[ニューヨーク 22日 ロイター] - リリアン・スミスさん(30)は過去1年間のうち約8カ月を費やして、世界各地を旅行した。訪れた先はフランス、モロッコ、日本、韓国だ。その間、宿泊費はどれくらいかかったのか。実は、およそホテル1泊分だけ。ただ、それ以外に犬の散歩や植物の水やり、ペットのトイレを掃除する時間がかかっている。
「日本を旅するのは以前からの夢だったが、ホテルやエアビーアンドビーを利用するお金はなかった」とミシシッピ州出身のスミスさんは語る。スミスさんが見つけた答えは、世界各地の人々からハウスシッティング(留守宅の維持) や犬の散歩、植物の世話の代行を引き受けることだった。
経済活動はこの数カ月減速してきているが、コロナ禍における「ステイホーム」で膨れ上がっていた旅行への渇望を癒したいと願う人は多い。旅費は高騰しており、すでにコロナ禍前の水準より高くなっているが、旅に飢えた消費者は、お金を節約して休暇を満喫するためのユニークな方法を模索している。
航空機を使わずに自動車で移動したり、格安ホテルを予約したりする人もいるが、もっと斬新な試みもある。年間100-250ドル(約1万4000─3万5000円)の会費を払ってサイトに登録し、家を不在にする間に簡単な家事を頼みたい人々を紹介してもらうという方法だ。
短期賃貸物件やホスピタリティーの分析を行っているエアDNAとSTRによれば、米国の短期滞在施設とホテルの1泊料金の平均は、2019年4月に比べてそれぞれ37%、19%上昇している。
消費者は安価なサービスを求めている。エアDNAによれば、この4月、格安・エコノミークラスの短期賃貸施設の需要は前年同期比でそれぞれ18%増、12%増となり、高級志向の賃貸施設の10%増を上回った。
エアDNAによれば、3月、旅行者による短期賃貸施設の予約件数は2100万泊となり、事前予約の件数としては過去最高となった。エアDNAとSTRでは、2022年の民間住宅の1寝室またはワンルームの宿泊料金は、大都市や海岸リゾートのホテルに比べて、それぞれ26%と10%安かった。
米商務省経済分析局によれば、3月の時点で、ホテルとモーテルに対する米国の消費者支出は1年前よりも約7.2%増加したが、2022年12月に比べれば約4.6%減少している。
<家事付きのバケーション>
スミスさんは、年会費169ドルを払って、ペットの飼い主と住み込みのシッターを繋げるサイト「トラステッドハウスシッター」に登録し、フランス、モロッコ、日本、韓国でハウスシッターとなり宿泊したという。これ以外に航空料金の支払いがあるとはいえ、彼女は宿泊費用を1万1000ドル以上節約できたと踏んでいる。
「モロッコでは猫3匹と20鉢以上の植物、東京では犬1匹、神戸でも犬1匹、韓国では猫2匹の世話をした」とスミスさんは語る。
英国に拠点を置くトラステッドハウスシッターによれば、登録会員数は直近の四半期で12%増の16万人となった。米国内での成長が主因だという。
パリを拠点とするハウスシッティング紹介サイト「ノマドール」のマチルド・フェラーリ最高経営責任者(CEO)は、2022年第4・四半期から2023年第1・四半期にかけて、新規のシッター登録者が60%増加したと語る。
一方、制約のない「ハウススワッピング(家の交換)」に注目する旅行者もいる。米企業ホームエクスチェンジによれば、第1・四半期の会員数は前年同期比で77%増の11万人、エクスチェンジの成約件数は63%増加したという。
トラステッドハウスシッターによれば、同社の登録シッターが入国管理上の問題に抵触することはほとんどないというが、米国や英国など一部の国では、ハウスシッティングが誤って「労働」に分類され、観光ビザではなく労働ビザを要求されることがあるという。
移民問題に強いニューヨークの弁護士アフィア・ユヌス氏は、「家主が労働を要求し、具体的にその労働に対して報酬を支払うのでない限り、それは移民国籍法に基づく無許可労働と解釈することはできない」と話している。
「民泊の場合でも、エアビーアンドビーは恐らくゴミ出しその他さまざまなことを求めてくるだろう」
トラステッドハウスシッターは、シッターと家主はサイトに直接支払いを行っており、両者の間で金銭がやり取りされることはないとしている。
<緊縮志向の旅行者が増加>
米国の旅行会社もこの動きに着目し、コスト意識の高い旅行者の増加に対応するために、エコノミー価格のオプションを充実させている。
米大手ホテルチェーンのヒルトン は1月、低予算の旅行客をターゲットとした新ホテルブランド「スパーク」を発表。4月には投資家に対し、同社が長期滞在向けの低価格ブランドを開発中であると告げた。目標は、エコノミー価格帯で旅行する約7000-8000万人の取り込みで、その半数は低価格ホテルしか利用できない「若年層」だという。
ヒルトンのクリストファー・ナセッタCEOは、4月に行われた投資家向け電話会議で、「現状では、われわれは彼らの多くにサービスを提供していない」と語った。「当社としては、エコノミー価格帯で見いだせる最高の商品を提供することで、若いうちからこうした顧客を囲い込む機会が得られる」
旅行ストラテジストのトニ・マコード氏(52)は、2016年にノマドールを利用してハウスシッティングを始め、最近では自営業やリモートワークで働く顧客に同サイトを紹介している。
「経済が後退しつつあるので、みな旅行に行くのはかなり厳しいと感じているが、ハウスシッティングのことを教えてあげると、『そんなやり方があるとは思いもしなかった』と目を輝かせる」
(翻訳:エァクレーレン)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」