December 30, 2017 / 12:02 AM / a year ago

特別リポート:米国の「死体実習」、舞台は高級ホテル宴会場

Elizabeth Culliford

 12月15日、その「手術劇場」となった会場のすぐ外にいた医学会議の主催者は、ミニー・マウスの耳を頭に着けていた。写真は、米ニュージャージー州のホテルで開かれた鎮痛剤関連のシンポジウムの一環の死体実習会場。シーツの下に死体が置かれている。2017年10月、ニュージャージー州ジャージーシティで撮影(2017年 ロイター/Elizabeth Culliford)

[レークブエナビスタ(米フロリダ州) 15日 ロイター] - その「手術劇場」となった会場のすぐ外にいた医学会議の主催者は、ミニー・マウスの耳を頭に着けていた。

会場内では、医師たちが3体の人間の死体を使って実演していた。1体を包んだ何重もの包装の間から、血液がしみ出していた。「漏れるんだ」と、実験技術者が死体を指して言った。

ロイター記者も出席したこのセミナーが11月に実施されたのは、病院や医科大学ではなかった。それは「死体実習」と呼ばれるセミナーの一環として、フロリダ州オーランドにあるウォルト・ディズニー・ワールドリゾートにある施設で実施された。

過去6年間に、同様のイベント数十件が、米国各地のホテルやその会議場で開かれている。

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今回のセミナーはヨット&ビーチクラブ・リゾートのコンベンションセンターにある宴会場を使って、医師が神経根ブロックなどの技術の実演を実際の死体を使って行った。ホームページ上でディズニーは、この宴会場について「豪華でまばゆい」と表現しており、普段は結婚式のレセプションに使われるという。

ディズニーは、コメントの求めに応じなかった。

米国では医学実習は通常、専用設備を備え、厳重に管理された実験施設で行わる。だが、常にそうではない。

ロイターは2012年以降、ニューヨークからサンディエゴまで全米数十都市のホテルやその会議場で開かれた、少なくとも90件の「死体実習」を特定した。ホテル大手のヒルトンやハイアット、シェラトンやラディソンが会場として使われていた。

こうしたセミナーで使われる死体は通常「ボディーブローカー」から入手する。ボディ―ブローカーとは、研究のために献体された死体を入手し、医学研究や訓練のため死体の部位を転売したり貸し出したりする組織だ。彼らは一般的に、自らを「移植目的ではない組織バンク」と称している。

だが、これは政府が厳しく管理する移植用の臓器や組織を提供する業界とは完全に異なるものだ。ディズニーの会議場で実演に使われていたような、研究や教育目的の死体やその部位について、販売や貸し出しを規制する連邦法はない。業界は、事実上、野放しの状態だ。

同様に、死体や人体の部位を扱うセミナーが開催される場所についても、規制はほとんどないが、実験教室での医療廃棄物や血液を媒介する病原体の取り扱いについては、連邦政府が規制している。

世界保健機構(WHO)は、「一般的に死体の場合、生きていた時と比べて大きな感染症のリスクをもたらすものではない」と言う。

安全のため、セミナー主催者は使用する死体について、エイズウイルスや肝炎などの検査を行っていると述べている。

だが結核などの病気は、検査で必ず発見されるものではない。取り扱われる死体の中に、脳組織がスポンジ状に変化するクロイツフェルト・ヤコブ病や、抗生物質耐性菌の感染源となり得るものが含まれる可能性を懸念する医学関係者もいる。

人体を切開すると、病気感染のリスクが高まる、とミネソタ大感染症政策研究センターのマイケル・オスターホルム所長は指摘する。

「死体から大規模な感染症が広がったり、事件が起こったことはまだないと、私は証言できる。だが、それが起こるのは時間の問題だ」と、オスターホルム所長は語った。

医療会議で使われる死体について、B型肝炎に感染していたことをボディーブローカーが報告しなかった事例が少なくとも1例あった。この死体の頭部と頸部は2011年、マサチューセッツ州ケンブリッジのハイアットホテルで開かれた会議に提供された。

