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日米首脳会談:識者はこうみる

[東京 11日 ロイター] - 米国訪問中の安倍晋三首相は現地時間10日、ワシントンでのトランプ大統領との首脳会談後に記者会見し、両国が関係強化への対話を続けるため、麻生太郎副総理とペンス副大統領のもとに新たな協議の枠組みを設けることで合意したと述べた。市場関係者の見方は以下の通り。

<SMBCフレンド証券・チーフマーケットエコノミスト 岩下真理氏>

日米首脳会談は事務方の説明努力もあって、為替と金融政策は議題に上がらず無難に終了した。市場にはいったん安心感が広がるだろう。

日米同盟や経済関係については、全体として大きな枠組みの話にとどまったが、日本からのインフラ投資で、例えば高速鉄道の建設が米国の雇用増加に資するなど米国の希望に沿う内容を提示したのだろう。両首脳は親密ぶりをアピールしたが、1月31日に日本を厳しく批判したトランプ大統領の発言は、やはり会談前に自分に有利な状況を導くための交渉術だったとわかる。

今後は麻生副総理とペンス副大統領を責任者にし新経済対話を進めていくことになる。為替については財務長官に指名されたムニューチン氏の承認が遅れており、交渉相手がそろうまで協議は進まないだろう。トランプ政権からは目先、痛烈な日本批判は出にくい状況と思われ、日銀は2%の物価目標達成のための長短金利操作を淡々と続けることが可能であろう。

新経済対話が始まってからは、協議にう余曲折は考え得るが、ペンス副大統領に任せる以上、従来に比べトランプ大統領の暴言は出難くなるだろう。

<松井証券 シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎氏>

事前に懸念されていた円安に関するけん制発言や、自動車貿易に対する批判が一切出てこなかったということで、会談はポジティブ材料とみてよい。

また、経済問題に関し麻生副総理とペンス副大統領により別ルートで話し合うと合意できたことで、トランプ大統領からは過激な発言が出にくくなるとの見方もできる。東京市場では安心感から自動車株を中心とした輸出関連株に買いが集まるだろう。

日経平均は先週末400円超高となり先回りして上昇していたため、きょうは上値では利益確定売りに押される公算が大きいが、投資家の姿勢は上値追いだ。今週中には1月5日の取引時間中に付けた昨年来高値(1万9615円40銭)を更新する見込みだ。

<シティグループ証券 チーフFXストラテジスト 高島修氏>

日米首脳会談は基本的に平和裏に終わり、今後は、日銀とFRBの金融政策を含めて議論するという麻生副総理とペンス副大統領による経済対話に焦点が移る。

早くも日豪FTAで日本市場を奪われている米農畜産業界からは、日米FTA締結を求める声が上がっている。

スライドショー ( 24枚の画像 )

友好的な日米首脳会談を経て、しばらくは、いつトランプ大統領の不規則発言で円高圧力が加えられるか分からないという局面は脱するため、ドル/円相場は今後2週間程度は111.50―114.50円のレンジ内での推移になりそうだ。

全般的な金融市場の環境として、目先は最高値更新に転じた米国株や新興国市場の底堅さが、当面はドル/円の支援材料となりそうだ。

ただ、通商政策・通貨政策面からドル安/円高の圧力が完全に消えたわけではなく、2、3カ月のスパンでみれば、ドル/円にはダウンサイドリスクがあるとみている。

4月に公表予定のトランプ政権初の為替報告書では、中国を為替操作国に認定するかどうかが注目点だ。中国に人民元高を飲ませていこうという時に、中国の競争力問題を誘発する円安が歓迎されないことは明らかだ。

さらに、通貨政策面から中国に圧力が強まる際に、円は人民元高のプロキシ―として買われる傾向がある。米為替報告書に向けて108円前後へのドル安/円高が進むとの見方を維持する。

<トウキョウフォレックス上田ハーロー 営業推進室 室長代理 阪井勇蔵氏>

無難に通過した印象だ。為替に関しては、日米の財務相トップを中心に議論を継続していくとし、共同会見でもトランプ氏は日本を名指しで通貨安誘導と批判することはなかった。ドルが一気に110円方向へ円高となることはなさそうだ。

