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特別リポート:米核戦略にICBMは必要か、専門家から疑問の声
November 30, 2017 / 2:55 AM / 10 days ago

特別リポート:米核戦略にICBMは必要か、専門家から疑問の声

Scot J. Paltrow

 11月22日、軍縮専門家によれば、米国が保有するあらゆる核兵器で、偶発的な核戦争の引き金となるリスクが最も高いものにICBMが含まれる。だからこそ、ICBM撤廃を求める声が一部で高まりつつあるのだ。2007年、米カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地で撮影(2017年 ロイター/Kacper Pempel)

[ワシントン 22日 ロイター] - 想像してほしい。いまは午前3時。米ホワイトハウスの主寝室では大統領が眠りについている。そこに、常駐する軍将校が、核兵器の発射コードを収納した「フットボール」と呼ばれるアルミ製スーツケースを取り出し、最高司令官を起こそうと駆けつける。

早期警戒システムによれば、ロシアが100基の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を米国に向け発射した、と大統領は報告を受ける。ロシアの核兵器は30分以内に米国内の目標に到達する。

地上配備されたICBMをロシアに向け応射すべきか、大統領の決断に許される時間的な猶予は、最長でも10分だ。ICBM発射管制官を務めた経験があるプリンストン大学の核軍縮専門家ブルース・ブレア氏はそう語る。

「これはICBMを使うか、失うかという場面だ」と彼は言う。

──関連記事:米ロの新たな軍拡競争、核戦力近代化が引き金に

戦闘ドクトリンでは、迅速な決断が求められる。なぜなら米ミサイル格納庫の位置は固定されており、よく知られているからだ。報復を阻止するため、ロシアは最初の一撃で米国の核ミサイルを壊滅させようと試みるだろうと戦略担当者は想定する。

軍縮専門家によれば、米国が保有するあらゆる核兵器で、偶発的な核戦争の引き金となるリスクが最も高いものにICBMが含まれる。だからこそ、米国の元国防当局者や軍事専門家、そして議員の一部からも、ICBM撤廃を求める声が高まりつつあるのだ。

彼らの主張はこうだ。敵の攻撃を受ける兆候がある場合、大統領はきわめて迅速にICBM発射を決断せざるを得ず、脅威の真偽を検証する時間がない。ヒューマンエラーや早期警戒衛星の誤作動、または第3者によるハッキングによっても、誤った警報発生の可能性がある。

米ICBM「ミニットマンIII」は、一旦発射されれば撤回できない。敵からの電子的干渉に脆弱との懸念に対応するため、同ミサイルには通信機器が搭載されていないからだ。

こうした懐疑派は、ICBMに代わって米核戦略における「3本柱(トライアド)」の残りの2本、つまり潜水艦搭載弾道ミサイルと、水素爆弾か核弾頭巡航ミサイルを装備した重爆撃機を頼みにするよう提言している。潜水艦か爆撃機かを決める場合であれば、大統領により長い時間的余裕を与えることができるからだ。

爆撃機は、ICBMに比べ目標到達まで時間がかかり、警報が誤りだったと判明した場合には呼び戻すこともできる。核ミサイルを搭載した潜水艦は通常目標の近くに常駐しているが、探知されないため、敵にその所在を知られることはない。ミサイルを応射する前に潜水艦が全滅するリスクは実質的にない。

<「時代遅れの」軍備>

ICBM戦力の撤廃を主張する論客の1人が、クリントン政権時代に国防長官を務めたウィリアム・ペリー氏だ。最近のインタビューのなかで同氏は、米国がICBMを撤廃すべき理由として、「あまりに簡単に、誤った警報に対応する」点を挙げている。誤った判断は破滅をもたらすだろう、と彼は警告する。「誰であろうと、7─8分内にそのような決断を迫られるべきではない」

