July 5, 2019 / 8:13 AM / 8 days ago

特別リポート:乱立する「国境の壁」資金調達、寄付金の行方は不透明

[ワシントン 3日 ロイター] - 米国のトランプ大統領が看板政策として選挙公約に掲げていたのは、メキシコとの国境に「壁」を築くという構想だった。だがその夢は、相手国メキシコとの議論や、政府予算に影響力を持つ民主党議員からの反対を受け、泥沼にはまっている。

 7月3日、米国のトランプ大統領が看板政策として選挙公約に掲げていたのは、メキシコとの国境に「壁」を築くという構想だった。写真は、モンタナ州の農場で国旗を掲げるアーリン・マッカイさん。6月28日撮影(2019年 ロイター/Tommy Martino)

だが、政治的に行き詰まる一方で、壁建設に自ら取り組もうとする動きもある。米国第一主義の起業家や資金調達者、さらには不当利得者たちだ。

米国への移民流入に対するトランプ氏の怒りに乗じて、これまでに数十人の市民が非営利・営利組織を結成。壁建設そのものや、志を同じくする候補者を支援するための資金を調達するため、クラウドファンディング「ゴー・ファンド・ミー」でプロジェクトを立ち上げたり、政治団体を設立したりしている。それらに集まった資金は総額2500万ドル(約26億円)以上。その大半を集めた組織を率いる元空軍の退役軍人は、この種の資金調達キャンペーンを代表する「顔」となっている。

資金を出しているのはどのような人たちだろうか。

たとえば、モンタナ州で牧場を営むアーリン・マッカイさん(80)は1月、国境での壁建設資金として1000ドルを寄付した。数百万ドルを集めた資金調達キャンペーン「ウィー・ビルド・ザ・ウォール(私たちが壁を建てる)」に寄付したとばかり思っていたが、実際の送金先は似たような名前の別事業「ビルド・ザ・ウォール」だった。

寄付金を見当違いの宛先に送ってしまったことを知ったマッカイさんは、「国境の壁の1インチ分の費用にでもなれば、と思っていた」と語った。1000ドルあれば牛1頭の代金の半分にもなったのに、と彼女は言う。「これからは、もっと注意しないと」

ロイターの調査によれば、新たに発生した壁建設費用の調達キャンペーンに出資しようと財布の紐を緩めた米国民は全部で33万人以上に達している。こうした資金調達キャンペーンには壮大な計画がつきものだが、具体的な成果はほとんど出ていない。

これまでのところ、最も目につく効果といえば、ニューメキシコ州東部に、ボラード・フェンス(柱を並べた形状の障壁)が半マイル(約800メートル)にわたって新設された程度。「壁」資金調達キャンペーンのなかでも最大規模の組織が建設したものだ。

そのプロジェクトでさえ、法令上の壁に悩まされている。一方で、「壁」にあやかった記念品を作る企業や失敗に終わった政治行動委員会(PAC)が、一部の顧客や寄付者の落胆を招いている。

もっとも、こうした取組みが十分な「壁」を実現していないにせよ、支援者のなかには「何の後悔もない」という声もある。

「民間の組織が実際に壁を完成させられるとは期待していない。私が願っているのは、こうした取組みが他の政治家や政府に影響を与え、このような運動があると示すことだ」と語るのは、オハイオ州で情報テクノロジー関係の仕事に就くリチャード・ミルズさん(68)。彼は資金調達キャンペーン2つに400ドルを寄付したという。

<「壁」建設費用をクラウドファンディングで>

政府のアナリストらは、2000キロ(約1300マイル)以上にわたる「壁」を追加して国境を封鎖する必要性について懐疑的だ。2016年の議会調査部による報告書は、フェンスや障害物を増やしていっても効果は逓減していき、設置・保守のコストは増大していくと結論づけている。

そもそも、建設費用そのものが膨大だ。国土安全保障省の内部報告によれば、216億ドルだ。

それにもかかわらず、「壁」を増やすことを望む熱心な支持者からの出資を募るため、いくつかの資金調達キャンペーンがスタートしている。

ロングアイランドにある貯木場の総支配人を務めるレイ・ニュルンベルガーさんは、結婚資金を貯め、最初の子どもの養育費を準備する一方で、この1年間で3つの「壁」資金調達組織に300ドル以上を寄付した。

