January 24, 2018 / 1:25 AM / 7 months ago

コラム:ユーロ改革の「敵」は成長か

[15日 ロイター] - ほんの少し前には病床にあった欧州通貨同盟だが、極めて健全な状態で2018年を迎えた。ユーロ圏の景況感は約20年ぶりの高水準となっており、破竹の勢いはまだ続きそうだ。

 1月15日、欧州通貨同盟は、極めて健全な状態で2018年を迎えたが、そこにはありがたくない副作用も伴う。写真は2015年5月撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

しかし、そこにはありがたくない副作用も伴う。ユーロ圏経済が好調であればあるほど、欧州の政治家にとっては、将来の危機を予防するための方策を求める圧力が弱まってしまうからだ。

景気回復は、統一通貨に対する人々の支持を高めるという意味で歓迎されている。しかし、欧州中央銀行(ECB)による金融緩和政策によって育まれた好景気のせいで、政治家は統合深化に伴う困難な決断を先送りしたいという誘惑に駆られている。

19カ国で構成される通貨連合には、通常の国家であれば通貨の基盤となるべき同一の財政・政治的な基盤が欠けている。その代わり、共通通貨に伴う厳格な財政規律に対応できる「北」の諸国と、対応が困難だと感じている「南」の諸国とのあいだに格差が生じている。

ECBは超緩和的な金融政策で体力の弱い国々を救済しているが、これは一時的な猶予措置でしかない。

改革前進に向けた貴重な機会が訪れたようにみえたのは、昨年のフランス大統領選挙で、ユーロに懐疑的なポピュリスト勢力を破り、エマニュエル・マクロン氏が勝利を収めたときだった。

マクロン仏大統領は、さらなる欧州統合に向け、仏独両国の連携を強化したいとの姿勢を明らかにした。欧州債務危機が最悪の状態にあった2010─12年頃には、優れた経済力と財政健全性を背景にドイツが主導権を握っており、2国間の連携は後退してしまっていた。

マクロン大統領が具体的に提唱しているのは、ユーロ圏全体として予算・財政担当大臣を置くことだ。これは実質的に、通貨同盟を支える財政同盟の基礎となるものだ。

だが、フランスが改革エンジンを再始動しつつある一方で、ドイツではユーロ圏改革が政治的な主要課題から外れてしまっている。

9月に行われたドイツ総選挙で、メルケル独首相の率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が予想以上に振るわず、得票率は1949年以来の最低水準に落ち込んでしまった。11月には、メルケル首相による連立政権樹立に向けた最初の試みが、自由民主党(FDP)による突然の連立交渉離脱により頓挫してしまった。

今月行われた予備的協議で重要な進展が見られたことで、メルケル首相の在任12年のうち8年間を共に政権を担ってきた中道左派ドイツ社会民主党(SPD)と再度連立を組む可能性が視野に入ってきた。

だが、依然として障害は残っている。

最終的な連立合意はSPD党員による承認を受ける必要があるが、メルケル首相との連携で同党に対する有権者の支持が低下したと考え、これ以上の連携に反対している党員は多い。

欧州志向の強いSPDが腹をくくってメルケル首相が主導する連立政権に参加したとしても、マクロン仏大統領が目指すユーロ圏改革が予想以上に前進する可能性は低い。

 1月15日、欧州通貨同盟は、極めて健全な状態で2018年を迎えたが、そこにはありがたくない副作用も伴う。写真は2017年12月、パリの大統領官邸で演説するマクロン仏大統領(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

メルケル首相はもちろん、EU離脱を決めた英国民投票に端を発するポピュリスト勢力の反乱による「分断リスク」から欧州を救った、マクロン大統領と連携したいと表明している。だが彼女の反応は、真心からの交流というよりは、ポーズに近い可能性が高い。

メルケル首相は結局のところ、欧州債務危機のあいだ、通貨同盟を支えるためのドイツ国民の負担を最小限に抑えることに多くの時間と労力を費やしてきた。ユーロという試みに対する国民の支持を維持するには、彼らの負担を抑えることが不可欠だと認識していたからだ。

彼女は、通貨同盟全体で債務を共同負担するユーロ債を発行するアイデアに強く反対していた。ドイツの政策担当者や有識者らは依然として、ユーロ圏は財政同盟が存在しなくても機能すると主張している。

財政の絆を強化するためには、実質的に政治面での同盟も必要になるだろうが、一部の国では、EUの諸条約に必要な修正を加えることに国民が反対し、そうした試みは失敗に終わる可能性が高い。

結果として、何らかの改革が行われるとしても見かけ倒しのものになりそうだ。最も可能性が高いのは、欧州安定メカニズム(ESM)の見直しだろう。だが、ESM創設時に確保した資金を放出することに対する各国の拒否権を奪う試みには、ドイツが抵抗する公算が高い。

実際には、現段階でユーロ圏が実施可能な改革として最も実現性が高いのは、欧州債務危機が最高潮に達した2012年半ばに着手した銀行同盟を完成させることだろう。

この取り組みはまだ進行中だ。この仕組みの最も重要な部分は、統一的な銀行監督当局を創設することであり、この任務はECBに委ねられた。また、経営危機に陥った銀行に対処し、混乱を招くことなく破たん処理を行うための新機関も創設された。だが、正真正銘の銀行同盟となるために不可欠な要素である、共通の預金保険システムについては、まだ構想段階にとどまっている。

預金保険システムが未導入という事実自体が、改革推進を阻むハードルを示す好例だ。「北」の諸国は、体力に劣る「南」の諸国の銀行が破たんした場合、自国の預金者が救済資金を負担することになるのではないかと懸念している。ドイツ連銀のバイトマン総裁など政策当局者らは、不良債権に悩む銀行のための共通保険などあり得ないと主張する。

しかし、不良債権処理を加速させようというECBの取り組みは、特に過大な不良債権を抱えるイタリアで激しい抵抗にあっている。イタリア当局側では、不良債権処理を急ぐことで、ようやく最近勢いを増してきた景気回復に水を差すことになりはしないかと警戒している。

銀行改革を完了することはなるほど困難だが、財政同盟に向けて動くとなると、さらに道は険しいだろう。イタリアの政治家が不良債権処理という難題に手をつけたがらないのと同様に、ドイツとオランダの政治家は、潜在的にせよ、これ以上財政的な犠牲を払うよう自国民に求めることを嫌がっている。ユーロ圏が崩壊の危機に瀕しているかにみえた時期でさえ、そうした要求は難しかった。すべてがうまく行っているように思える今日では、いっそう困難である。

痛みを伴う改革のための時間がECBに与えられたかもしれないのに、政治家がグズグズとその猶予を無駄にすることは、今回が初めてではない。

1999年のユーロ導入から最初の10年間、信用拡張ブームによって数々の欠陥が覆い隠される中で、政治家たちは制度設計上の問題にまったく取り組もうとしなかった。

厳しい現実を言えば、欧州の制度構築は、大陸が危機を迎えているときに実現する傾向が見られる。その意味で、経済成長は「改革の友」というよりも、むしろ敵なのである。

*筆者はエコノミスト誌の元欧州経済担当エディター。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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 1月15日、欧州通貨同盟は、極めて健全な状態で2018年を迎えたが、そこにはありがたくない副作用も伴う。写真は12日、記者会見に臨むメルケル独首相(2018年 ロイター/Fabrizio Bensch)

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