[ワシントン 5日 ロイター] - ジョージ・W・ブッシュ政権下の鉄鋼関税から、欧州連合(EU)と中国の繊維製品取引を巡る対立に至るまで、世界的な貿易戦争の勃発は恐れられてきた割には、実際にそうした事態になったことは一度もない。トランプ米大統領が打ち出した鉄鋼・アルミニウムに高い関税を課して輸入を制限しようという方針も、同じ道のりをたどる公算が大きい。
ブッシュ政権が導入した鉄鋼関税については、世界貿易機関(WTO)が2003年に協定違反と認定したため打ち切られた。また05年にEUが中国製ブラジャーの輸入抑制に乗り出して起きた紛争は、両者の緊急協議によって一件落着となった。エコノミストによると、今回も結局は貿易戦争にならないのではないかという。
トランプ氏は昨年1月に大統領に就任して以来、ずっと通商問題で強硬な発言を続けているが、その激しい口調から何か具体的なことが生じたわけではない。
例えば同氏は就任初日に環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明したものの、元来議会で承認される可能性はゼロだった。また北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉についてしばしばツイッターで離脱をほのめかしながら、今のところ具体的な動きはない。
残るのは今回の鉄鋼・アルミ、それ以前に承認した洗濯機、太陽電池モジュールに高関税を課す輸入制限措置だ。ただこれらの分野は、米国経済と貿易全体に占める比率は小さい。
モルガン・スタンレーの試算では、鉄鋼とアルミ、洗濯機、太陽電池モジュールの合計は米輸入額の4.1%にすぎず、世界貿易額においてはわずか0.6%にとどまる。
トランプ氏自身も2日には「貿易戦争は望むところで楽勝だ」と豪語していたのに、5日は「貿易戦争になるとは思わない」と述べ、姿勢が軟化している。
世界的な貿易戦争への懸念で先週動揺した金融市場は5日に落ち着きを取り戻し、米国株は上昇した。
モルガン・スタンレーのストラテジスト陣は調査ノートに「最も深刻なシナリオ、つまり保護主義の動きが一番蓋然性が高いとは考えていない」と記した。
実際、これまでのところ欧州連合(EU)やカナダ、メキシコなどの対応は抑制的だ。ホワイトハウス内でも、トランプ氏の強い口調にもかかわらず輸入制限案の修正に乗り出す余地がありそうに見える。
政権外からトランプ氏に助言しているある人物は「非常にはっきりしているのは、最終的な計画はまだ存在しないということだ」と述べ、方針の確定や実行には程遠い段階にあるとの見方を示した。
米国の鉄鋼輸入において中国製品の割合は比較的小さいとはいえ、高関税の標的は中国だとみなされている。トランプ政権のいら立ちを誘っているのは、中国の膨大な対米貿易黒字で、昨年は過去最大の3752億ドルに達した。
それでも提案された鉄鋼・アルミへの輸入関税は、特定の1国だけでなくすべての国に適用される形であるため、二国間の措置に比べると米国に対する反発も全体的に薄まりそうだ。
(David Chance記者)
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