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アングル:黒人差別の歴史的補償、全米初の試みは手本になるか

[エバンストン(米イリノイ州) 21日 ロイター] - 米国のシカゴ近郊のエバンストン市は今、奴隷制度に端を発し、奴隷解放後も何十年も続いた差別的慣行の歴史が黒人に与えてきた被害について、子孫たちに補償を行う米国で初めての自治体になろうとしている。

 3月21日、 米国のシカゴ近郊のエバンストン市は今、奴隷制度に端を発し、奴隷解放後も何十年も続いた差別的慣行の歴史が黒人に与えてきた被害について、子孫たちに補償を行う米国で初めての自治体になろうとしている。写真は18日、エバンストンの自宅え家事をするデロイス・ロビンソンさん(2021年 ロイター/Eileen T. Meslar)

曽祖母が差別に苦しめられたというデロイス・ロビンソンさんは「この街で懸命に働いてきたアフリカ系米国人が報われる時が訪れた。彼らが他の全ての人と同等に扱われるべきであると証明されつつある」と感慨深げに話した。

曽祖母のコーディリア・クラークさんは、エバンストンでかつては黒人の店舗所有や店舗貸し出しが実質的に認められていなかったため、飲食店を営むに当たり自宅の台所で料理し、タクシー事業を手掛けるに当たり、裏庭に車両を駐車していた。

エバンストンによる最初の補償は範囲が狭く、対象も限られている。市議会は10年かけてきた取り組みで、総額1000万ドル(約10億9000万円)の補償を既に約束してきた。いよいよ22日に、まず40万ドルの支払い開始を巡る採決に入る予定だ。第1弾はごく少数の有資格の黒人住民に住宅の補修や購入頭金、住宅ローン返済向けとして2万5000ドルを支給する内容だ。

黒人差別に関するそれぞれ独自の補償策を打ち出すべきかどうかの問題に取り組んでいるほかの州や自治体にとって、エバンストンの補償プログラムは1つのモデルになり得る。こうした補償の機運が各地で高まったのは、白人警官に首を圧迫されて死亡したジョージ・フロイドさんをはじめ、警察が黒人を死傷させた一連の事件が昨年、大きく取り上げられたのをきっかけに、人種差別問題の根深さが改めて認識されたことがある。

連邦議会では、全米レベルの補償を検討するための委員会設置を求める法案が約170人の下院議員によって共同提出された。いずれも民主党のメンバーだ。バイデン大統領は今のところ補償の法制化は後押ししていないが、問題を検討することは支持している。同法案が与野党の議席同数の上院を通過する見込みは薄いため、その場合には幾つかの市民団体がホワイトハウスに大統領令を働き掛けることを計画している。

他の都市ではロードアイランド州プロビデンス、バーモント州バーリントン、ノースカロライナ州アッシュビル、マサチューセッツ州アムハーストが補償の取り組みに動き出した。ただ、具体的な金額はまだ明らかになっていない。カリフォルニア州では連邦下院の法案を参考にして、黒人への賠償を調査研究する委員会を立ち上げる法案が成立している。ニューヨーク州とメリーランド州でも同様の法案が議会に提出された。

<反対論>

ただ特に全米規模で、このような補償を実行するとなると、なお異論がある。

スライドショー ( 2枚の画像 )

人種差別への抗議運動が最高潮に達した昨年6月の時点で実施されたロイター/イプソス調査でも、連邦政府が奴隷の子孫に補償すべきだと答えたのはわずか20%にとどまった。

反対派からは、果たして現在の納税者が数十億、あるいは数兆ドル単位になりかねない補償金を負担する余裕があるのか、補償を受けられる資格をどう決めるのかといった疑問が出ている。支払い対象は人種なのか、それとも先祖が奴隷だったことか、差別を受けたという証拠で判断するのかなどだ。

エバンストンのケースでは、自身もしくは先祖が1919年から69年の間に同地に住んでいたか、市の政策のせいで住宅取得で差別を受けたと証明できれば、補償を受けられる。予算分を超える申し込みがある場合は、受給者を無作為抽出する。

一部の黒人住民は、この補償制度の規模や対象が不十分だとして反対している。どんな制度を設計しても、誰もが納得する形で、何世紀にも及んだ差別を完全に改善することはできないという困難はついてまわることを浮き彫りにしている。

<金銭超えた取り組み>

エバンストンはノースウエスタン大学がキャンパスを構え、南のシカゴとミシガン湖沿いの富裕地区ノースショアの間にある。黒人住民は全人口の約16%に当たる7万5000人だ。

米国全般と同様、エバンストンでも黒人は「レッドライニング」と呼ばれる銀行の住宅ローン慣行の差別を被ってきた。黒人居住地域ではローン提供を銀行が拒否する慣習だ。そのため黒人住民は、米国での資産形成の重要な要素の1つである「住宅」を、ずっと手に入れることができなかった。

エバンストンの黒人居住地域に対する歴史的、組織的な差別の影響は今も続いている。ロビンソンさんの曽祖母が住み、2つの事業を自宅で手掛けざるを得なかった「第5区」は現在もほとんどの住民が黒人で、不十分なインフラに苦労している。

「われわれは抑圧されてきた何百年もの遅れを取り返そうとしているが、何らかの支援なしで追いつくのは難しい」とエバンストンで不動産業を営む黒人のバネッサ・ジョンソン・マッコイさんは口にした。

一方エバンストンの補償制度に関して、当初の支払いでカバーされるのが16世帯にすぎない点や、資金の用途が住宅に限定されていることなどから、反対を唱える黒人団体もある。

全米レベルの団体からは、金銭補償だけというのは被害に比べ対策があまりにも矮小化されているとし、さまざまな格差を生み出した組織的な人種差別の解消に取り組む政策のほうが真っ先に必要だとの主張もある。

「米国における補償のための黒人全国連合」(N’COBRA)のカマン・ハワード共同委員長は「(差別の)痕跡は消し去らねばならず、将来にわたっても対応を続けていくべきだ。たとえどれだけの規模の公平化プログラムが実施されるにしてもだ」と語る。

ハワード氏は資源が限られる都市や自治体であっても、学校の授業内容改善や住宅取得機会の提供、事業開発の促進、過去の人種差別への謝罪表明といった形で補償することが可能だと訴えている。

(Brendan O’Brien記者、Joseph Ax記者)

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