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焦点:広がる米企業の生体認証利用、イリノイ州は規制強化で訴訟急増

[セントルイス(米ミズーリ州) 16日 ロイター] - 買い物客でにぎわう24時間営業のスーパーマーケット、モトマート。日が落ちると店員が、カウンターの後ろでスイッチを入れた。

米イリノイ州の個人情報保護法は米国で最も厳しく、民間企業が顔写真や指紋、手のひら、目、声といった生体認証データを保存するには、同意書を得る必要がある。写真はブルー・ライン・テクノロジーの共同創業者、トーマス・ソウヤー氏。同州セントルイスの店舗で6月撮影(2021年 ロイター/Lawrence Bryant)

電磁ロックが入り口をふさぐ。窓には「顔認証技術が稼働中」との警告文が赤く光り、客に「カメラを見上げて下さい」と指示する。

最近、平日夜にタバコを買い来て締め出された女性は最初、戸惑った。だが、すぐに医療用マスクを外す必要があることに気付いた。覆いのなくなった彼女の顔は、スキャンされて店のコンピューターに保存され、以前にこの店を訪れて犯罪を働いた客の写真アーカイブと照合されると、ドアは開いた。

ミズーリ州内にあるこの店からほんの数キロ先、州境をわたったイリノイ州では、こうしたスクリーニングは違法だ。同州の個人情報保護法は米国で最も厳しく、民間企業が顔写真や指紋、手のひら、目、声といった生体認証データを保存するには、同意書を得る必要がある。

対照的な両州の様子は、デジタルプライバシーを巡る米国の分断を物語っている。イリノイ州とその他2州、そして複数の都市は現在、生体認証スクリーニングに一定の公的開示か同意を義務付けている。一方、ミズーリ州を含むその他地域では、民間セクターによる生体認証の利用がほとんど制限されていない。

イリノイ州の法律は、民間の企業や機関が、無防備な市民から州内もしくはオンラインで生体認証データを収集することを禁じている。データを販売、移転、取引することもできない。同州は米国で唯一、この法律に違反した容疑で市民が企業を訴えることが可能で、世界屈指の巨大企業を相手に数百件の訴訟が実施されてきた。

ロイターが2015年以降のイリノイ州の個人訴訟と集団訴訟、約750件を調べたところ、民間企業が情報開示や同意を経ずに数百万人の生体認証データを集め、分類していた証拠が数多く見つかった。

大半の訴訟は、イリノイ州最高裁判所が2019年、原告は有害行為の証拠を示さなくても損害賠償を得られるとする画期的な判決を下した後に提起された。

個人情報保護団体によると、大半の州では既存の法律が生体認証技術の急拡大に追い付いておらず、個人は身元情報の窃盗やプライバシー侵害、差別的慣行に対して無防備な状態だ。

モトマートの顔認証システムを作ったブルー・ライン・テクノロジーの共同創業者、トーマス・ソウヤー氏は、客のプライバシーを保護するため、店主が生体認証データを外部と取引できないようなソフトウエアを搭載していると強調。「人々に自分が監視されていることを知っていてほしい。明るく光る警告文を表示しているのはそのためだ」と説明した。

裁判所の記録によると、多くの企業は従業員や学生の素行、働きぶりを追跡したり、客をモニターしてマーケティングや販売戦略に役立てるために生体認証システムを利用している。

企業はアミューズメントパークで子どもを含む来場客の指紋データベースを使い、チケットに関する不正を探していた。大学は生徒の目の動きやタイピングのリズムから、カンニングの兆候を調べていた。従業員がだれと、どのくらいの時間話をしているかや、トイレ休憩の頻度を監視している企業もあった。

このほか、アマゾン・ドット・コム、アップル、グーグルの親会社アルファベットといったIT(情報技術)企業からファストフードチェーン大手のマクドナルドまで、大企業を相手にした訴訟も現在係争中だ。

いずれの社も法律違反を否認している。仮に違法と判断された場合、市民は違反行為1件当たり最大5000ドルに被害者の数と被害日数を掛けた金額を民事制裁金として受け取ることができる。

係争中の少なくとも半分は地元企業に対する事案で、企業によっては評決や和解の結果、財務に痛手を負って人員解雇を迫られる可能性もある。

米商工会議所の法律改革研究所は、イリノイ州の法律を「司法が作った地獄」と呼んだ。

<始まりは指紋スキャナー>

それは、SFさながらのアイデアだった。指紋スキャナーを使って生鮮食品を買う―。

2008年、あるカリフォルニアの企業が実際、こうした未来的なオンライン販売をうたってイリノイ州に乗り込んだ。「想像してみよう。指を小さなスキャナーに乗せると、たちまち当座預金勘定からクレジットカード、デビットカードまで、自分の決済口座がすべてスクリーン上に表示される。カードも小切手も現金も、面倒な物は一切なしだ」─。

しかし、消費者がこのサービスに契約して間もなく、企業は破産を宣言。裁判所の書類によると、企業は指紋のデータベースを含む在庫を他社に売る計画だった。

米自由人権協会イリノイ支部はこうした事態を防ぐため、法整備の旗を振った。その後、制定されたのが「イリノイ州生体認証情報および個人情報法(BIPA)」だ。カリフォルニアの企業の指紋データベースは滅却された。

イリノイ州以外に生体認証に関する包括的な個人情報保護法を施行しているのはテキサス、ワシントンの両州だけ。ただ、個人情報保護団体によると、両州の法律はイリノイ州に比べて全般に緩い。

また、数十の都市が現在、生体認証を規制する新規則の導入を検討している。ニューヨーク市が今年施行した個人情報保護の法律は、大部分がイリノイ州の法律をモデルにしたものだ。

(Michael Berns記者)

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