June 18, 2018 / 1:54 AM / 3 months ago

コラム:ドル離れの好機か、トランプ政権下で揺らぐ基軸の座

[ロンドン 13日 ロイター Breakingviews] - トランプ政権下で、米国は「世界の基軸通貨」の座からドルを引きずり下ろすべく、前代未聞の試みを進めているように見える。

 6月13日、トランプ政権下で、米国は「世界の基軸通貨」の座からドルを引きずり下ろすべく、前代未聞の試みを進めているように見える。写真はトロントの空港の募金箱に入れられた各国紙幣(2018年 ロイター/Chris Helgren)

ツイッターを愛用するトランプ大統領の言動は、あたかも、相互に対立する世界の国々を連帯させ、不安定化が進むドルの権威に頼らない通貨システムを築くことを強要しようと、自らの決意を固めているかのようだ。

米国指導者は過去何十年にもわたり、グローバルな通貨管理に対して、より一般参加型の姿勢をとることに断固として抵抗してきた。第2次世界大戦後に確立された金本位制は実質的にはドル本位制であり、金本位制が廃止された後も、ほぼ半世紀にわたってドル建てを基本とする世界が続いている。

石油から半導体に至るまで、あらゆるものの価格をドル表示するという並外れた特権によって、米国の法律制度は驚くほどの力を得た。フランスの銀行大手BNPパリバ(BNPP.PA)は2014年、制裁に違反した罰金として89億ドル(約9900億円)の支払いに合意し、外国の銀行が米国以外で営んでいる事業だといって、米国の外交政策に従わない口実にはならないことを痛切に思い知らされた。

米国で何らかの事業を営む銀行はすべて、時間と場所を問わず、米国の法的基準に従わなければならない。これはつまり、米国の法律が世界の法律だということを意味する。現状では、いかなる国際銀行も米国の司法管轄権を逃れることはできない。ドル建て取引はすべて、ほぼ確実に米国に所在する決済システムを経由することになるからだ。

BNPパリバの事例を契機として、米国の通貨パワーの不公正さに対する不満の声が上がるようになった。これまでも、こうした不満は定期的に表面化していたが、今日に至るまで、最も理にかなう対応は「何もしない」ことだった。米国による通貨覇権はやや自己中心的ではあるが、それなりに公正で、かなり合理的なものだった。

だが、トランプ大統領はこのバランスを崩した。

大統領は、伝統的な多国間の仕組みを敵視してきた。その直近の例は先進7カ国(G7)首脳会議だ。確かに、米国の法律制度が必ずしもトランプ大統領の奇抜な要求に屈するとは限らないが、これまで示されている前例は不吉だ。

国家安全保障を理由に、長年の同盟国に不利になるように、世界貿易機構(WTO)ルールを無視することが正当化されると主張する政権であれば、敵と認定した国を罰するために、ドルの管理権を利用することも躊躇(ちゅうちょ)しないだろう。

「ポスト・トランプ時代」になれば、よりグローバルな責任を担う米国がいずれ姿を現すかもしれない。だが、それには時間がかかる可能性がある。それに、米国の経済的な影響力は低下しつつある。

これもドル建ての数値だが国際通貨基金(IMF)の統計によれば、グローバル国内総生産(GDP)に占める米国のシェアは、2000年から2017年までの期間に30%から23%へ低下した。トランプ大統領による富裕層を優遇する税制改革の結果、巨大な赤字が生じる可能性が高いが、これもドルの安定性を脅かすリスクになる。

これは、ドルの影響力を低下させる方向で通商ルールを再定義すべき時期が来ているように聞こえるだろう。だが、新たな通貨システムを求める声に対する反応は、これまでと変わらない。手をこまねいて、適当な代替システムが存在しない理由をおずおずと説明するだけなのだ。

現状維持を支持する真っ当な根拠はある。

IMF統計によれば、世界GDPに占めるユーロ圏のシェアは16%であり、新たなグローバル通貨秩序が生まれるとすれば、そこでユーロは主役を演じなければならないだろうが、まだその態勢は整っていない。イタリア政局の混乱によって、この10年で2度目となる統一通貨ユーロの危機再燃の恐れが出てきた。

中国もやはり世界GDPの16%を担っているものの、人民元の自由な取引を認める姿勢さえみせない。

単一の代替通貨であれ、多数の通貨による複合であれ、仮にドルに代る適切な軸が見つかったとしても、ドルと並行する通貨世界を生み出すというのは大変な難業だ。

何よりも重要な前提条件は、競合する諸国家のあいだで、ほぼ前例のない水準の協力と迅速な行動が実現することだ。ドルに頼らない新たな金融機関、コンピューターシステム、トレーディング・コミュニティに関するルールについて合意しなければならない。

多国間通貨に最も近い存在だったIMFの「特別引出権(SDR)」は、結局のところ表舞台には登場していない。

だが、トランプ大統領が期せずして世界各国を反米で団結させることに成功したおかげで、ドルに代る存在の誕生を阻む高い障壁を部分的に乗り越えやすくなったかもしれない。

新たなグローバル志向の連合が抵抗を始めるには、確かに通貨はよい出発点である。ドルと無縁の通貨システムの創出は、比較的低コストで済むからだ。

米国による関税と制約の増大に直面する製造業は、複雑な生産チェーンの再編を迫られている。工場は簡単には移動できず、熟練労働者は不足しているため、この取組みは困難で費用がかさむ。

これに比べて、通貨の生産・出荷コストは無視できるほど小さい。また、英国の欧州連合(EU)離脱が実現したときに英政府が思い知ることになるだろうが、金融ビジネスは比較的移転しやすいものだ。

それでも、新たな通貨秩序に関する具体的なプランどころか、米国抜きのコンセンサスが現れる兆候すら、ほとんどまったく見られない。

対照的に欧州では、意見の対立と、思慮深い地域的野心の欠如が、かつてないほどに顕著になっている。だが、G7に対するトランプ氏の独りよがりなアプローチとカナダに対する敵対的なコメントによって、各国の思いを集約する一種の劇的な挑戦が生まれている。

グローバル通貨の世界では、賢明な投資家は今後もこれまで同様の投資行動をとるだろう。残念だが、その選択は恐らく正しい。国際社会がトランプ氏の態度にどれほど困惑しようとも、ドルの覇権がしばらく続く可能性は高い。

だが、ここで予言しておこう。ドル基軸システムが最終的に崩壊するならば、そのとき人々は、なぜ2018年に行動を起こしておかなかったかと悔やむことになるだろう。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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