「今後も寄付を続ける。自分の子どもが仕事を見つけられず、合法的にこの国に来たわけでもない人々と競争しなければならないという状況は嫌だ」と46歳のニュルンベルガーさんは語った。

彼の寄付金がどこに行ったか、見てみよう。

彼が最初に寄付したのは、2018年にワシントン州のケン・ダウニー氏が設立した非営利組織「ボーダーウォール・ファウンデーション」だ。ダウニー氏は国境警備局の広報官を務めたこともある退役軍人で、この活動は10代の娘のための社会教育のつもりだと話している。親子はウェブサイトやソーシャルメディア上のページを開設したが、集まった資金はわずか2450ドル。口座に預けたまま、さらに募金活動を続けるという。

「いつか、もうウンザリして中止を決め、天を仰いで『私たちには無理だった』と嘆くとしても、集まった資金は、『壁』建設をめざす別の取組みに寄付する」とダウニー氏は語った。

ニュルンベルガーさんが次に100ドルを寄付したのは、全米郡保安官協会が、「税額控除対象となる皆さんの寄付金は、100%、我が国の南の国境の安全確保に使われます」と銘打って2018年3月に開始した「壁」資金調達キャンペーンだ。

だが、寄付集めのための管理業務は徐々に同協会の手に余るようになり、また保安官の一部には、トランプ氏が掲げる「壁」構想に異を唱える声もあった。

2018年9月、協会は、その時点で総額2万5000ドルとなっていた資金を別の非営利キャンペーン「ファンド・ザ・ウォール」に寄付することを決定した。このキャンペーンはメリーランド州のIT専門家クエンティン・クレーマー氏が開始したもので、トランプ氏が大統領選に出馬する前に、すでにウェブサイト用のドメインネームを登録していた。

保安官協会の資金がクレーマー氏のグループに送金され始めた日、マサチューセッツ州ブリストル郡のトーマス・ホジソン保安官がFOXテレビの番組に出演し、保安官協会が募金用に作成したウェブサイトを宣伝した。クレーマー氏によれば、この週で寄付金は10万ドルに達したという。

だが、クレーマー氏のキャンペーンもすでに「壁」に突き当たっている。クレーマー氏の計画では、集まった寄付金を国土安全保障省(DHS)に送金し、「壁」建設に使ってもらうつもりだった。だがDHSは資金を受け取れないとして、クレーマー氏に「(DHSには)現時点では外部からの寄付金を処理するリソースがない」と説明した。

ホジソン保安官はクレーマー氏に対し、保安官協会はすでにDHSに働きかけており、煩雑な手続きを突破できる可能性があると話した。11月、ホジソン保安官は「ファンド・ザ・ウォール」に代わってDHSに申請書を提出した。ロイターが閲覧した書類には、10万ドルをDHSに寄付するとして、「(同省は)この贈与を、米国の南の国境上の障害物(たとえば壁)の建設にのみ用いることができる」と明記されている。

DHSは、外部からの贈与を処理する部署ではこの書類を確認していないとして、「寄付の状況について提供できる情報は何もない」と述べている。ホジソン保安官は、状況を確認するために改めてDHSに連絡を取ると話している。

<成功例「ウィー・ビルド・ザ・ウォール」>

さて、ナーンバーガーさんはさらに100ドルを別の「壁」資金調達キャンペーンに寄付している。こちらは、2018年12月にクラウドファンディングサイト「ゴー・ファンド・ミー」で立ち上げられたプロジェクトだ。

この取組みは当初「We The People Will Fund The Wall(我ら市民が壁の資金を出す)」と名乗っており、負傷により両脚・片腕を失って米空軍を退役したブライアン・コルフェッジ氏が主宰するものだった。コルフェッジ氏は以前、右派メディアサイトを運営する企業を経営し、数百万ドルを稼いでいた。同氏の「壁」資金調達キャンペーンは、トランプ氏の選挙対策本部長だったスティーブ・バノン氏やカンザス州の元州務長官クリス・コバチ氏など著名な移民反対派による後ろ盾を得て、1カ月間で2000万ドルを集めた。

