[ニューヨーク 14日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ニューヨークにある遊歩道「ブルックリン・ハイツ・プロムナード」を見れば、米国におけるインフラ更新がなぜこんなにも難しいのか、理由の一端が分かる。
イーストリバーを挟んで対岸のマンハッタン島を見渡せるニューヨークの象徴が今、真下を走る高速道路の修繕を巡る論争の焦点になっている。
折りしも関連業界や従業員、政治家、一般市民がインフラ更新について議論する「インフラストラクチャー週間」が始まった。このプロムナードの一件は、米国の水路や道路などがなぜこれほど混乱した状況にあるのかを示す格好の例になるだろう。
問題の1つは、コストだ。ニューヨーク市が昨年9月に公表した計画によると、1954年に開通した2層構造の「ブルックリン・クイーンズ・エクスプレスウェー(BQE)」を改修する間、真上にあるこの遊歩道を最大6年間、6車線の道路に変える。予算は40億ドル(約4400億円)と見積もられている。
市当局はこれまで、工事を先延ばしにしてきた。だが、修繕対象となっている全長2.4キロの区間は、2026年までにトラックが安全に通行できなくなる。米土木学会によると、米国は今後10年で、2.1兆ドルのインフラ整備費不足に直面することになる。
市当局の土木担当者やデザイナーも、目先のことしか考えていない。彼らが考えたのは現在の構造を再建することだけで、街の交通需要の変化や、今年導入が決まったマンハッタンの「渋滞税」などの制度改正は無視した。
工事の間、遊歩道を臨時の道路に変える計画は、近隣住民を大気汚染にさらし、不動産価格にも影響を与えるだろう。
3つめの問題は、入り組んだ行政の仕組みにある。ニューヨークの市と州の双方が、BQEの管轄権を持っている。市の公園管理当局は、公園用地にかかる道路について発言権を持つ。市議会は建設計画を否決できるし、連邦政府も口を挟んでくる。また、実施に2年かかる可能性がある環境影響評価は必須だ。
地元住民の反対の声も大きく、裁判になる可能性が高まっている。連邦政府もインフラ整備の承認プロセスを円滑化する取り組みを進めてはいるが、実現は簡単ではない。
しかし、ブルックリン・ハイツには大きな強みが1つある。住民に広い人脈を持ったプロフェッショナルが数多くいる、という点だ。
この地区の住人はおよそ75年前、市当局者が住宅街を突っ切る形で高速道を建設しようとしたのを阻止した。今回は地元の建設事務所と協力し、公園用地を約4ヘクタール拡張できる創造的かつ低コストな代替案を提示した。
デブラシオ市長は、修繕案の選択肢を検討する委員会の設置を決めた。
問題は、この国にある他の多くのプロジェクトと同じく、正しい結果にたどり着くまでにさらに何年もかかることだ。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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