August 7, 2019 / 12:44 AM / 11 days ago

焦点:トランプ政権下の科学者受難、一流諮問委「解体」の内幕

[ニューヨーク 30日 ロイター] - 彼らは一流の学術諮問委員会メンバーとして最高機密へのアクセス権限を与えられ、冷戦期以来、米国が抱える安全保障上の難問について国防総省に助言を与えてきた。60年の間に、ノーベル賞受賞者を11人輩出、連邦政府に委嘱された調査研究は数百件にのぼる。

7月30日、彼らは一流の学術諮問委員会メンバーとして最高機密へのアクセス権限を与えられ、冷戦期以来、米国が抱える安全保障上の難問について国防総省に助言を与えてきた。写真は4月、ジョージア州キングスベイの潜水艦基地に戻ったオハイオ級原子力潜水艦アラスカ。米海軍提供(2019年 ロイター)

「ジェイソン」と呼ばれるこの諮問グループは、米国トップクラスの物理学者など科学者約60人で構成され、毎年夏をカリフォルニア州ラ・ホーヤで過し、国防総省その他の連邦政府機関から委嘱された研究を行ってきた。

3月28日、トランプ大統領に任命されたグリフィン国防次官(研究・技術担当)は、この諮問グループの廃止という予想外の動きに出た。

国家核安全保障局(NNSA)当局者やジェイソン関係者によれば、リサ・ゴードンハガティNNSA局長はこれに反対し、グリフィン氏側に「ジェイソンの科学者らは米国の核兵器備蓄の安全を確保するために欠かせない存在である」と申し入れたという。NNSAは、ジェイソンを同局管轄下に置くことを提案した。グリフィン氏の同意さえあれば、それは実現可能だった。

だが、グリフィン氏はこれを拒否した。

グリフィン氏はコメントを拒んでいるが、国防総省の広報官は、同省は以前考えられていたほど研究活動を必要としていないと判断した、と回答した。

「本省は引き続き、外部からの技術的勧告・検証を求めることに力を注いでいる。今回の変更はこうした方針に沿いつつ、経済的には最も理にかなったものだ」と、広報担当者は述べた。

ジェイソン支持者は窮地に追いやられたが、暫定的に8カ月間、グループを存続させることに成功した。下院民主党は、国防総省のなかでもグリフィン氏が指揮を執らない別の部門を通じてジェイソンに予算をつけようとしているが、共和党優位の上院がこれに同意するかどうかは不明だ。

グリフィン氏がジェイソン休止を決めた翌日、連邦官報に掲載されたわずか35ワードの文章により、別の外部科学委員会2つが消滅することが発表された。その1つが、73年間にわたって米海軍及び米海兵隊に提言を行ってきた海軍研究諮問委員会(NRAC)である。

こうした科学委員会廃止の動きは、米国政府内における独立性のある科学の役割に対するトランプ政権の圧力が、政治的な影響とは無縁だと長年考えられていた領域にも及んでいることを示している。

これは始まりにすぎないのかもしれない。

6月にトランプ氏が署名した大統領令は、すべての連邦政府機関が9月30日までに外部諮問委員会の3分の1を削減することを求めた。こうした委員会は現在約1000組織に達しているが、最終的には、総数を350以下に削減することが目標とされている。

トランプ政権当局者によれば、こうした措置により無駄な事務作業とコストが削減できる、という。たとえばジェイソンには、年間約800万ドル(約8億6000万円)の税金が投じられている。

だが、これらの委員会を潰すことで、重要な軍事的・科学的問題に関する客観的な評価が損なわれるとの警告もある。

国家機密の専門家である全米科学者連盟のスティーブ・アフターグッド氏は、「外部の科学顧問を狙い撃ちにするパターンからすると、望まれていないのは彼らの独立性、ということのようだ」と語る。

ジェイソン解体に向けた動きに関する今回の報道は、ジェイソンの新旧座長や、プログラムの運営担当者、国防総省、NNSAの当局者に対するインタビューをもとにしている。またロイターでは、ジェイソンに関する電子メールや書簡も閲覧した。

<外部諮問機関の整理縮小>

ジェイソンのメンバーは、米国の優秀な科学者のなかから、既存の会員によって選ばる。独立性を頑強に守ることで有名で、ときには波風も立ててきた。

ジェイソンは、旧ソ連が1957年、地球を周回する最初の人工衛星スプートニクを打ち上げたことを受けて設置された。米国は、宇宙とテクノロジーをめぐる戦争に敗れることを懸念し、同プロジェクトを立ち上げたのである。

ジェイソンは1960年代には、ベトナムにおける敵側のゲリラを探知し、その場所を米国の爆撃機部隊に通知する一種のセンサーを発明した。40年後、国防総省が新メンバーになる科学者数名を指名しようとしたところ、ジェイソンはこれを拒否した。

非営利の科学者団体「憂慮する科学者同盟」のシニア・サイエンティストであるデビッド・ライト氏は、「彼らは思ったことを表明する」と語る。「資金を出している国防総省からの独立性を懸命に守ろうとしてきた。ジェイソンは、頭痛の種になりうる。必ずしも国防総省が望むような答えを発表するとは限らないからだ」

最近では、2016年末にキューバ駐在の米外交官が奇妙な音を耳にして健康を害したとされる問題について、ジェイソンは音の原因は謎の音響兵器ではなく、ジャングルに住む珍種のコオロギであるという判断を下した。健康障害の最終的な原因はまだ特定されていない。

