク製品の内製化だ。    

こうした流れには、長引く米中摩擦に対する習主席の警戒や焦りも見え隠れする。しかし、産業補助金による自国産業の保護は、かえって米国の対中強硬路線を強める可能性もある。経済の外需依存度を下げるため、中国政府は今後、スピード調整は行いつつも、人民元高のトレンドをある程度許容するかもしれず、2021年は、人民元相場にも注目したい。

<バイデン大統領:「大きな政府」への離陸、なお不透明感も>

第1位は、米国のジョー・バイデン新大統領である。「小さな政府」から「大きな政府」へ、米国第一主義から同盟国重視へ、経済重視から環境重視へと米国政府の政策に大きな変化が想定されるため、目が離せない。

特に、為替について言えば、前述した11月以降のドル安加速は、バイデン氏の大統領選勝利の影響が大きいとみている。バイデン氏はクリーンエネルギーのインフラ投資に今後4年間で2兆ドル拠出すると述べていることから、「財政支出拡大→国債増発→米連邦準備理事会(FRB)の国債買い入れ増加→米長期金利低下」という、一連の「ドル安シナリオ」をマーケットは先取りしているようだ。

1月のジョージア州決選投票で、米上院の過半数が共和党となれば、場合によってインフラ投資は、バイデン次期大統領が想定するほど大規模にはならないかもしれない。その場合、ドル安圧力も和らぐだろう。1─3月頃までは、足元の米国の感染拡大や一部の経済活動制限が米国経済にとって足かせとなり、影響は尾を引きそうだ。

しかし、春ごろからワクチンの普及が本格化すれば、景気も上向くなかで、米国の長期債利回りにもじわり上昇圧力がかかるとみる。もちろん、FRBはこれを当面抑え込もうとするだろうが、景気回復を伴う長期金利の上昇は、緩やかなペースであれば徐々に容認するのではないか。

為替市場の注目が、単なるリスクオン/オフから再び金利差に戻るようであれば、ドル/円も上昇しよう。2021年のドル/円は年初にいったん101─102円まで下落した後、年末にかけては106─107円程度への回復を見込む。

2020年のドル円相場は、コロナショックに振り回された割に、値幅は約11円に留まっており全体としては落ち着いていた。米国をはじめとする世界の政府の経済対策規模の大きさと、これに伴った中央銀行の金融市場における存在感の大きさが、さながら「官製相場」といった形で、金融市場のボラティリティを抑えるのではないか。

米中の摩擦激化や、新種の新型コロナ感染などはリスクとして残るものの、1日も早くコロナ禍が終息し、2021年が世界経済にとって新たな拡大へと転じる年になるよう期待している。

*2021年の金融市場は何に注目し、どのような展開を見せるのか。ロイター編集部では年末年始にかけ、コラム特集「2021年の視点」を配信します。著名な金融機関で活躍する執筆陣が来年の相場動向や経済情勢などを予想します。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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編集:北松克朗

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