[ニューヨーク 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領は、国防費540億ドル増額という「大風呂敷」を広げ、米国の予算が抱える欠陥を覆い隠そうとしている。感情的愛国主義が主導する、トランプ氏が「米国史上有数の規模の国防力強化」と呼ぶこうした取り組みは、さまざまな形でより高い代償をもたらすかもしれない。
国防費の増額は大半が、他の政府機関が使うべき予算を削って充当される。ロイターの計算では、国務省は外交活動や対外援助などに振り向ける年間予算が30%減って500億ドルになりかねない方向で話が進んでいる。環境保護局(EPA)の80億ドルの予算も、恰好の削減対象と化した。
これらの政府機関からの資源流用は、トランプ氏の熱心な支持者を喜ばせるはずだ。予算案承認権限を有する議会でも一部の議員は国防費増額の説得に応じてもおかしくない。対外関係の予算を財源にする考えには反対論が出るだろう。だが議員にとって国防費を前年度から9.2%も増せば、選挙区の州や地域に新たな雇用が生まれ、有権者の支持が高まる可能性があることは喜ばしい事態と言える。
もっとも国防費増額は、トランプ氏自身が発してきたメッセージに反する面もある。同氏は、自分だけが肥大化した官僚機構に大ナタを振るえる立場にいるとしてきた。しかし国防部門ほど明らかに削減の標的とすべき行政組織はほかに見当たらない。何しろ連邦予算における裁量的支出の半分強を国防関連が占めているからだ。
政府監査院(GAO)は過去22年間、国防総省について資金管理や報告などの業務を「ハイリスク」に分類してきた。国防総省が隠していた内部リポートを米紙ワシントン・ポストが調べて伝えたところでは、業務改善を通じて今後5年でやろうと思えば1250億ドルの節約は可能だという。
トランプ氏は国防総省のそうした問題点に焦点を当てるどころか、さらに予算をつぎ込むと決めた。
この決定は惨憺たる結果を招く恐れがある。第1に、ライアン下院議長を含めた一団は歳出削減に関して四角四面に対応する姿勢を見せているため、共和党内に対立の火種が生まれている。第2に、平時に軍拡を進める政府はわざわざ軍事力行使の口実を見つけようとする傾向を持つ。最後に、ソフトパワー(文化や価値観を通じた影響力)の弱体化は戦争を引き起こしやすくなり、それに伴う金銭を含めたあらゆるコストを負担しなければならなくなる公算が大きい。
●背景となるニュース
*トランプ大統領は、2018年度(17年10月─18年9月)予算で国防費を540億ドル増額したい意向。これは前年度を9.2%上回る。ホワイトハウス当局者が27日明らかにした。
*トランプ氏は全国の州知事との会合で、「やせ細った米軍再建のため国防費を歴史的に増やす」と発言。24日の保守系政治団体の集会では、米国の歴史上でも有数の規模の国防力増強になると表明した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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