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コラム:戦闘機の購入削減が可能にする米国の「頭脳」投資
2016年10月4日 / 01:02 / 1年後

コラム:戦闘機の購入削減が可能にする米国の「頭脳」投資

[20日 ロイター] - 無料の大学は、志願兵でのみ編成される私たちの軍隊を脅かすのだろうか──。これは元米海兵隊員のベンジャミン・ルクセンブルク氏が、軍事ブログ「War on the Rocks」に執筆したコラムの題名だ。

 9月20日、無料の大学は、志願兵でのみ編成される私たちの軍隊を脅かすのだろうか──。写真は多額の学費ローンに抗議するパレード参加者。米オレゴン州アシュランドで2015年7月撮影(2016年 ロイター/Randall Mikkelsen)

しかし、本当に問われるべき問題は、同氏の現実的な疑問にとどまらず、米国民としてのアイデンティティーや将来像に深く関わっている。

無料もしくは安い費用で高等教育を提供する他の多くの先進各国と異なり、米国では大学に行くのに金がかかる。例えばドイツやスウェーデンなどの国は完全無料で高等教育を提供しており、韓国のソウル国立大学の学費は、英オックスフォード大学とほぼ同額の年間1万2000ドル(約120万円)だ。

米ハーバード大学では学費や部屋代、食費などで年間6万3000ドル、学位取得には25万ドルが必要となる。優れた州立大でも、州内出身者用の学費や部屋代、食費として年2万2000ドルかかる。

現在、米国における高等教育を受けるための道は限られている。裕福な親を持つこと。学費援助の資格を得られるほど低所得でかつ優秀であること。膨大な借金を引き受けること。

そして、軍隊に入ることだ。

2008年に成立した新復員兵援護法では、生活給付金とともに、学費として年間最大で2万ドルが給付される。ハーバード大学ではその給付金額は月2800ドルだ。退役軍人を受け入れる「黄色いリボン」プログラムの参加大学は、同法の給付金受給資格に影響を与えることなく、追加の資金援助を行っている。

また、ウエストポイントといった士官学校に加え、大学卒業後の米軍入隊を前提として全額あるいは、それに近い奨学金を支給する「予備役将校訓練課程(ROTC)」が存在する。

全体で、軍に入隊、もしくは士官学校に入った人々の75%は、教育給付金が目的だったという。これを受け、ルクセンブルク氏は、米大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン氏が提案する低費用の大学教育が、全志願制の軍隊に脅威を与えるのかと疑問を呈している。もし大学に安く行けるなら、それでも彼らは軍に入隊するだろうか。

これは世に問うだけの価値がある現実的な問題だが、より重大な問題も提起している。軍に人々を入隊させるために、大学の授業料を高額にする必要があるのか。不平等な大学進学機会が、国家防衛を支えているのだろうか。

もちろん、入隊動機は常にさまざまだ。しかし、もう少し奥深く見てみよう。国民のほんの一部にしか手頃な高等教育を保障していないことは、国について何を物語っているのだろうか。全米人口の約7%がどこかの時点で軍に所属していた。現時点では、米人口の0.5%未満しか軍に務めていない。なぜ私たちは、残りの99%以上に何もせず、彼らの自活に任せているのだろうか。

高等教育への幅広い参加費用をどのように負担すべきかは常に話題に上る問題だ。クリントン氏はこの問題を、民主党指名争いのライバルだったバーニー・サンダース氏による積極的な提案を打ち負かすために利用した。共和党のドナルド・トランプ候補も、彼女のより慎重な提案について、今後の討論会で同じ問題を取り上げるかもしれない。

資金は重要だ。だが、その資金によって、米国が何を得ることができるかという点もまた重要だ。他の先進国が国民の教育費用をどのように負担しているかといった些細な問題は脇に置いても、米国の問題に焦点を当てて考えてみたい。

思考実験の1つとして、学費や生活費といった軍による高等教育給付金を年間5万3000ドルに設定することから始めてみたい。最新鋭ステルス戦闘機F35は1機当たり1億7800万ドルかかる。

購入リストからF35を1機減らせば、3358年分の大学費用をねん出できる。私たちはわずか数機の購入を見合わせることで、大学が手の届かないところにあると思っている多くの人々を進学させることができるのだ。

ここで、多くの人々が投げ掛けるだろう最後の質問は、資格の問題だ。民間人がどんな行動を取った場合に、政府は彼らの大学費用を提供するのか。

「サービス」を、非軍事の重大な国家的必要事項にまで拡大するという妥当な考えを無視すれば、答えは「なし」だ。私たちが今日、資金提供を始めたとしても、彼らはそのために何もしていない。しかし、そんなことよりも、より重要なことがあるだろう。

安全保障は、単なる「大きな常備軍」よりも、はるかに多くのものによって定義される。1970年代に崩壊した煤煙と鉄の産業基盤から、21世紀に競争できる基盤へ移行しようと今も苦しんでいる米国にとって、それは教育を通じてのみ、成し遂げられる。

賢明な人々が増えるということは、繁栄につながるより賢い仕事ができる人々が増えるということだ。これは、最も重要なインフラである「頭脳」に対する投資である。

確かに、米国が防衛にどれほどの金を費やし、それをどう分配するかといった問題は複雑だ。しかし、ここで論じてきた支出の変更は、その問題の極めて末端に位置する。米国の防衛費は世界で断トツの6070億ドルに達している。高等教育への幅広い参加にかかる費用は、そのほんの一部にすぎず、米国の安全保障への脅威が合理的に議論される必要が生じる境目の額をはるかに下回っている。

退役軍人への給付を削減すべきとは誰も提案していない。しかし、明らかに、その気になれば高等教育への幅広いアクセスを実現するだけの余裕がある国にとって、国民の将来を、単にダーウィン主義的な金銭サバイバル競争に委ねることは大変な間違いだと思える。

*筆者は、米国務省に24年間勤務。著書にイラク再建の失策を取り上げた「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People(原題)」などがある。最新刊は「Ghosts of Tom Joad: A Story of the #99 Percent(原題)」。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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