当初、コルフェッジ氏は集まった資金を政府に寄付すると宣言していた。だが1月になって彼は「ゴー・ファンド・ミー」のページの説明文を更新し、民間建設業者と契約して独自に「壁」を築くことに決めたと発表し、資金調達キャンペーンのタイトルも「ウィー・ビルド・ザ・ウォール」に変更した。

「ゴー・ファンド・ミー」の規約では、このような場合、寄付者は自らの出資分を返金してもらえることになっていた。だが1400万ドル分に相当する大半の寄付者は、そのまま資金をコルフェッジ氏に委ねた。新たに1100万ドルの寄付も集まり、現在の調達額は2500万ドル以上に達している。

5月末、コルフェッジ氏はプロジェクトの最初の成果を明らかにした。ニューメキシコ州サンランドパーク市の米・メキシコ国境近くの民有地に、鉄製のボラード・フェンスを建設するという。コルフェッジ氏は着工式典でテープカットを行った。

コルフェッジ氏によれば、この「壁」には約750万ドルの費用がかかったというが、ただちに難題に直面した。サンランドパーク市当局が、同プロジェクトが正式な許可を得ていないとして工事停止命令を発行したのだ。これに対してコルフェッジ氏は数千人の支持者に対し、サンランドパーク市当局は麻薬カルテルと共謀していると主張し、建設の継続を認めるよう市当局者に圧力をかけるよう呼びかけた。

その後2日で市当局は、建築基準をすべて遵守することを条件に、強引に建設許可を下した。サンランドパーク市の当局者はコメントを拒否している。

この「壁」の長さは半マイル(約800メートル)で、サンランドパーク市に近い国境を完全に封鎖するには至っていない。映像には、数マイル先で移民が国境を越えている様子が映っている。

<PACは波に乗れず>

トランプ氏の「壁」構想は、政治行動委員会(PAC)を引き寄せる効果も発揮している。PACとは、寄付や支出に関して選挙運動よりもはるかに緩い規制のもとで活動する委員会だ。トランプ氏の当選後、少なくとも4つのPACが、「壁」及び志を同じくする候補者を支援することに力を注ぐようになった。

だが、どのPACを見ても、たとえ資金を集められたとしてもわずかな金額に留まっている。

「レイズ・ザ・ウォール」の財務担当者であるクリス・マーストン氏によれば、カリフォルニア州のウェブデザイナー、マイク・クリスト氏の依頼を受けて、2017年にこのPACを創設したという。寄付者は返礼品として刻印を施したレンガを受け取ることになっていたが、マーストン氏によれば、そのコストは高すぎたという。

「資金調達に要するコストが、調達した資金をすべて食いつぶしてしまった」とマーストン氏は言う。「レイズ・ザ・ウォール」は1万3246ドルを集めたが、候補者を支援することはないまま、6カ月後に解散してしまった。クリスト氏はコメントを拒否している。

別のPACである「ビルド・ザ・ウォール」は、似た名称のコルフェッジ氏による資金調達キャンペーンより早く、2018年1月に発足した。発起人はカリフォルニア州の政治コンサルタント、トミー・ネッパー、ブリアナ・ベイルスキー両氏だ。ネッパー氏によれば、2018年の中間選挙で共和党の上院議員候補のために資金を集める計画だったが、このPACは不発に終わり、1万4764ドルを集めただけで、選挙運動の支援は何もできなかった。

 7月3日、米国のトランプ大統領が看板政策として選挙公約に掲げていたのは、メキシコとの国境に「壁」を築くという構想だった。写真は、テキサス州エルパソの選挙集会で、「壁を建てよ」「壁を完成させよ」と書かれたプラカードを掲げる人たち。2月11日撮影(2019年 ロイター/Leah Millis)

ネッパー氏は「ビルド・ザ・ウォール」からは何の収入も得ていないと述べ、財務担当者のベイルスキー氏は、勘違いによる募金を数件返金したという。

2人は、このPACを解散するつもりだという。ベイルスキー氏は「人々をいらだたせようと思ってやったことではない」と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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