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コラム:世界金融危機10周年とサメの教訓
2017年8月31日 / 02:59 / 23日前

コラム:世界金融危機10周年とサメの教訓

 8月24日、10年前に発生した世界金融危機の場合もシステムが不調に陥っている兆しは至るところで見られた。危機10周年という倒錯した祝賀ムードのなかで、金融専門家や評論家は、それらの兆候に改めて注目しつつある。

[ニューヨーク 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 21日の皆既日食が始まるわずか5分前、米マサチューセッツ州ケープコッド海浜公園に集まった数百人の海水浴客は、日食観測用のメガネを着用し、小さな穴を開けたシリアル食品の空き箱を構え、笑いさざめきながら、月が太陽の大半を隠す瞬間を待ち受けていた。

結果として彼らは、はるかに刺激的な事件を見逃すことになった。

そのとき、9メートルほど沖合では、腹を空かせたホオジロザメがゼニガタアザラシを襲っていたのである。サメは哀れなアザラシにガブリと噛みつき、海岸に向け獲物を放り出した。ボディーサーフィンやブギーボードを楽しむ若者たちのまっただ中だ。筆者の息子を含め、波を待っていた人々は、泡立つ水と血のなかから飛び出してきたアザラシを見て、「鮫だ」と口々に叫んだ。

だが、海水浴客の安全に目を光らせていたライフガードを含め、ビーチにいた人々の大多数は、ホオジロザメ自体を目撃しなかった。彼らが目にしたのは、脂肪の多い内臓をあらわにした瀕死のアザラシが、大量の血を海中に流しながら波間を漂う姿だけだった。ビーチはこの日で終わった。ようやく大勢駆けつけた当局者が、遊泳を禁止したからだ。

グローバル金融危機の発生からまもなく10周年を迎えることも、やはり皆既日食と同様にホットな話題になっている。だが、日食の陰で起きたサメ襲撃という実話は、2007年に発生した状況の優れたメタファー(隠喩)と言えるかもしれない。海水浴場で首の痛い思いをしながら何千マイルも離れた宇宙空間を見つめていた人々は、数フィート先のもっと重要な事件を見逃してしまったのだ。

言うまでもなく、後から思えば、空よりも海の方に注意を向けておくべきだった。ノーセット・ビーチに足を踏み入れれば、魚介料理レストラン「リアムズ」の広告看板だけでなく、ホオジロザメ出現が多いことを警告する不吉な表示や、サメ出現の可能性を示して高く掲げられた旗を誰もが目にすることになる。それにもかかわらず、夏のあいだはほとんど毎日、このビーチの駐車場は満車になるのだ。

世界金融危機の場合も同じだった。システムが不調に陥っている兆しは至るところで見られた。危機10周年という倒錯した祝賀ムードのなかで、金融専門家や評論家は、それらの兆候に改めて注目しつつある。2007年初頭から2008年上半期までに生じた出来事のうち、どれがその後の展開の前兆だったのかという点については、誰もが自分なりの見解を持っているように思われる。

だが、真実はもっと複雑だ。

後知恵で再検討してみるのは頭の体操としては刺激的だが、どの兆候も、単独では、その後の必然的な攻撃を回避するのに十分なほど状況全体を説明してくれはしない。金融、ジャーナリズム、公共政策の最前線で危機を経験した人々は、今後も、何が起きたかを記憶している限りにおいて、健全な議論を続けていくことになろう。

10周年という節目を迎えようとする今、そうした兆候のいくつかを想起していくことは無意味ではない。だがその際にめざすのは、単に、将来の危機を回避するための現実的な教訓を与えてくれるのは、状況全体の総和であるという認識なのである。しかも、そうした認識でさえ不完全なのだ。

広く受け入れられている考えでは、最初の警告がもたらされたのは、2007年2月初頭にHSBC(HSBA.L)が、米国のサブプライム債務者向け住宅ローンの引当金として18億ドル積み増すと発表したときだ。

