[ワシントン 2日 ロイター] - トランプ米大統領は1日、3000億ドル相当の中国製品に対し10%の制裁関税を課すと発表した。9月1日に発動する。閣僚級の米中通商協議が7月末に再開したものの進展がみられないこと背景にあり、貿易摩擦が再び悪化する恐れがある。
今回の措置では、携帯電話やラップトップコンピュータ、玩具や靴など幅広い消費財が関税の対象となり、米国が輸入する中国製品のほぼすべてが制裁関税の対象になることになる。
トランプ大統領は「通商協議は継続している」としつつも、「米政府は9月1日から、中国から輸入される3000億ドル相当の製品に対し、小幅な10%の追加関税を課す」とツイッターに投稿した。
さらに、トランプ大統領は一連のツイートで、中国が米農産品を購入するという約束を果たしていないと不満を表明したほか、合成オピオイド「フェンタニル」の取り締まりで習近平・中国国家主席が十分な取り組みを行っていないと批判した。
トランプ大統領は、習主席が通商合意に向けてもっと迅速に動かなければ、関税をさらに引き上げるとも警告。大統領は「習主席はディールを望んでいるのだろうが、率直に言って、主席の動きは十分には速くない」などと述べた。
大統領は、今回発表した10%の追加関税発動について、通商交渉が進展しない場合は、2500億ドルの中国製品に対して既に課している25%以上に、税率を引き上げる可能性があるとの考えを示した。
ジョーンズトレーディングの主任市場ストラテジスト、マイケル・オルーク氏は、ほぼすべての中国製品に関税がかけられようとしているとし、「状況は悪化の一途をたどっている。今後リスクオフ取引が広がると予想される」と指摘。「追加関税が貿易や世界経済に良くないのは当たり前だが、トランプ大統領による貿易戦争という名のパウエルFRB議長いじめのように思える」と述べた。
<金融市場大荒れ>
中国に対する追加関税が伝わると、米金融市場は急落した。2日のアジア株市場は全面安の展開となり、円相場は大幅に上昇している。
原油価格は7%値下がりし、北海ブレント先物は2016年2月以来の大幅な下落率を記録した。1日午後にプラス圏で推移していたS&P総合500種.SPXは0.9%安で終了。米国債利回りも低下した。
小売業界団体は、消費者が支払う価格が上昇すると予想。米株市場ではターゲット(TGT.N)、メーシーズ(M.N)、ノードストローム(JWN.N)といった小売株が急落した。
トランプ大統領は、記者団に対し、金融市場への影響に関して「まったく懸念していない」と述べた。
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、米国や中国、ユーロ圏の経済がすでに減速する中、追加関税は世界経済をさらに圧迫するとの見方を示した。
貿易政策によるリスクから米経済を守るため、米連邦準備理事会(FRB)が追加利下げを余儀なくされる可能性もある、と専門家は指摘している。
中国共産党機関紙・人民日報傘下の有力国際情報紙「環球時報」の胡錫進編集長は2日朝、トランプ大統領の発表を受け、米中の通商合意は「さらに遠のいた」との見解を示した。「中国はもはや貿易戦争の規模を抑制することを優先しないと思う。長期化する貿易戦争において国家戦略に焦点を当てるだろう」と述べた。
<中国が報復も>
中国による報復措置としては、関税のほか、レアアース輸出の禁止、在中国の米企業に対する罰則などが考えられる。
米中貿易戦争が本格化した昨年以降、中国は約1100億ドルの米製品に対して最大25%の制裁関税を累積的に課したが、米国の原油や大型航空機への関税導入は控えている。
INGのエコノミスト、アイリス・パン氏は「中国は報復措置を1つずつ、着々と実行するだろう」と話す。「貿易戦争における中国の戦略は、交渉と報復のペースを落とすことだ。そうすれば、次回の米大統領選まで、報復手続きを長引かせることができる」と指摘した。
<不満募らせるトランプ大統領>
ホワイトハウスの当局者によると、トランプ大統領は7月末に上海で行われた閣僚級通商協議についてライトハイザー通商代表部(USTR)代表とムニューシン財務長官から説明を受けた後、追加関税を決定した。
ライトハイザー代表とムニューシン長官は7月30日に上海入りし、1年に及ぶ貿易戦争の解決を目指した米中の閣僚級協議が再開。双方ともに協議は建設的だったと評したが、進展はほとんどなかったとみられ、協議は実質半日で終了。交渉は長期化する見通しとなった。次回の会合は9月に米国で開く。
在中国の米ビジネス団体は米中通商摩擦の一段の深刻化に危機感を募らせている。中国に進出する米企業で構成する米中ビジネス評議会は2日、追加関税について「中国が交渉のテーブルから離れることになりかねない」と指摘。
クレイグ・アレン会長は電子メールで「われわれは特に、規制面の審査強化、免許や認可の遅れ、政府調達の入札における米企業への差別的扱いを懸念している」と述べた。
<米小売りへの影響>
米国の靴業界団、フットウェア流通小売業協会(FDRA)のトップ、マット・プリースト氏は「トランプ大統領は事実上、貿易戦争を巡る交渉で米国の世帯を人質にとっている」と指摘した。
また米国アパレル・フットウェア協会(AAFA)の幹部、スティーブン・ラマー氏は、米国で購入される衣類の42%、履物の69%が中国製であり、追加関税は中国の製造業者よりも米国の消費者に大きな打撃を与えると警告した。