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コラム

コラム:ドイツを敵に回す米スパイ活動、その目的は

[11日 ロイター] - 昨年秋にメルケル独首相の携帯電話が米国家安全保障局(NSA)に盗聴されていたことが発覚したのに続き、米情報機関がドイツでスパイ活動をしていたとする2つの疑惑が浮上している。唖然(あぜん)とさせられるが、いったい彼らは何を考えているのだろうか。

 7月11日、メルケル独首相の携帯電話が米NSAに盗聴されていたことが昨秋発覚したのに続き、米情報機関がドイツでスパイ活動をしていたとする2つの疑惑が浮上している。写真は9日撮影(2014年 ロイター/Thomas Peter)

現在、事態は新たに劇的な展開を迎えている。ドイツ政府は米中央情報局(CIA)のベルリン支局長に国外退去を命じたが、これは同盟国相手の措置としてはほとんど前例がない行動だ。こうした異例の措置は、メルケル政権が米スパイ疑惑をいかに深刻に受け止めているかを示している。

露見するかもしれない危険を冒してまでドイツ連邦情報局(BND)に潜入し、CIAが入手したかった情報とは何だろう。それほどのリスクに見合うものだったのだろうか。

CIAとホワイトハウスは、この件についてほとんど口を閉ざしている。だが、ドイツ産業界がロシアやイランと強い結び付きがあることに、ヒントが隠されているかもしれない。

こうした国々とドイツとの経済的・政治的機密情報が、米情報機関にとって重要度の高いターゲットとされていた可能性はある。例えば、ロシアからの石油輸入に大きく依存するメルケル政権が、ウクライナ東部の親ロ派を支持するロシアのプーチン大統領に対する締め付けの姿勢を弱めるかもしれないと、CIAは考えているのかもしれない。

ドイツの情報機関がテロ容疑者の情報をつかんでいる可能性も別の理由として考えられる。CIAも米連邦捜査局(FBI)も、国際武装組織アルカイダによる米同時多発攻撃の計画が、ドイツのハンブルクで立てられたことをはっきりと記憶している。ドイツは歴史的に見ても東西を結ぶ交通の要衝であり、また相当な規模のアラブ系移民を抱えている。

ドイツは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、米国のパートナーでもあるが、軍内部にターゲットがいた可能性もある。

米国にとってこれ以上最悪のタイミングはないかもしれない。米政府とメルケル首相との関係はすでに強い緊張状態にあった。ドイツ連邦検察庁は先月、メルケル首相への携帯電話盗聴疑惑の調査を正式に開始した。

これに対しホワイトハウスは、メルケル首相の携帯電話は現在盗聴されておらず、今後もされることはないと弁明したが、過去については一切語っていない。NSAが盗聴していたことを暗に認めた格好とも言える。

米スパイ活動疑惑をめぐり、2国間関係は悪化の一途をたどっている。先週には、BNDに所属する31歳の男が逮捕された。男は、米盗聴疑惑を調査していたドイツ議会委員会の活動情報などを、米国側に漏らしたことを認めている。また9日には、ベルリンの警察当局がドイツ国防省職員とされる男の自宅などを別のスパイ容疑で家宅捜索した。

ドイツ人が特に監視やスパイ活動に敏感なのは、ナチス時代のゲシュタポ(秘密国家警察)や旧東独のシュタージ(国家保安省)が原因なのかもしれない。

一方、ある米国の元情報機関当局者は「スパイ活動は見つからない限り問題ない」と語った。

だが、スノーデン容疑者や、内部文書告発サイト「ウィキリークス」に機密文書を提供し、禁錮35年の判決を受けた元陸軍上等兵チェルシー・マニング受刑者らが世間をにぎわす中、スパイ活動が見つかる可能性は以前にもまして高く、機密の保持も困難となっている。故に、CIAはすべてのスパイ活動が発覚する可能性があるとの前提に立つべきだ。

前述の米元情報当局者は、メルケル首相の携帯電話盗聴と最近の2つのスパイ疑惑について、米政府がそもそもスパイ活動のリスクや露見した際のダメージと、そこから得られる利益(もしあれば)を十分に勘案しているのかという大きな疑問があると指摘する。

米スパイ活動疑惑はオバマ政権にジレンマを引き起こしている。メルケル首相の電話盗聴をオバマ大統領が知っていたにせよ、まったく知らなかったにせよ、どちらの場合でもだ。もし大統領が報告を受けていなかった場合は、情報機関に対してホワイトハウスのコントロールが行き届いていないことを示唆することになる。

BNDへのスパイ活動はとりわけデリケートな問題だ。なぜなら何十年もの間、ドイツは米国と互いにスパイ活動を禁止する協定の締結を目指してきたからだ。

そもそもBNDの歴史に米国が関わっているというのも皮肉な話だ。第2次世界大戦後、ソ連の情報を欲しがっていた米国は、ドイツ軍でソ連の諜報活動をしていたラインハルト・ゲーレンを後押しし、「ゲーレン機関」を設立させた。同機関が現在のBNDの前身となったという経緯がある。

先週に逮捕されたBND職員のケースは、例えばそれが冷戦下でソ連の核貯蔵庫に関するものであり、何百万人もの米国人の命を救うかもしれない情報であったなら正当化されただろう。

だが冷戦はとうの昔に終結している。今はもう2014年だ。米国は、最も重要な欧州の同盟国であるドイツとの関係を見直す時にきている。

*筆者はニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙で記者を務めた米ジャーナリスト。スパイ活動に精通し、著書に「Tiger Trap: America’s Secret Spy War with China」「Spy: The Inside Story of How the FBI’s Robert Hanssen Betrayed America」など多数。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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