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会議出席者の感染報告はなかったが、ボディーブローカーのアーサー・ラスバーン容疑者は、医療関係者への詐欺行為と、連邦職員に嘘をついた罪で、1月に裁判にかけられる。同容疑者は無罪を主張している。

ハイアット側は2011年の事件以降も、10件以上の死体を扱うセミナーに会場提供していたことが、ロイターの調べで分かった。

ハイアットの広報担当者ステファニー・ラーデル氏は、ロイターの取材を受け、傘下ホテル向けの「この種の医療訓練」に対するガイドラインの見直しに入ったと語った。また、ホテルの施設利用者には「健康や安全のプロトコル順守」を望むと述べた。

<緩い規制>

「死体実習」は、脊椎手術から鼻形成術に至る幅広い分野の医師向けの医療会議の一環として開催されることが多い。医師に新商品を試用してもらう場として医療機器会社が開催することもある。

移動実習を行う会社のスタッフがセミナーを運営。そこで実習に使われる死体や、胴体、手、足などの体の部位は、運営会社が自らの献体プログラムや非移植目的の組織バンクを通じて入手することが多い。

外科医は、人体実習の経験を完全に再現できるマネキンやコンピューターシミュレーションは存在しないと言う。「移動実習」の運営会社側も、ホテルや会議場でセミナーを行うことで、ギャップを埋めていると主張する。病院などの恒久的な実験施設を使うよりも、多くの医師に訓練の機会を提供できる、と言うのだ。

だが、それを取り巻く規制は少ない。米疾病予防管理センターの広報官は、人体を使ったセミナーに関するガイドラインはないと述べた。

ヒルトングループは2012年以降、ニューヨークやシカゴ、サンディエゴなどで少なくとも11件の「死体実習」に会場を提供した。ヒルトンがサイトに掲載するポリシーは、死体を扱うセミナー主催者に、事前に労働安全衛生庁や地元当局の許可取得を義務付けている。

だが、こうした許可を発行している当局は少ない。ロイターは、死体実習が頻繁に行われていた6つの州を調査した。ニューヨークだけが、セミナーに関する規制が州または市町村などの保健当局で設けられていた。死体を扱うセミナーの存在を認識していない当局もあった。

「これまで聞いたことがない。本当のことなのか」と、サンフランシスコの公衆衛生当局の広報担当者レイチェル・ケーガン氏は語った。

本当のことだ。ロイターは2012年以降、死体を使うことを宣伝する会議が少なくとも4件、サンフランシスコのホテルで開かれていることを突き止めた。

<飛び散る骨の破片>

大学の解剖実習室は、清掃が容易な床面などの衛生設備を備えている。これにより、研究者が人体を使って作業する際に、体液や組織の拡散を最小限に抑えることができる。だが、ホテルの宴会場では、ほとんどがカーペット敷きで、シンクなどの洗浄施設も備えていない。

そのため、ホテルの生物災害を管理するプロトコルは、大学の実習室で義務付けられているものより、はるかに不十分な内容となる。

ニュージャージー州ハドソンのハイアット・リージェンシー・ジャージー・シティの宴会場で10月、医師が人体の胴体部分で実習を行った。そのとき1人の参加者が自分の腕を伸ばし、手などを洗うための石けんかウェットティッシュが会場内にあるか、他の参加者に質問しているのをロイター記者は目撃した。会場にないと告げられると、この医師は腕を前に突き出したまま、そこを出て行った。

また、11月にディズニーのホテルで開かれた実習では、死体が置かれた台の近くに、コーヒーと紅茶が用意されていた。ロイター記者がこれは許されるのかと質問すると、飲み物は部屋から撤去された。