オバマ前政権下で国防長官を務めたレオン・パネッタ氏は、在任中は「3本柱」を擁護していたが、最近のインタビューでは、考えを改めたと語っている。

「3本柱の要素のうち、現段階で『ミニットマン』ミサイルが、恐らく最も時代遅れだという点は、疑問の余地がない」と同氏は語る。

ロシアではさらに誤発射のリスクも高いと、複数の軍縮専門家は指摘。米国の場合、警報を受けた時点から、その脅威を把握してICBM発射に至るまでに、約30分間の余裕がある。だがロシアでは現在それほどの余裕はなく、一部の試算では、わずか15分程度だという。

なぜなら、ロシアは冷戦後、早期警戒衛星を更新しておらず、2014年にはすっかり老朽化してしまった。ロシア政府が早期警戒衛星の更新に着手したのは、ようやく最近になってからだ。

ロシアが頼りにするのはもっぱら地上配備型レーダーであり、ミサイルを探知できるのは、それが水平線上に現れてからだ。

対照的に、米国は完全に機能する早期警戒衛星を揃えており、ロシアがミサイル発射した瞬間にそれを検知することができる。

ICBM戦力を巡る疑問は、世界がここ数年で最も深刻な核問題に直面するなかで、浮上している。北朝鮮の核開発プログラムの進展を巡り、同国指導者の金正恩氏とトランプ米大統領は非難の応酬を続けており、その一方で米ロの核を巡る対立も高まっている。

また、兵器をより精密かつ強力にするために米国が推進する大規模で複数年にわたる「核兵器近代化プログラム」の存在も、その疑問の背景にある。戦略研究者からは、米ロが進める近代化の取り組みが、危険な不安定化を招いているという批判の声も聞こえてくる。

ICBM戦力の一触即発性を懸念する懐疑派は、その理由として、トランプ大統領の衝動的な性格を挙げている。

ペリー元国務長官は、ICBM発射という非常に重大な結果を招く決断を下すためには、性格的に冷静で合理性を重んじる大統領が必要だと述べている。「その人物に経験や経歴、知識や落ち着きが欠けているとすれば、特に心配だ」

米上院外交委員会は今月公聴会を開催し、先制核攻撃を行う権限が大統領にあるかについて議論した。マサチューセッツ州選出のエド・マーキー上院議員(民主党)は大統領権限の抑制を要求したが、数十年にわたる慣習を破るその提案は、広汎な支持を得られなかった。

「トランプ大統領は、ツイッターと同じくらい気軽に核ミサイルの発射コードを扱う可能性がある」とマーキー議員は言う。「大統領を軍幹部が思いとどまらせるなどと、当てにすべきではない」

 11月22日、軍縮専門家によれば、米国が保有するあらゆる核兵器で、偶発的な核戦争の引き金となるリスクが最も高いものにICBMが含まれる。だからこそ、ICBM撤廃を求める声が一部で高まりつつあるのだ。写真は8月、米カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地から試射された(ICMB)の「ミニットマン3」。米空軍提供(2017年 ロイター)

<北朝鮮の脅威>

トランプ大統領には核戦力を扱うスキルが欠けているとの懸念は的外れだ、と国家安全保障会議の広報担当者は語る。「大統領は、核戦力の運用を巡るあらゆる判断を下すため、卓越した準備を行っている」

もっとも、ICBMを巡る疑問が生じたのは、政権交代する以前からだ。

懐疑派は、北朝鮮のような脅威に対する抑止力としてICBMは、ほぼ無意味だと断言する。地上配備型ミサイルの目標となる仮想敵国はただ1つ、ロシアだけだというのだ。

北朝鮮や中国、イランなどの敵対国に対して北米大陸からICBMが到達するにはロシア上空を通過する必要があり、ロシア政府による意図的、あるいは偶発的な報復核攻撃を招くリスクが存在するからだ。とはいえ、少数のICBMは中国を狙っている。ロシア、中国両国に対して戦争状態となる場合に備えるものだ。

批判は高まっているものの、今のところ米国がICBM戦力を捨てる可能性はほとんどない。ICBM肯定派にとっては、「三本柱」のこの部分を捨てることは、3本脚の椅子の1本を切り取るに等しい。

