for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

フォトログ:中絶への制限強まる米国、東奔西走する専門医

[米アラバマ州バーミンガム 27日 ロイター] - ここは、「プランド・ペアレントフッド(全米家族計画連盟)」が経営するアラバマ州バーミンガムのクリニック。窓はほとんどなく、壁には市内を紹介するありふれた写真が飾られている。シェリー・ティエン医師による人工妊娠中絶手術を受ける女性は、手で胃のあたりを軽く叩いていた。

 ここは、「プランド・ペアレントフッド(全米家族計画連盟)」が経営するアラバマ州バーミンガムのクリニック。写真はシェリー・ティエン医師。3月14日撮影(2022年 ロイター/Evelyn Hockstein)

ティエン医師(40)は前日に飛行機でバーミンガムに到着した。今晩のうちにフロリダ州ジャクソンビルに戻る予定だ。1週間前にはオクラホマ州のクリニックで中絶処置を行った。全米妊娠中絶連合(NAF)によれば、人工妊娠中絶へのアクセスが限られている地域のために州境を越えて飛び回る医師は推定50人。ティエン医師もその1人だ。

「よく頑張りました」とティエン医師は診察台の上の女性に声をかける。「あなたはとても強い。さあ、深呼吸して。もう大丈夫」

母体胎児医学の専門家であるティエン医師は、何時間もかけて、複数の空港を早足で通り抜け、レンタカーを運転し、宿泊先のホテルでボーイフレンドとFaceTimeで連絡を取る。現地の医師が中絶処置を実施できない、あるいはその意志がないために、妊娠を終らせることのできない女性を助けるためだ。

3月、ティエン医師が中絶処置を行うためにフロリダからアラバマに赴く際、ロイターは同行取材を認めてもらった。また12月にもオクラホマ州での仕事を目撃する機会を得た。

こうした出張医師による中絶処置の道は閉ざされつつあるのかもしれない。米連邦最高裁判所では保守派が過半数を占めており、米政治専門サイトのポリティコは2日、最高裁が中絶の合憲性を巡る訴訟で、全国的に中絶を合法化した「ロー対ウェイド判決」を覆す見通しと報じた。

この春、ミシシッピ州の訴訟でそうした判決が下されるのを想定して、保守派の議員らは新たな中絶制限規定を立て続けに成立させた。オクラホマやアラバマを含む20以上の州には、ロー対ウェイド判決が覆された場合、中絶処置を受けることをさらに困難にするような法律が施行されている。

ティエン医師は、近年、中絶処置を受けにくくなっている様子を見て、そのギャップを埋めることに貢献しようと決意した。

2021年1月、ティエン医師はイリノイ州でのハイリスク妊娠に対応する仕事を離れ、飼い犬とともにフロリダ州に引っ越し、ジャクソンビルの家族計画連盟の正職員となった。翌月から、空路でオクラホマシティーに通い、トラストウィメン財団のクリニックで中絶処置を行うようになった。12月には、行き先にバーミンガムも追加された。

「ロー対ウェイド判決」が覆された場合、自分がどのような生活を行うことになるのかは深く考えたくない。妊娠を終らせるために危険な手段に訴える女性も出てくるのではないか、とティエン医師は心配している。

「いつでも中絶処置をやるつもりでいる」とティエン医師はあるインタビューで話している。「合法的にやるし、州による制限や現行の規制にはすべて従うつもりだ。法律や規制が実際にどうなっていくか、確かなことは言えないけれど」

<安全への懸念と汚名>

ティエン医師が仕事をしているオクラホマ、アラバマ両州を含め、少なくとも6つの州の妊娠中絶クリニックは、中絶処置を完全に州外の医師に依存している。

トラストウィメン・オクラホマの広報担当者によれば、保守的な州では、安全への懸念と、汚名を着せられることが原因で、州内の医師が中絶処置を控えているという。

他州に出張する医師にとって、任意の州で仕事をするために必要な免許や資格を得るためには数カ月も要する場合がある。中絶処置を行う医師に、患者に入院を指示する権限を得ることを求める州法がある場合には、さらに時間がかかる。

中絶反対派は、こうした規則は、中絶処置後に危険な合併症を発症し追加治療が必要となる女性を保護するものだと主張する。疾病管理予防センター(CDC)から入手できる最新のデータによれば、2019年の米国では63万件近い中絶処置が行われている。

反中絶団体「スーザン・B・アンソニー・リスト」の州政策ディレクターであるスー・スウェイズ・リーベル氏によれば、中絶処置を行った医師がその後すぐに州を離れてしまえば、「治療の継続性と、1時間以上にわたり医学的な監視を行う能力」が危うくなってしまうという。

