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視点:2017年も「政高経低」、内向き化の深層=武田洋子氏
2017年1月11日 / 02:11 / 10ヶ月後

視点:2017年も「政高経低」、内向き化の深層=武田洋子氏

[東京 11日] - トランプ米新政権の発足、欧州主要国で相次ぐ選挙、5年に1度の中国共産党全国代表大会など、2017年も大きな政治イベントが目白押しであり、引き続き政治が経済を翻弄する「政高経低」の1年になりそうだと三菱総合研究所・チーフエコノミストの武田洋子氏は指摘する。

その過程で懸念されるのは、米国が保護主義姿勢を強め、それが欧州の政治情勢に波及すれば、ブロック経済化が進み、世界の貿易停滞と経済低迷を招きかねないことだという。

同氏の見解は以下の通り。

<短期では「意外な成功」もあり得る米国経済>

2016年は政治の年だったが、2017年も引き続き政治が経済を翻弄する年となるだろう。米国、欧州、中国のそれぞれに注目点がある。

まず、「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げて船出するトランプ次期米政権による経済運営が世界経済にとって最大の注目点となることに異論はないだろう。

次期米政権は公約通り、インフラ投資や税制改革(減税など)を柱とする財政拡張策をとる可能性が高い。だが、問題は、いつ、どの程度、「現実路線」に舵が切られるかだ。それにより、2017年以降の米国経済、ひいては世界経済のシナリオは大きく違ってくるだろう。

楽観シナリオでは、まず、減税やインフラ投資で景気の押し上げ効果が期待できるが、インフラ投資は極力、基金などを通じた民間マネー活用を柱とする。また、減税は富裕層に対する控除見直しなどにより格差の是正を図りつつ、大盤振る舞いを避ける。

この場合、長期金利は緩やかな上昇にとどまるだろう。投資減税や規制緩和が企業の投資を促し、生産性上昇に資する可能性もある。むろん、外交・貿易・移民政策で保護主義的な言動が実行に移されないことが大前提となる。

他方、悲観シナリオに転じる要素も十分ある。第1に、財政の大盤振る舞いが引き金となり、長期金利が予想外に急騰するケースだ。この場合、金利高とドル高の進行が米国経済を直撃するとともに、新興国のドル建て債務負担の増加や資金流出の加速を招き、新興国経済低迷を介して米国経済が冷え込む恐れがある。

第2に、トランプ政権が保護主義的な言動を全て実行するケースだ。環太平洋連携協定(TPP)離脱はもとより、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉や関税引き上げに踏み切り、個別企業へ次々と圧力をかけることになれば、米国企業も含めたグローバル企業のマインドや、期待先行で動いてきた市場のセンチメントは悪化しよう。米国の動きに他国が反応し、世界的に保護主義化が進めば、世界の貿易停滞と経済低迷を招く恐れがある。また、移民制限は、中長期的な米国の成長力を低下させかねない。

むろん、これらは両極端なシナリオであり、実際には、中間のシナリオが実現するだろう。上ぶれ・下ぶれどちらの可能性が大きいか、就任前の現時点での見極めは困難だが、あえて言えば、短期的には「意外な成功」もあり得るのではないか。

その根拠は、トランプ次期大統領が、良く言えば臨機応変なビジネスマンであることによる。理念や主義に固執せず、経済面で旗色が悪いと見れば、素早く政策を転換し、立て直しを図る可能性は否定できない。

また、政策の実務を担うスタッフに共和党系の官僚・専門家がどの程度入ってくるのか、共和党が過半を占める議会が財政面での大盤振る舞いや保護主義政策を抑える役割を果たすのか否か、その行方も注目される。

<中国成長率目標は「6.5%前後」に修正か>

中国でも、政治動向の見極めが重要となる。先述した通り、2017年秋、5年に一度の共産党全国代表大会が予定されている。政治的に重要な局面を迎え、構造改革路線の本気度が問われることになろう。