ジェイソンとの契約は、国防総省が資金を提供する研究と合わせて、国防総省の管掌とされている。他の連邦政府機関は、それぞれが委嘱した研究に対して資金を拠出している。ジェイソン参加者によれば、各研究のコストは約50万ドルで、年間12~15件の研究を実施しているという。参加する科学者は、1日約1200ドルの報酬を得ているという。

契約は3月31日に更新予定になっていた。1月、連邦政府からの資金拠出を受ける研究センターを管理し、ジェイソンの監督にも当たっている非営利団体マイター・コーポレーション(バージニア州マクリーン)は、同プロジェクトの運営を継続すべきであるとの勧告を提出した。1990年代初頭以来、5年ごとに繰り返してきた形式だ。

国防総省はマイターに対し、3月16日までに提言に対する回答を行うと告げたが、その日が来ても、何の発表もなかった。

契約終了の3日前に当たる3月28日、マイターは国防長官府の契約担当部門であるワシントン本部管理部から、契約更新に関する入札を中止することを決定したと告げる書簡を受け取った。

<「スターウォーズ」構想をめぐる衝突>

対立の中心にいるのが、トランプ氏が指名したグリフィン次官だ。共和党優位の米上院は、2018年2月に指名を承認している。

グリフィン氏は、宇宙配備型のミサイル防衛システムを明確に支持してきたことで知られている。このシステムは過去に、ジェイソンに参加する科学者から厳しい評価を受けてる。

3月12日、国防総省は、次世代宇宙軍事能力の開発を担う部署として宇宙開発庁を発足させた。同庁を指揮するのはグリフィン氏だ。

「憂慮する科学者同盟」のシニア・サイエンティストであるローラ・グレゴ氏は、グリフィン氏が宇宙配備ミサイル防衛システムの推進を「明らかに望んで」いると話す。「彼は、『愚かな反対』によって足を引っ張られていることに不満だ」と彼女は言う。

ジェイソン参加者は以前から、宇宙配備型の兵器システムに懐疑的な立場だ。ジェイソンの研究計画に詳しい人々によれば、この夏実施予定の研究では、宇宙配備型の防衛システムの問題を扱うという。

機密指定されていない過去の研究でも、宇宙配備型の軍事プログラムに関係する科学に対するジェイソンの批判的な姿勢は明らかだ。たとえば2008年、国家情報長官のオフィスは、ジェイソンの科学者らに高周波重力波に関する検証を委嘱した。高周波重力波については理論上、地下核実験など秘密裡に行われる活動の検知など、いくつかの用途がある。

ジェイソンでは、政府の支援を受けた科学者が実施した補助的研究を検証し、その主張を一蹴した。「必要とされるガス圧の計算が論外である」と彼らは書いた。「明らかに、ひどく誤った計算だ」

ジェイソンの予算期限が迫るなかで、同プロジェクトに参加する科学者とマイターの職員は、突然、冷戦時代以来の付き合いの国防総省との会合さえ開けなくなってしまった。

ロイターが閲覧したメールや、やり取りに詳しい人々によれば、国防総省高官らは彼らとの面会を避けたという。マイター職員とジェイソンに参加する科学者らは、いずれもグリフィン氏のオフィスに連絡を取った。メールによれば、秘書官の1人は彼らに対し、オンラインの申請フォームを使って会合の要請を送るよう求めた。そして、その申請は却下された。

ジェイソン解散は、同プロジェクトによる研究を利用していた連邦政府機関全体に副次的な影響を及ぼすだろう。2019年夏には、7つの連邦機関から15件の研究を実施するよう委嘱されていた。

予定されている研究のほとんどは機密扱いだが、そうでないものもある。たとえば全米科学財団は、ジェイソンの科学者らに対し、米国の知的財産権を守るにはどのような規制が適切か検証するよう求めているた

またもう1つの研究テーマは、NNSAのために連邦議会が委嘱したもので、核兵器のピット(米軍が保有するさまざまなタイプの核兵器のコア部分)の経年劣化を検証する内容だった。NNSAは核兵器備蓄の安全確保に関して、長年にわたってジェイソンによる研究を頼みとしてきた。

科学者らによれば、ゴードンハガティNNSA局長は4月、国防総省がジェイソンの管轄を望まない場合、NNSAが契約を引き継ぐことを決意したという。

連邦政府との新たな契約を起案するには、下手をすれば数ヶ月を要する。ジェイソンが消滅する4月30日まで、ゴードンハガティ局長には2週間しか残されていなかった。この日が来れば、ジェイソンは継続中の研究を中止し、実質的に解散状態になる。

ジェイソンとNNSA当局者の1人によれば、ゴードンハガティ局長はグリフィン氏のオフィスに対し、1カ月の契約延長に同意するよう申し入れた。ジェイソンには1カ月活動を続ける資金は残されていたので、これによってグリフィン氏のオフィスは何のコストも生じないはずだった。

必要なのは、その決定を合法にする書類への署名であり、契約を解除する部局長であるグリフィン氏がその決定を承認する必要があった。だが彼はそれを拒んだ。

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ゴードンハガティ局長は土壇場で、異例の書類処理手続きを完了させることに成功し、後日ジェイソンとの契約を結ぶ意志を示す公式の通知を発表した。マイターに対し、自らの財源からジェイソン向けの資金を暫定的に拠出するよう説得するための材料としては、これで十分だった。

ジェイソンは8カ月生き延びることになった。だが、その先のことは、危ぶまれている。

(翻訳:エァクレーレン)

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