中絶権を擁護する人々は、中絶に伴う合併症はきわめて稀であり、中絶は出産よりもはるかに安全性が高いとする研究を指摘する。また、緊急性のある症例については、クリニックに追加治療のプロトコルが用意されている。CDCの最新の年次報告によれば、同センターが2018年に中絶関連の死亡として確認した事例は2件だ。

バーミンガムのクリニックでティエン医師が診察する女性はアラバマ州全域だけでなく、同じように中絶が制限されているミシシッピ、ルイジアナ、ジョージア、テキサスからもやってくる。女性たちは、出張医師の誰かが来院するタイミングに合わせて診療予約を取らなければならない。また、初回診療の予約と中絶処置の予約の間に48時間の猶予を置くというアラバマ州の規定も考慮する必要がある。

3月にティエン医師が訪問した日には、手術による中絶が6件、投薬による中絶が12件行われた。

「間違った選択などない、大事なのはあなたの選択。あなたにとって何がベストか、あなたが一番よくわかっている」と書かれたメモ。

年齢は19歳から36歳までさまざまだ。ある女性はルイジアナ州から数時間車を走らせてきた。別の女性は、薬の料金を支払うための金策で電話にかじりついていた。スペイン語しか話せない女性は、電話による通訳サービスを頼みに看護師とやり取りしていた。

ティエン医師は専用の診察室で、地元の女性AWさん(22)とテーブル越しに向き合っていた。AWさんには、それぞれ4歳、8カ月の子ども2人がいる。

AWさんは、プライバシー保護のため、イニシャルだけの表記を希望している。いま妊娠している子の父親は、経済的に安定していないという。中絶処置を受ける決心について、相手には話していない。

「中絶すると告げれば、やめろと言われるような気がした」とAWさん。「でも、考えは変えたくない」

クリニックの入り口前で膝をついて祈りを捧げる反中絶活動家と、聖書を読みあげる活動家。

ティエン医師は、AWさんにミフェプリストンの錠剤を渡して飲ませた。翌日、自宅でミソプロストールの錠剤を飲めば中絶に至る、と指示する。強い痛みを感じるかもしれない、と注意する。

「女性はとても強い」とティエン医師はAWさんに言う。「毎日、どこかでこれをやっている女性がいる」

ティエン医師は、女性は自分の身体と妊娠について決定権を持つべきだと若い頃から確信していた、と話す。自分の使命感は、かつて読んだ「医学=科学+愛」という言葉に集約されているという。

この仕事をしていると狙われる可能性があることは分かっているから、必要な警戒を怠らない。家族計画連盟は、フロリダでティエン医師を採用した後、ホームセキュリティーシステムの料金を負担してくれた。尾行から逃げる必要が生じた場合に備えて、車のガソリンは最低でもタンクの4分の1は残しておくようにしている。

オクラホマシティーのクリニックでは、専任の警備員がビルに入る者全員の持ち物を検査する。ティエン医師は、地元ジャクソンビルのクリニックに裏口から入る。表には、反中絶活動家が抗議のために集まっていることが多いからだ。

3月に訪れたとき、クリニックの外には「生命、それは奪うことのできない最初の権利」と書かれたボードを持った女性が立っていた。

待合室で、オクラホマまでの移動の道のりについて会話を交わす、テキサスから来た女性たち。

<移動に伴うトラブル>

夜になると、バーミンガムのクリニックには人影がなくなった。ティエン医師は自分のオフィスでベーグルをつまみ、携帯電話をチェックする。

アトランタに向かうフライトは出発遅延になっていた。ジャクソンビルに戻る乗り継ぎ便には間に合わない可能性が高い。翌朝にはジャクソンビルで中絶処置を行う予定があった。距離は約645キロある。

ティエン医師はボーイフレンドへのテキストメッセージで、「アトランタからジャクソンビルに戻る最速の方法は何だろう。車か、朝の飛行機か」と尋ねた。

彼女の結論は、飛行機だった。

「その距離を運転するスタミナがない、それだけは確か」

ティエン医師はジャクソンビルの上司に電話し、午前中の診療予約に間に合わない可能性がある、と告げた。

しかし結局、アトランタ行きのフライトはギリギリ予定時刻に到着した。ティエン医師は、青緑色のバックパックを背中で弾ませながら空港内を走り抜け、出発わずか数分前にジャクソンビル行きに滑り込んだ。

(翻訳:エァクレーレン)

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up