セントラルフロリダ大のアンドリュー・ペイヤー教授(解剖学)は、同大の解剖学教室には、シンク設置が義務付けられていると話す。また、食品や飲み物の持ち込みは禁止されているのが一般的だ。手から口への接触を通じた病原体の拡散リスクを抑えるためだという。

体液や肉片がホテルのカーペットに落ちるのを防ぐため、セミナー主催者は通常、床にビニールを敷く。また実習内容によっては、他の予防策を取ることもあると、ホテルセミナーの主催者は言う。

「膝を切除すると、骨の破片が飛び散る。だから壁もカバーする」。医療機器を販売し、死体実習のサポートも行うバイオスキルズ・ソリューションズのジェームス・マクロイ社長は話す。

ジャージー・シティのハイアットで開催されたセミナーでは、死体が置かれたストレッチャーのすぐ下の部分にだけ、ビニールなどが敷かれていた。その他の床面は、カーペットが露出していた。

「翌日に同じ会場で結婚式のパーティーが開かれて、1歳児がカーペットでハイハイするかもしれない。靴も汚染される。何か1つ間違いが起きるだけ(で予期せぬ事態の発生)だ」と、前出のオスターホルム氏は指摘する。

ホテルやセミナー主催者によると、清掃を行うのは実習技術者のみで、医療廃棄物はバイオハザード会社を通じて廃棄される。だが間違いが起こることもある。

「(鼻形成術のセミナーの後で)血が付いた布やビニールが入ったごみ箱が会場に残され、回収されなかったことがあった」と、シェラトン・グランド・シカゴのイベント担当者バンス・ファットーレ氏は明かす。ホテル職員がゴミ箱の周辺に規制線を引いて立ち入り禁止にし、セミナー主催者に電話して回収してもらったという。封がされたゴミ箱の中には、注射器も入っていた。

こんなことが起きていても、このホテルではこの先1月と3月の2回、死体実習を予定している。「われわれは、なにより顧客に奉仕するためにいるのだ」と、ファットーレ氏は言った。

<倫理の問題>

ホテルやその会議場で行われる死体実習には、死者の尊厳をどう守るかという懸念もついて回る。

「こうしたセミナーがホテルで行われること自体、全く受け入れ難い」と、ボストン・チルドレンズ・ホスピタルのサビーヌ・ヒルデブラント医師は言う。

このようなセミナーを体験をすることで、ベテラン医師ですら、人体は生死にかかわらず尊厳を持って扱わなければならないという感覚を鈍らせるのではないか、と同医師は懸念する。

セミナーが開催される場所自体も問題だ。大人から子どもまで、ホテル利用者が予期せず衝撃的な光景を目にしてしまう可能性がある。

ロイターが取材した各ホテルは、利用者から苦情を受けたことはないと述べた。セミナー主催者も、死体を使う部屋へのアクセスは制限していると話す。

だが、その程度にはばらつきがある。

ディズニーのホテルで行われた11月のセミナーで会議を取材していたロイター記者は、入場は許されていないと告げられるまで、2件の実習を見学することができた。

写真は、米ニュージャージー州のホテルで開かれた鎮痛剤関連のシンポジウムの一環の死体実習会場に置かれた、死体運搬用のクーラーボックス。2017年10月、ニュージャージー州ジャージーシティで撮影(2017年 ロイター/Elizabeth Culliford)

ラスベガスにある高級ホテル、ウィンラスベガスの宴会場で6月に開かれた形成外科会議では、手術実習の開始後ドアが開かれたままだった。記者は外のホールから、覆われていない人間の胴体を目撃した。

ウィンラスベガスは、主催者側が実習のために会議場全体を貸し切っていたと語る。同ホテルグループのマーケティング担当マイケル・ウィーバー氏は声明で、「会議参加者以外が会場にいることは、全く想定外だった。医療訓練のイベントが開かれている会議室は、一般客は立ち入り禁止にしている」と説明した。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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