ペンシルバニア大学ウォートン校ローダー研究所のマウロ・ギレン所長は、この出来事が危機の始まりだったとしており、Breakingviewsでも、サブプライムローンが「警戒感を生む契機」になるのではないかと問う先見性に富む記事を掲載する契機となった。

 8月24日、10年前に発生した世界金融危機の場合もシステムが不調に陥っている兆しは至るところで見られた。危機10周年という倒錯した祝賀ムードのなかで、金融専門家や評論家は、それらの兆候に改めて注目しつつある。2011年、シドニーで撮影(2017年 ロイター/Daniel Munoz)

HSBCはその数年前、信用度の低い顧客向け融資に特化した金融機関に対する異例の買収を行っており、恐らくはそのために、同社の状況を例外的なものと見なす人が多かったのだろう。

だが、先ほどの比喩を続けるならば、サメがまもなくアザラシを襲うという警告は、さほど遠くに探し求める必要はなかった。サブプライム融資業者であるニューセンチュリー・ファイナンシャルはこの年の第1四半期を通じて損失を重ね、4月に破綻。数カ月後、怪しげな住宅ローン関連資産に投資していたベアー・スターンズ傘下のヘッジファンド2社も同じ道をたどった。

その年の8月になると、問題がもはや少数の投機的な市場参加者に限定されていないことが明らかになり始めた。

CNBCのコメンテーターであるジム・クレイマーが放送中に「FRBは寝込んでいる」と断言したのに続いて、BNPパリバ(BNPP.PA)は投資家に向けて、同社のポートフォリオに含まれる住宅ローン関連資産の多くが「流動性が完全に消失しているため」評価不能になっているという通達を出した。数週間のうちに、各国中央銀行は金融システムに公的資金を注入するようになっていた。

 8月24日、10年前に発生した世界金融危機の場合もシステムが不調に陥っている兆しは至るところで見られた。危機10周年という倒錯した祝賀ムードのなかで、金融専門家や評論家は、それらの兆候に改めて注目しつつある。2012年10月、ニューヨークのビル街(2017年 ロイター//Brendan McDermid)

この年、ワイオミング州ジャクソンホールでカンザスシティー連邦準備銀行が主催する恒例の年次シンポジウムでは(先週末の同シンポジウムが、それ以来10周年となる)、各国中央銀行総裁は、金融システム危機など近日中に起りようがないという自信を持っているように思われた。

当時、米連邦準備理事会(FRB)の議長だったベン・バーナンキ氏は「住宅、住宅金融、金融政策」と題した講演で、「各自の金融判断がもたらす結果から貸し手・借り手を保護することはFRBの責任ではないし、そのような保護を与えることは不適切であろう」と述べている。

こうした気掛かりな雑音はあったものの、投資家の態度は無頓着と言えるほど平静だった。HSBCによる不吉な発表の前の週から、UBS(UBSG.S)、メリルリンチ、シティグループ(C.N)がサブプライム関連で約200億ドルの損失が生じると警告した同年10月までに、S&P総合500種は約10%も上昇したのである。

こうした無頓着ぶりは、2008年3月に経営破綻したベアー・スターンズがJPモルガンに吸収されるまで続いた。この「記念日」については当然ながら多くの言及がなされるべきだろうし、危機10周年の原点となる9月のリーマンショックに加え、AIGや住宅金融機関ファニーメイ、フレディマックの救済についても同様であろう。

どの「記念日」も、何が起きたのかを思い出すだけでなく、どれか単一の事件が危機の予兆、あるいはその出発点や終着点だったと考えることが、実は不適切であることを認識する良い機会である。

あらゆる集団妄想や大衆的熱狂と同様に、大半の投資家、規制当局者、政治家、銀行家、そして、われわれジャーナリストが、2007年に水面下に潜んでいた危機の見極めに失敗していたことは、実際に生じたことの全体を検証することによって初めて明白になるのである。

そしてもう1つ、市場バブルと金融パニックの歴史が、そして日食のあいだに起きたサメの襲撃が教えてくれる教訓がある。次の攻撃が迫っているとき、私たちはほぼ確実に、間違った方向を眺めているのである。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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