オバマ前大統領もトランプ大統領も、こうした見解を支持してきた。米国議会にもICBM戦力の撤廃を望む声は見受けられない。

マティス国防長官は、トランプ氏によって登用される以前から、ICBM戦力に対して疑問を呈してきた。その理由の1つは誤射の危険があることだ。2015年、元海兵隊大将のマティス氏は上院軍事委員会で、「今こそ、地上配備型ミサイルを撤廃して、3本柱を2本柱に減らすべきではないか、と問うべきだ」と語った。

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だがマティス氏は、国防長官指名を巡る上院公聴会において、今ではICBM維持を支持していると語った。強化格納庫に収められたICBMによって抑止の「層(レイヤー)」が追加される、と述べた。

国家安全保障会議の広報担当者は、ICBM戦力の維持について、決定は行われていないと語る。大統領は年末までに核政策の検証を行うよう命じており、それまでは何も決定されないという。

ICBMは、米国が30年間で少なくとも1兆2500億ドル(約139兆円)を投じる「核戦力近代化プログラム」の一部であり、精度と破壊力向上に向けた改造や更新が行われている。また、2030年頃の配備を目指して、新型ICBMの製造も進められている。

米国空軍は、「ミニットマンIII」が、誘導システムの改善と第3段エンジンの大型化によって精度が向上し、より大きな弾頭が搭載可能になったことを確認した。

<瀬戸際からの生還>

米国における核ミサイルの歴史は、1950年代にさかのぼる。ロケット製造技術を持たなかった米国は、第2次世界大戦後のドイツで、英国に向けてドイツが発射した「V2ロケット」建造に従事した科学者たちを探し回った。

秘密計画の下で、後に「米国ロケットの父」と呼ばれるベルナー・フォン・ブラウンなどの科学者をドイツから連れ出し、戦争犯罪の訴追から逃れることと引き換えに、米国に手を貸すよう迫った。

1947年には、米国と当時のソビエト連邦が冷戦に突入。かつてナチスのロケット設計を担当していた技術者は、ソ連国民の頭上に核弾頭を降らせるための米長距離ミサイル製造を手助けすることになった。

ゆっくりと計画は始動したが、状況が変わったのは1957年10月4日のことだ。ソ連が、小型衛星「スプートニク」を地球周回軌道に打ち上げ、宇宙開発で米国を凌駕した。米国本土に到達する能力を持つICBMによって衛星が打ち上げられた事実を重視した米国は、ミサイル開発を急ぎ、1959年11月には独自のICBM発射に至った。

爆撃機と比較したICBMの優位性は、30分で目標に到達できるという点だ。欧州内の基地を離陸した爆撃機でも、目標上空に到着するには数時間を要する。

1966年には、発射命令から実際の発射までに必要な時間が、5分に短縮された。これは燃料の変更によるものだ。

それまでは、ICBM発射直前に長時間のプロセスを経て注入される液体燃料が使われていた。だが、固体燃料が発明されたことで問題は解決された。固体燃料はミサイルを製造する際に搭載され、その後数十年にわたって利用可能な状態を保つことができる。

ICBMを懸念する軍事専門家が挙げる理由の1つは、破滅に至りかねない複数回の失敗を、米ロ双方が過去に犯している点だ。

例えば1985年には、200基のICBMをソ連が米国に向けて発射したことを示す核警告が、米戦略軍のコンピューター上に出現。幸いなことに、担当将校がコンピューターに不具合があり、ミサイルは発射されていないことを察知した、とペリー元国防長官は著書「My Journey at the Nuclear Brink(原題)」のなかで回想している。

同じ誤作動が2週間後にも繰り返されたあげく、ようやく問題が回路基板の欠陥にあることが判明したという。

1995年には、当時のロシア大統領ボリス・エリツィン氏が核ミサイルの発射ボタンに手をかけた。米国製とみられるミサイルがノルウェーから発射されたことを探知したからだ。だが、ロシア当局者は、それが核ミサイルではないとギリギリで判断した。

後に、打ち上げられたのが科学研究用の無害なロケットだったことが分かった。ノルウェーは事前に打ち上げの通告を行っていたが、その情報はロシアのレーダー技術者に伝わっていなかった。

(翻訳:エァクレーレン)

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