January 6, 2017 / 4:57 AM / 2 years ago

視点:成長頼みの財政再建と決別のとき=土居丈朗氏

ただ、一般歳出の約6割を占める最大の歳出項目である社会保障関係費の自然増を政府計画の「目安」内に2年連続で抑えたことは評価でき、今後も経済成長による税収増に依存せず、歳出抑制と税制改革にしっかり取り組むべきだと説く。

同氏の見解は以下の通り。

<小さな抑制策の積み重ねも重要>

12月22日に閣議決定された2017年度予算政府案には、素直に評価できる部分がある。最大の政策的経費である社会保障関係費の伸びを5000億円以内に抑制できたことだ。

安倍政権は「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太方針2015)」で2018年度まで社会保障関係費の自然増を年間5000億円以内に収めるという「目安」を提示しているが、それが2年連続で守られた。結果として、全体の一般歳出の伸びも、「目安」の5300億円程度に抑えることができた。

実は社会保障関係費の自然増を5000億円にとどめることは秋口には難しいと思われていた。医療機関に支払われる診療報酬や介護サービス事業者に支払われる介護報酬を大幅に引き下げることなく、どこにそのような自然増抑制の手だてがあるのかと疑問視する声は多かった。実際、厚生労働省の予算要求では当初、社会保障関係費について6400億円の自然増が見込まれていた。

しかし、その後の政府の審議会での議論や与党協議などを経て、政府予算案の段階で、約1400億円の自然増抑制が実現した。主な項目では、70歳以上の高所得者の自己負担額上限引き上げ(国費削減額は224億円)、75歳以上の高齢者に対する保険料軽減の特例廃止(同187億円)、高額がん治療薬「オプジーボ」の薬価引き下げ(同196億円)、さらに所得に応じて介護保険料を算定する「総報酬割」導入(同443億円)などがある。

こうした取り組みは、デフレの長期化と少子高齢化の進行で給付と負担のバランスが崩れてしまっている日本の社会保障制度の持続性について根本的な解決をもたらすものではないが、関係諸団体や経済界を説得し、支払い能力に応じた公平・公正な負担、給付の適正化という方向性を改めて強く示せたことは評価できる。

ただでさえ、社会保障関係費は「目安」内に抑え続けたとしても、国費分だけで年間5000億、2年間で1兆円、4年間で2兆円と増えていく(地方費分を加えればその倍)。税収が想定外に落ち込む年度には「目安」以上の削減が必要になることを考えると、小さな抑制策の積み重ねは備えとしても重要だ。

<若者世代の社会保障負担軽減が急務>

また、社会保障分野で高齢者優遇の見直しに踏み込めた今回の政府予算案は、世代間格差是正の観点から見ても、前進だったと言えよう。

振り返れば自民党は、2008年の後期高齢者医療制度導入の翌年に実施された総選挙で民主党に敗北し、野党に一時転落したことから、高齢者の負担増につながる改革にこれまで及び腰だった(実際は高齢者票が流れたことだけが敗因ではないが)。だが、ようやくそのトラウマから解放されつつあるように感じる。

そもそも、全ての高齢者が経済的弱者だとの見方で議論していると、社会保障改革などまったく進まなくなる。若い世代に対して、重い社会保険料負担を強いている事実を忘れてはならない。しかも、収入が課税最低限以下で所得税を免除されている若年勤労者でも、年収の10―15%にあたる社会保険料を納めている。

こうした世代間などの不公平を正す方向に国民を説得するのは政治の役目であり、日本の財政が厳しさを増す中で、今後、その意思が問われる局面が増えるだろう。早速、2018年度予算に向けては、所得水準に加えて、高齢者が保有する金融資産の多寡に応じた社会保障負担の見直し議論も本格化する。

むろん、高齢者だけでなく、勤労世代に対する所得税制の歪み(他の先進国に比べて小さな課税ベース、弱い所得再配分機能)も各種控除の見直しなどによって改めていく必要がある。その意味で、配偶者の年収制限引き上げなど小幅な変更に終わった今回の配偶者控除見直しは残念だったが、これで手じまいにせず、所得税改革を強く推し進めてほしい。いきなり給与所得控除に手を付けるのが難しくとも、公的年金等控除など見直すべきものは多い。

