September 5, 2018 / 6:00 AM / 2 months ago

焦点:幻の仮想通貨「ペトロ」、消えたベネズエラの救世主

[アタピリレ(ベネズエラ) 30日 ロイター] - ベネズエラのマドゥロ大統領によると、辺境の地にある人口1300人のこの集落は、仮想通貨技術の最先端を走っている。同国中部のサバンナにあるアタピリレは、この一帯で唯一の村だ。当局は、周辺に約50億バレルの石油が眠ると主張する。

 8月30日、ベネズエラ中部のサバンナにあるアタピリレ周辺に埋蔵されているとされる原油は、仮想通貨「ペトロ」の裏付けとなっているが、住民は政府が油田を開発しようとしているのを見たことがないと話す。写真右はペトロのロゴ。カラカスで2月撮影(2018年 ロイター/Marco Bello)

ここに埋蔵されているとされる原油は、マドゥロ大統領が2月に打ち出した仮想通貨「ペトロ」の裏付けとなっている。大統領は8月、ペトロは経済危機のベネズエラ再建に向けた礎になると語った。

しかしアタピリレの住民は、政府が油田を開発しようとしているのを見たことがないと話す。苦境にあえぐ自分たちの村が、金融革命の最前線にいるとも感じていない。

「ペトロの気配は全く感じられない」と、主婦のイグダリア・ディアスさんは言う。彼女は壊れそうな学校や未整備の道路、頻発する停電や慢性的な食糧不足について痛烈な批判を始めた。

ロイターは4カ月間にわたり、仮想通貨や油田査定の専門家10人以上に取材し、政府が原油が眠ると言う場所に足を運び、ペトロの電子取引記録を調査した。明らかになったのは、仮想通貨ペトロの存在を確認するのは困難ということだった。

ペトロの取引が活発に行われているという証拠はほとんど見当たらなかった。主要な仮想通貨取引所では売買されておらず、ペトロによる支払いを受け付ける店もなかった。

わずかながら、仮想通貨の交流サイトで自分たちの取引経験を投稿するペトロの所有者を見つけた。投稿者の1人は「詐欺だ」と不満を書き込んでいた。ロイターの問いかけに応じた別の投稿者は、問題なくトークン(仮想通貨)を受け取ることができたと回答し、ベネズエラに対する米国の制裁と「ひどい報道」が、ペトロの取引に打撃を与えたと非難した。

<食い違う大統領と担当大臣>

ベネズエラの政府首脳の発言には食い違いがみられる。マドゥロ大統領はすでにペトロで33億ドル(約3650億円)を調達し、通貨は輸入品の支払いにも使われていると話す。一方、計画に携わるウグベル・ロア大学教育・科学技術相はロイターの取材に、ペトロに必要な技術はまだ開発途中だと明らかにした。「まだ誰もペトロを使えていない」と語った。

大統領は8月、給料や年金、通貨ボリバル相場をペトロに固定させると発表し、混乱に拍車をかけた。「実際に取り引きされていないトークンと価格や交換レートを連動させることなどできない。実際にいくらで取引されているのか、知る由もないからだ」と、コンピューターが専門の科学者で、ペトロの動向を注視する仮想通貨コンサルタントのアレハンドロ・マチャード氏は言う。

政府はペトロの価値をベネズエラ産の原油1バレル当たりの価格(現在は約66ドル)に固定し、アタピリレ周辺の原油で裏付けると約束した。トランプ米大統領は3月、米国民がペトロを買ったり使ったりすることを禁じた。

ペトロが多額の外貨をもたらしているとするマドゥロ大統領の主張に、アナリストは懐疑的だ。政府は仮想通貨の新規発行(ICO)でいくら調達したのか、十分な記録を明らかにしていないと彼らは指摘する。

「低調な取引状況を考えれば、確かに通常のICOではないようだ」と語るのは、ロンドンを拠点とするブロックチェーン分析会社エリプティックの共同創設者トム・ロビンソン氏。「ペトロが発行されたという証拠を得られていない。取引所で活発に売買されているという証拠もない」と、同氏は話す。

<「現時点で詐欺」>

アタピリレ周辺で石油開発の動きが確認されることもほとんどなかった。見つけた掘削リグは小さく、何年も前に導入された古いものだった。一部は放棄され、雑草に覆われていた。

石油相を務めたラファエル・ラミレス氏は8月19日、ベネズエラの分析サイトに投稿し、開発には最低200億ドルの投資が必要と試算した。問題を抱えるベネズエラ国営石油公社に、そんな資金はない。

ビットコインやイーサリアムといった名の知れた仮想通貨とは違い、ペトロの所有者を見つけるのは困難だ。

「ビットコイントーク」と呼ばれる仮想通貨の交流サイトでは今年初め、熱心なトレーダーたちがペトロに関する投稿を始めた。初期の盛り上がりは徐々に低下、参加者の一部は情報不足やコインがなかなか入手できないと不平を漏らしていた。別の投稿者は送金や売買ができないと不満を口にしていた。

「現時点で言えば詐欺。良い投資になるかどうかは時がたてば分かる」と、「クリプトバイアグラ」と名乗る参加者は6月25日に投稿している。

一方、ロイターの問いかけに唯一応じた投稿者は、ペトロ取引の経験について「かなりうまくいった」と回答した。彼はペトロの不調について、米国が購入を禁じたことや、否定的な報道のせいだと非難した。「ロイターは誠実な報道機関とは思わない」と付け加えた。

<油田開発の投資計画なし>

ベネズエラは、同国経済の中核である石油でペトロを裏付けることで、小規模ながらも増え続ける仮想通貨の発行体の仲間入りをした。こうした発行体は、仮想通貨の価値を実際の商品と連動させている。

英王立造幣局は昨年、金を担保とする仮想通貨「ロイヤル・ミント・ゴールド」を発表した。ダイヤモンドを裏付けとする仮想通貨もある。

ペトロとの大きな違いは、すぐに取引可能な有形資産を担保にしている点だ。マドゥロ大統領がペトロの裏付けとする埋蔵原油は、アタピリレ周辺にあるアヤクーチョ第1鉱区の地下深くに今も眠っている。

ベネズエラ政府は、「独立した国際認定機関」のお墨付きを得たとして、同鉱区に53億バレルの原油が埋蔵されていると主張する。埋蔵量はさておき、ここには道路やパイプライン、発電施設など掘削に必要なインフラが整っていないと、米ライス大学で中南米のエネルギー政策を教えるフランシスコ・モナルディ氏は指摘する。「この地域に投資する計画は存在しない」と、ベネズエラ出身の同氏は語る。

<忘れられた村人>

私たちは忘れられた存在──。アタピリレの住民はそう話す。かつて雇用を生み出していた養魚場は廃墟と化し、診療所には医者もいなければ稼動する救急車もない。

ほこりが舞い立つ路上では、たくさんの人が列をなしていた。村から60キロ北にある重要な石油拠点エルティグレに向かう唯一の公共交通機関、中国製のバスを待っていた。

教師のローザ・アルバレスさんは、自分のクラスの半数程度が学校に来なくなったと話す。国による支援の給食がなくなり、生徒たちの空腹を満たすことができなくなったためだという。

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当局は彼女の不満を無視する一方で、教育省から新たな指示が来た。ベネズエラの新しい仮想通貨の美徳について、生徒に教えろというものだった。

「ペトロがどういうものか、誰も私に教えてくれない。どうやって子どもたちに説明すればいいのだろう」

(翻訳:伊藤典子 編集:久保信博)

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