December 22, 2015 / 6:48 AM / 4 years ago

視点:対中を越えて、アジアが求む日本の構想力=寺島実郎氏

同氏の見解は、以下の通り。

<アジアのリーダーに必要な「浩然の気」>

日本の現状を見て、このところ改めて注目しているのが1914年から18年の「運命の5年間」だ。第1次世界大戦を挟んで、当時の日本は世界潮流から遅れて植民地主義に踏み込んでいった。それまで屈折して蓄積されてきた中国に対する劣等感を優越感に反転させた瞬間だった。

その後、第2次世界大戦での敗戦を米国に対する物量の敗戦と総括した日本人は、ひたすら経済復興と成長に力点を置いて、平和と繁栄の思想に専心した。そして、産業力を背景に、世界第2位の経済大国まで成長したことに大きな自負心を持った。

しかし、その自負心が傷つけられる事態が起きた。2010年に中国に国内総生産(GDP)で抜かれ、14年には2倍を超えた。さらに1人当たりGDPでも香港に抜かれ、アジアで第4位になった。もはやアジアで最も豊かな国ではないという状況に、「事情」を知っている人ほど心穏やかではない。そこへ中国の拡張的動きが重なって、中国に対する平常心を失っている。

このような心理に加えて米中関係を見誤ると、米国と組んで中国の脅威を抑えていくしかないという結論に行き着くのだろう。

しかし、この発想は、世界の感覚とは完全にずれている。日米で協力して中国に向き合おうというゲームを組み立てているつもりだろうが、米国の本質は異なる。

アジアでの影響力の最大化を考える米国は、日本を大事な同盟国とする一方で、中国を戦略的パートナーと言わないまでも、重要な対話の相手として認識している。

尖閣諸島(中国名・釣魚島)の問題をめぐっては、施政権が日本にあり、日本防衛義務を定めた日米安保条約第5条の適用対象であると米国は明言しているが、同盟責任を果たすと伝えているのであって、中国封じ込めのゲームに付き合うと言っているわけではない。

日本の過剰依存と過剰期待が、アジアの外交ゲームをおかしくしている。ウェットな日本は、中国封じ込めの「自由と繁栄の弧」のイデオロギー外交に米国を引き込めると考えているが、アジアでの影響力の最大化を目指す米国は中国も日本も大事だと言っているだけである。この微妙な認識のズレが日本外交に「複雑骨折」を引き起こしている。

日本はもっと賢くならなければいけない。中国と同じレベルでの力比べが21世紀の日本のテーマだと思っている人たちからすれば、集団的自衛権となるのだろうが、本来は21世紀のアジアでの日本の役割をどう認識するかによって、政策論も展開されるべきだ。

私が東南アジアの人たちと議論していて感じるのは、日本がアジアで期待されている役割は中国と角を突き合わせることではない。マネーゲームや株式市場の規模で中国と張り合うことより、一段上の成熟した民主国家として、技術力や産業力、あるいはソフトパワーで格上の国だと実証していくことが日本の進むべき針路なのだと覚悟する必要がある。

日本の外交史を検証して見えてくることは、中国に対して平常心を失うと、迷走するということだ。前述した通り、劣等感が優越感に転じると、戦争への道を歩んだ。100年経った今、優越感を抱いていた中国にGDPで追い越されて、平常心を再び失い、一種の興奮状態に陥っている。

そうではなく、孟子の言葉でいう、「浩然の気」のごとく、広い心を持ち、アジアをどのように牽(けん)引していくのかを考え、アジアのリーダーにふさわしい風格を備える必要がある。

<新自由主義とリフレ経済学の「複雑骨折」>

経済政策についても同様に覚悟をもって臨むべきだ。7―9月期は改定値でかろうじてプラス成長となり、不況入り(2四半期連続のマイナス成長)は免れたが、期待外れの成長にとどまっていることは明らかだ。実体経済とマネーゲームとの乖(かい)離が起きていることをはっきりと認識しなければならない。

安倍政権の経済政策は、突き詰めれば、株高幻想に寄りかかっている。株高の恩恵を享受している人たちはもちろんいる。一部の大企業には追い風ともなっている。しかし、金融緩和と円安誘導によって、失っているものは相当大きい。輸入インフレはその一例だが、日本のようにエネルギーや食料を海外に依存している国にとって、為替を円安に持ってくことは非常にリスクのあることだ。

日本企業はアベノミクス以前、十数年にわたって円高圧力に耐えながら、ひたすら生産拠点の海外シフトなどグローバル化を推し進めてきた。この3年間、円安基調で推移したからといって、いきなり生産基盤を国内に戻せないだろう。

また、円安で企業収益が水膨れしても、国内で働く人たちへの分配は一向に増える様子はない。むしろ、勤労者世帯の可処分所得は、消費税増税と社会保障負担増によって、実質的には減っている。そこへインフレだ。消費者物価は目下、エネルギー価格下落によって抑えられているように見えるが、過去3年間の累計では3.5%から4%上昇している。低所得者ほど生活が厳しくなっているのは明白だ。

こうした状況を見ると、日本が陥っているのは、まさに新自由主義とリフレ経済学の「複雑骨折」だと感じる。政府は企業に賃上げを求めているが、その一方で法人税減税を進めており、分配重視なのか国際競争力重視なのか、どこを目指しているのか分からない。「新3本の矢」は社会的な困窮者への対策を強く打ち出しているが、これはアベノミクスがうまく行っていないと自ら認めているようなものだ。

では、どうすればよいのか。日本の経済構造を直視してあえて1つ挙げれば、サービス産業の高度化へ大きく踏み出すことではないだろうか。

1960年代までは生産性の低い農業セクターから生産性の高い製造業セクターへ就業が移動することでより豊かになれたが、もはや工業生産力を高め、通商国家として付加価値を創出するパターンだけでは豊かになれない就業構造になっている。長年の命題であるサービス産業の高度化に真剣に取り組まなければならない。特に観光は、パラダイムシフトの起点として、大いに期待できる。欧米あるいはシンガポール並みにポテンシャルを引き出せれば、経済活性化をもたらす中核産業となろう。

女性活躍や地方創生が大事なテーマであるのは誰も異論はない。だが、一番重要なのは実体経済のところで、日本人をより豊かにする産業論を組み立てることだ。

これほど問題が山積しているにもかかわらず、秋の臨時国会が開かれなかったことは大変残念に思う。代議制のあり方について考え直す必要があると思われる。

*本稿は、寺島実郎氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*寺島実郎氏は一般財団法人日本総合研究所理事長、多摩大学学長。経済産業省・資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員として、国のエネルギー政策議論にも参加している。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2016年の視点」に掲載されたものです。

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