足元、中国は投資プロジェクトなどの景気刺激策で経済を下支えしている。だが、地方政府や国有企業に巨額の負債が積み上がり、銀行の不良債権比率も上昇傾向にある状況を考えれば、現在の6%台後半の成長率はとても持続可能とは思えない。

その意味で、まず注目されるのは3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、現在「6.5―7%」としている成長率目標を、現実を踏まえてどこまで落としてくるかだ。我々は、「6.5%前後」に修正するのではないかと見ている。その上で、党の人事が決まる秋の共産党全国代表大会以降に構造改革路線をさらに加速させるのが望ましいシナリオだろう。

構造改革では、過剰投資体質からの脱却に加えて、人民元改革の総仕上げも問われていくことになろう。足元では資金流出(元安)圧力が強まっている。当局は、緩やかな元安にとどめようと元買い介入を継続していると思われるが、外貨準備はすでに3兆ドルまで減少している。どこかのタイミングで、再び人民元の大幅な切り下げに追い込まれないとも限らない。

人民元は昨年10月に、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨に採用されたばかりだ。「人民元の国際化」の流れを逆行させることは難しいだろう。市場によって追い込まれる前に、いかにして人民元の市場化改革への道筋を内外に示すのかという点も構造改革の大きなテーマである。

<失われる「普通の仕事」、グローバル化犯人説の誤解>

ところで、2016年は内向き志向の強まりが明確になった1年だった。その背景は2つ指摘できる。

第1に、金融危機後の先進国経済の回復力が鈍いことがある。先進国経済は、期待成長率の低下などから投資の回復力が鈍く、いまだリーマン・ショック前の水準に戻していない。

期待成長率低下の背景には、やや専門的になるが、金融危機による総需要の大幅な落ち込みが潜在国内総生産(GDP)の低下を招くという「履歴効果」の悪影響が指摘されており、学界でも研究が進んでいる。

第2に、「普通の仕事(雇用)」が急速に失われていることがある。例えば、米国の雇用構造の変化を見るために、横軸に賃金、縦軸に雇用者数をとり、2007年と2014年の分布図を比べると、中から低中程度の賃金を稼いでいる層が減っていることが分かる。

「普通の仕事」が喪失した主因として、グローバル化によって「仕事が奪われた」との見方が強まっているが、真相は違う。経済協力開発機構(OECD)の研究によれば、IT化やロボット化など機械化進展の影響の方が定量的には大きい。

2017年はこうした状況について正しい理解が広がり、労働者のスキル転換を促す教育や転職支援など、本来必要な解決策に関する議論が活発になれば良いが、安易なグローバル化批判がさらに強まれば、世界の内向き志向に拍車がかかりかねない。

その意味で、米次期政権の動向もさることながら、春にフランス大統領選挙、秋にドイツ総選挙を控える欧州の政治情勢には一段の警戒が必要だ。近年、欧州連合(EU)による規制強化や権限拡大が進められる中、難民問題も加わって、自らの主権に対する国民の不安は増しているとみられる。保護主義的な動きが欧州にも波及すれば、ブロック経済が生じる恐れもある。

最後に日本経済に言及すれば、先進国の中では政治的な安定が大きな強みだ。労働市場では、有効求人倍率が統計開始以降初めて全都道府県で1倍以上となったことは注目に値する。地方を含め、IT化・ロボット化など生産性向上を進めることができるチャンスである。企業は労働生産性を高めるために設備投資を行うか、人材確保のために賃上げを行うか、待ったなしの二者択一に直面するだろう。

だが、これまでのところ日本企業の多くが、海外情勢の不透明さや内需の弱さを理由に、設備投資や新規事業開拓に消極的だ。日本の「縮み志向」を「前向きな志向」へと転換するためには、企業はマインドセットの変革に本腰を入れて取り組まなければならない。2017年の世界情勢の不透明感に一喜一憂せず、ぶれずにイノベーションによる社会課題解決に向けて進むことが肝要だ。

*武田洋子氏は、三菱総合研究所のチーフエコノミスト。1994年日本銀行入行。海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2017年の視点」に掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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