ちなみに、かねてから述べている通り、他の先進国の例に倣って、納税者本人への基礎控除も含めて、所得控除を税額控除に全般的に見直すことが課税ベースの適正化と所得格差の是正に有効だと私は考えている。

<基礎的財政収支の黒字化はなぜ必要か>

話を2017年度予算政府案に戻そう。社会保障分野以外では、どう評価できるのだろうか。まず歳入面の全体像について率直な印象を述べれば、第2次安倍内閣以降は強気な成長見通しに基づく税収増を見込んでいたが、それがもはや期待できない予算案となっている。

税収増が期待できないため、5.3兆円の税外収入をかき集めた。ちなみに、その過半は外国為替資金特別会計(外為特会)の運用益を当て込んだものだが、この運用益は2016年度決算が終わってはじめて確定されるものであり、足元のトランプ相場が崩れれば、当てが外れるリスクもある。

税収にしても、2016年度予算において、年度途中で目算が狂い、第3次補正で減額修正を余儀なくされたことを考えれば、捕らぬ狸(たぬき)の皮算用となる可能性もある。一部には、拡張的な財政金融政策が奏功して経済成長が税収増をもたらすという期待がいまだ根強いようだが、過去4年間のアベノミクスを経てもなお、日本経済の成長率が目標とする「実質2%・名目3%」を大きく下回る状況が続いていることを考えると、説得力に欠ける。

むろん、このように苦しい予算となってしまうのも、巨額の社会保障負担がある中で、介護・保育・未来投資といった政権の看板政策に予算を回すためでもある。そうした政策の重要性は理解できるが、歳出メニューありきで甘い歳入見通しが前提となってしまえば、社会保障改革が進まない上に、「成長のための改革」という美名の下で結果的にバラマキを助長しかねない。あるいは、1つの項目でバラマキとならずとも、各方面の顔を立てようとして、つじつま合わせで、1つ1つの項目が小ぶりで政策効果を欠く恐れもある。

実際、今回も、さまざまな項目で寛容な予算付けをしている印象を受けた。例えば、2017年度予算案に約540億円が計上された保育士の待遇改善策(月給増額など)だ。もちろん、保育士拡充もうまくメリハリをつければ、待機児童問題の解消につながる点に異論はない。ただ、待機児童問題は主に都市部に限られた課題であり、全国で一律的に保育士の給与を上げようとするのは、ナンセンスではないだろうか。むしろ、都市部の保育士により手厚くしたほうが有効となる可能性がある。

残念ながら、日本の財政はもはや大盤振る舞いが許されるような状況にはない。一部には、経済成長せずとも、インフレによって公的債務が実質目減りすれば持続可能だといった極端な意見もあるようだが、インフレが制御不能となれば、戦前ドイツや終戦直後の日本の例を見ても明らかなように、国民が急性かつ激烈な痛みを受ける。デフレが長期化した日本では、高インフレの怖さに対する想像力が欠如しているのではないか。

日本にとっての最善策は、そうした最悪のシナリオを避けることであり、そのためにも2020年度の国・地方の基礎的財政収支(PB)黒字化という目標は達成しなければならない。その意味で最初の関門は、2018年度のPB赤字対GDP比1%程度という「目安」のクリアだ。ちなみに、2017年度予算政府案ではPB赤字は拡大している。目標達成のためには経済成長頼みの財政再建路線と決別すべきだ。

行動は早いほうがいい。2017年度予算についても、夏までに実行できる見込みの立たない予算については、補正であっさりと減額することが必要ではないか。そもそも予算を使い切る必要はない。歳出予算は執行上限額を意味するものだから、無理して消化せず、その分、借金返済など収支改善に回すべきだ。各省庁には、若い世代や将来世代のためにも、歳出削減に向けた小さな努力を自発的に積み重ねてもらいたい。

*本稿は、土居丈朗氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:麻生祐司)

*土居丈朗氏は、慶應義塾大学経済学部教授。専門は、財政学、公共経済学、政治経済学。2009年より現職。現在、行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、社会保障審議会臨時委員などを務める。東京大学経済学博士。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2017年の視点」に掲載されたものです。

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