ドル/円は共同会見でいったんドル安/円高で反応した。事前に上昇していた分の利益確定や調整が入りやすかった。中国の人民元が過小評価されているとトランプ氏が不満を漏らしたことも、警戒されたと思われる。

イベントリスクが後退したのは良かったが、ドルが114円越えを目指すには追加でニュースが必要だ。この後のゴルフを経てポジティブな話が出てくれば相場に反映する可能性がある。

週明けは、トランプ氏から税制改革で具体案が示されたり、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が議会証言で3月利上げに前向きな発言をしたりすればドル高/円安方向に動きそうだ。

<ニッセイ基礎研究所 チーフ株式ストラテジスト 井出真吾氏>

概ね想定通りの内容だった。表立って米国側から過激な圧力がかかるという風にはみていなかった。とはいえ、市場で事前に高まっていた警戒感は、若干ながら取り払われていくだろう。

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一方、ドル/円の反応が鈍い。米ダウ.DJIは上昇したものの、シカゴの日経平均先物は下落した。この点も気になるところだ。相場においても「アメリカファースト」となった印象がある。

米国の保護貿易主義への懸念が残っており、日本株は素直に買い上がれない面がある。米国株に比べ日本株が出遅れていく展開が意識される。貿易面で日米二国間での枠組みを協議していくとしても、新たな貿易ルールは日本企業にマイナスの影響をもたらしかねない。

週明けの為替市場を注視する必要があるが、ドル/円が113円─115円でとどまっている内は、日経平均の2万円台回復は難しい。

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券・シニア債券ストラテジスト 稲留克俊氏>

日米首脳会談は同盟関係の強化を確認した内容に終わった。10日の米国市場で、各市場とも反応は限られた。マーケットサプライズに乏しかったのだろう。

トランプ米大統領の円安けん制発言が日銀の大規模緩和を制約するとの見方から、円金利は上振れ方向に推移してきた。

しかし、首脳会談を受けて、いわゆる「トランプ配慮論」が後退するとみられ、円金利の上昇を抑制する材料だろう。

首脳会談を受けて、仮に円安・株高が進んだとしても、円債市場はでは、日銀の大規模な買い入れ継続による国債需給の引き締まりが意識されやすい。

当面は、日銀の買い入れ動向にらみの展開が続くだろう。

<第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏>

トランプ大統領は中国、日本との首脳会談で、ある意味でエポックメイキングな変化を遂げた印象だ。中国とは衝突回避方向に変化、日本とは安倍首相との間の空気を読んだとみえる。

安倍首相に日本にとってのリスクシナリオをごり押しすることはなかった。首相が説明した日本の貢献や立場について、今後変化する可能性は否定しえないが、一応は受け入れたとみられる。移民排斥という国内問題に火がつき、苦手な外交は専門家に任せるという判断にしたとも読める。

懸念された為替や貿易問題について、ルール作りは財務相間の議論に任せることとなったが、交渉は長期戦になるだろう。米国は「公正」、日本は「自由」と微妙に立場がやや異なるとみられるためだ。

日本経済にとってはひとまず、日米を軸とした新たな貿易の枠組みを模索するという糸口を作る方向にもっていけたのではないか。日米間の自由貿易協定(FTA)に走ってしまっては豪やニュージーランドに不満が残ることなどに配慮しながら、当初目指した環太平洋連携協定(TPP)のようにはいかないものの、マルチな枠組みのもとで、日米貿易量の増加と対米投資の積極化を促すことになりそうだ。楽観的な見方かもしれないが、その意味はプラスだろう。

日本企業としては、悪い方向にはならないだろうが、大統領就任100日が終わる4月末頃までは様子見の姿勢を取るのだろう。

<自民党参議院議員 中西健治氏>

世界にポジティブな日米関係を示すことができ、大きな成果だ。トランプ大統領は具体的な対日批判を口にしなかった。しかも、ゴルフも含めて2日間も親密な時間を過ごすというのは、おそらく今後も他のどの首脳ともないかもしれず、政治的にも大成功だ。

当面円高を迫られるリスクがなくなったとみられることから、日本経済にとっては一安心だろう。ただし貿易や経済の枠組み問題は、予断を許さないとみている。米国が主張する自由・公正な関係というものがどう影響するかはこれからの交渉次第だ。自動車問題も1日や2日で解決する問題ではない。

*コメントを追加します。

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