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コラム

視点:世界経済、多極化時代の3大リスク=武田洋子氏

[東京 18日] - 2016年の世界経済は、米国経済の着実な成長が中国経済の緩やかな減速をカバーし、漸進的な回復が続くと、三菱総合研究所・チーフエコノミストの武田洋子氏は予想する。

 1月18日、三菱総合研究所・チーフエコノミストの武田洋子氏は、世界経済の多極化が進んでいることで、米金融政策転換や新興国経済減速に伴う市場の動揺がマインドの悪化を通じ、想定以上の景気下押し圧力をもたらすリスクに注意が必要だと指摘。提供写真(2016年 ロイター)

ただ、世界経済の多極化が進んでいることで、米金融政策転換や新興国経済減速に伴う市場の動揺がマインドの悪化を通じ、想定以上の景気下押し圧力をもたらす可能性にも注意が必要だと説く。

同氏の見解は以下の通り。

<緩和マネー巻き戻しの背景に新興国への過度な期待の修正>

2016年の世界経済を読み解くカギは、引き続き「多極化」だ。中国など新興国経済の減速と米国の金融政策転換がここ数年、相互作用しながら世界経済や国際金融市場に多大な影響を与えているのも、米国一極集中からの脱却、すなわち多極化が一段と進んでいるがゆえである。

例えば、量的緩和後の米利上げは未踏の領域なので、影響が読めないという指摘を耳にする。だが、それも裏を返せば、多極化時代の新たな主役として期待される新興国へと量的緩和マネーがふんだんに流れていたからだ。今起きていることは、マネー面の表層現象から見れば巻き戻しだが、その深層部分は多極化の進展に連れて高まり過ぎた、いわば過度な期待の修正でもある。

米連邦準備理事会(FRB)も自国の経済状況だけを見て、金融政策を決めることは、現実問題として、もはやできない。原則は「keep one’s own house in order」、すなわち国内経済の安定を優先することだが、ブーメラン効果は考慮せざるを得ないだろう。

利上げがどのような影響を世界経済に与え、それがどう自国経済に跳ね返ってくるのか。イエレンFRB議長をはじめとする米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーも、今後の利上げペースを判断する際にその部分を見極めようとするはずだ。

<米経済は内需主導で2%台後半の成長見通し>

では、2016年の世界経済はどうなるのか。メインシナリオとして、世界経済が好不況の分岐点である3%をやや上回る成長は維持すると見ている。国際通貨基金(IMF)の15年10月時点の世界経済予測によれば、16年の成長率は3.6%と、15年の3.1%から上昇する見通しだが、その予測よりはやや慎重な見方になる。

メインシナリオの大前提は2つある。まず、中国経済の減速は続くだろうが、政策総動員で6%台半ば程度の成長率を維持すること。そして、米国経済が15年の2%台半ばより強い2%台後半の成長を実現することである。

米国経済に関しては、最近、弱めの指標も散見され、景気が成熟期に差しかかっているとの見方もある。確かに、ドル高や新興国経済減速が米国経済にボディーブローのように効いてきているのは事実だろう。米供給管理協会(ISM)が発表する製造業景気指数が15年11月に続き12月も改善・悪化の分岐点である50を割り、景気後退の最中にあった09年6月以来の水準まで低下していることは、そのことを示唆している。

もっとも、米国の名目国内総生産(GDP)に占める製造業のウェイトは10%程度にとどまる。実際のところ、同国経済における雇用と消費拡大の好循環を主導しているのは非製造業だ。ドル高と新興国経済減速は米国景気の重石にはなるものの、成長を途切れさせる決定的な要因にはならないと考えている。

多極化が進んだとはいえ、米国経済は世界の名目GDPのおよそ2割を占める。その第1の経済大国が2%台後半の成長を実現すれば、世界経済の緩やかな成長は続くだろう。

<新興国リスク、侮れない心理的インパクト>

ただし、気を付けるべきリスクは3つある。まず、原油安の影響だ。資源・新興国経済の一段の下振れは避けられない。財政面で余裕がなくなった資源国の一部は、金融資産の売却を余儀なくされている模様だ。米国では、原油安は消費中心にプラス効果をもたらすが、同国のシェールガス・オイル事業者がどこまで価格下落に耐えられるのかは不透明だ。内外からの同セクターへの投資が減退するなどして(あるいはエネルギー関連の株式やハイイールド債がさらに値崩れすることで)、米国景気に想定以上の下押し圧力が加わる可能性は否定できない。

第2のリスクは、中国経済の減速スピードだ。5%台に失速するようなことがあれば、世界経済の3%割れは現実味を増す。

中国経済のメインシナリオは政策総動員によるソフトランディングだが、中央政府がいくら刺激策を打って背中を押しても、財政赤字を抱えた地方政府が投資に踏み出せず、政策効果も限定的となり、もともと抱えている構造問題に起因する景気下押し圧力が一段と強まる恐れがある。

特に、民間部門(非金融部門)の債務残高がGDP比で200%程度まで膨れ上がっていることは気がかりだ。中国の貯蓄率は高いから心配ないとの声もあるが、それはバブル崩壊後の日本も同じだった。バランスシート調整と不良債権問題が深刻化すれば、ハードランディングリスクを高めよう。

3つ目のリスクは、新興国経済の減速や地政学リスクを契機とする金融市場の不安定化だ。昨夏の中国株下落を契機とする世界同時株安はまさにその最たる例である。

年初来急落している中国株は引き続き震源となりそうだ。さらに、経済ファンダメンタルズが脆弱で、政治リスクが高まっているトルコ、南アフリカ、ブラジルなど他の新興国動向からも目は離せない。中国やその他新興国株価の下落は、その国の実体経済に直接深刻な影響を与えるわけではないが、心理面でのインパクトは侮れない。投資家や経営者のマインド悪化を通じて世界経済の足を引っ張るルートに注意が必要だ。

<日本経済は今年も低空飛行へ、攻めの投資が必要>

実際、このルートが顕現化した分かりやすい例が15年の日本だ。消費者のマインドは14年後半から15年前半にかけて明らかに改善傾向を示していた。ところが、15年春先以降、中国経済の減速や新興国市場の動揺が伝えられることが多くなると、企業と消費者のマインドがともに後退。高水準の企業収益と良好な雇用環境が続いたにもかかわらず、設備投資、消費がともに想定を下回る結果に終わってしまった。

16年の日本経済の見通しについて言い添えれば、潜在成長率を若干上回る程度の緩やかな成長となろう。16年度の実質成長率で言えばプラス1.4%だが、そのうち0.3%程度が17年4月の消費増税前の駆け込み需要に伴う上乗せ分であり、実際はプラス1%程度の低空飛行が見込まれる。

研究開発を含めた民間投資の拡大は、日本経済にとって非常に大きな課題だ。企業収益は過去最高水準、キャッシュフローも潤沢であり、財務体質も強化されている。本来ならもっと投資意欲が高まるはずだが、各種アンケートで見ても、経営者はどこか現状に満足し、安住している面は否めない。

多極化でグローバルに儲けるチャンスが増えているのは事実だが、研究開発拠点であるマザー市場のテコ入れや新市場開拓への取り組みを怠れば、将来的な競争力の低下にもつながりかねない。日本企業の経営者には、ビッグデータやモノのインターネット(IoT)など新たな生産性革命の波に乗り遅れないように、「攻めの姿勢」を取り戻してもらいたい。

*武田洋子氏は、三菱総合研究所のチーフエコノミスト。1994年日本銀行入行。海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2016年の視点」に掲載されたものです。

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